第3話 社交界デビューでの出会い
それから一年とちょっと、社交シーズンを迎えお披露目もかねてイベルテの家族と一緒に王城で開かれる最初のパーティに参加する。
そこには当然ノース兄さんもついてきて、カチコチに緊張している俺の型をぽんぽんと優しく叩いてくれる。
「あはは、キルト大丈夫だよ。みんなデビューしたての子供を取って食ったりしないから」
「大人になるって怖いんだなあ……」
「嫌味のいなしかたや社交辞令を覚えればすぐさ。イベルテちゃんも緊張しないで? せっかくの美人が台無しだよ?」
「は、はい……」
ギチギチに緊張して小さなドレスのスカート部分を持ち上げるので精いっぱいの様子だ。笑顔がどこかぎこちない。
そんな俺たちのところに、三人の美少女が歩み寄ってくる。
「視ない顔ですけど、もしかして、あなたも今日社交界デビューですか?」
「ボクは見たことないよ。同じデビューとみて間違いないだろうね」
「あたしも見たことないかなー。っていうか、三人みんなデビューなのに知ってたら怖くない?」
三人は顔を見合わせたり俺たちの顔を見て協議している。今、一応の結論を得たみたいだけど。
この三人のことは知っている。
右から大商人の娘、サリナ・エンハンス。赤い髪に赤い瞳をしている。
次は隣国との戦争を終わらせた英雄の娘、ターニャ・シベンブルク。爵位は男爵だが異彩を放つ銀色の髪は見るものを引き付ける。
最後は魔術に長けた家系の子爵家、アルトリア・モルジガンド。将来は大魔術師として主人公、カイン・エールゴードンを補佐する。
そんな可憐な彼女らが一堂に会するととてつもなく眩しい。ゲームでも十分綺麗だったが、実物はとてつもなく美少女しててびっくりしてしまう。
なんと言ったものだろうか。別に口説くつもりもないし、ただ実物を愛でられればいいのでここは普通に自己紹介しておこう。
「えーっと、俺はアルクライ伯爵家子息、キルト・アルクライだ。よろしくお願いします」
「ちょ、キルト! ……イベルテ・グルモントです。どうぞお見知りおきを」
イベルテがカーテシーをすると、三人もまたカーテシーを返す。社交界に来るくらいだから最低限のマナーは教えられているようだ。
「わたしはサリナ・エンハンス。父が事業に成功して、もうそろそろ爵位をもらえそうなんです。なので、今日は父と一緒に社交界に……」
「ボクはターニャ・シベンブルク。よろしくね。剣のことなら誰にも負けないよ!」
「代々宮廷魔術師を
「これで自己紹介終わったよね?」
「終わりましたね」
「そうと決まれば……」
なんだなんだ、何が始まるんだ。三人は俺たちを取り囲むと、手を差し出してくる。
「一緒に遊びませんか? こう、子供三人でいろいろ見ているうちにま……ごほん。両親が見当たらなくなってしまって」
「迷子になったって普通に言えばいいじゃん」
「そういうことだから、探すの手伝ってほしいんだー。だめかな?」
社交パーティにほぼ一般市民がやってきて浮かれて迷子。あるあるだ。しかもここ王城だから大声で探し回るわけにもいかない。三人と親睦を深めるためにも、この誘いは乗ったほうがいいだろう。
「俺はいいけど……。イベルテは?」
「私は、キルトがいいなら」
「あれ、もしかして婚約者だった? だったらお邪魔しちゃったかも?」
ターニャがにやにや笑いながらからかってくる。それに対してイベルテは顔を真っ赤にさせてぶんぶん首を振る。
「ち、違うもん! キルトとは幼馴染で……その、婚約とかは、違うっていうか……」
「でも好きなんじゃないですか?」
「す、すすすす、好きだなんて! もう、からかうのもいい加減にしてください!」
イベルテが真っ赤になりながら涙目になって反抗する。
気持ちはわかるが、そこまで言われるとちょっと傷つくな。言わないけど。俺は平穏な日常さえあればいいんだ。
「ははは、イベルテ、そんなに否定しなくてもわかってるよ。俺たち、幼馴染で友達だもんな」
「えっ。う、うん……」
今度はもじもじし始めた。どうしたっていうんだよ。
「あーあ。やらかしちゃったねー」
「何がだよ」
「ふふふ。秘密ー! ささ、美味しいもの食べながら探そう?」
アルトリアはゲームに違わずお調子者だ。でも決めるときは決めてくれる、頼れる女の子なのだ。
三人の両親がいそうなところ……。俺は魔眼を解放し、この部屋の中を分析し始めた。
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