第13話 林間学校へ
一年目の夏。やることは目白押しだ。
この学園は王都のすぐ近くの森に別荘を何個か持っている。それを改築して合宿所として作り直したのがこれにあたる。
大きなプールもあり、ここで水泳の授業を受けることもできる。清掃は学園が雇った清掃員がすでに行っているので安心である。
この近辺には魔物は出ない。王城にいる聖女様が結界を張ってくれていて、この別荘はその結界内にある。よほどのことがない限り安全というわけだ。三年前に出た鬼は魔王が送りこんで結界を破壊したものだと思われる。
この林間学校もギアーズオブデスティニーのイベントの一つで、各キャラの好感度を上げるイベントだ。
一人だけでなく複数上げることができ、誰を上げるも自由。でもあまり構いすぎないと下がるので注意だ。
「ほら、遠足気分はそこまで! 林間学校なんですから、授業の一環です。今回は親睦を深めてもらうのとは他に授業がありますから、きちんとするんですよ!」
女性教師が枝タイプの杖を三拍子の感覚で地面に座らされている俺たちを差す。すると、一人の生徒が
「せんせー! 授業ってなんですか!」
「いい質問ですね。今回はこの合宿所に三日泊まって学習します。一日目は座学。二日目は実戦戦闘を想定した訓練になります。これも学園側でセーフティがついている武器を支給しますので安心するように」
「えーっ、またセーフティですかー?」
「そうしないと、自分が危険な存在であるということを忘れるでしょう? 武力はしかるべき時に使うもの。ああ、あと今回は寮と違って男女は別ですよ。そういう設備しかないのですからね」
「ちぇーっ」
今思ったけど、いくら隣の部屋があるからといって寮と同じじゃないのならまたカインと一緒になるのだろうか。今回は男女別らしいから仕方ないけど。
生徒たちからのブーイングを無視するように、女性教師は話を続ける。
「三日目はご褒美で、一日遊びに費やします。学園側の目の届く範囲でなら、危険な遊びではない限りはどんなふうに遊んでも構いません。以上、質問のある子は?」
「はい!」
「なんでしょう」
「魔法は使っちゃいけないんですか?」
「いい質問ですね。炎魔法は厳禁です。推奨は水魔法ですかね。でも、熱いからと言っても風邪をひくと大変ですから、ほどほどに。それに本来の目的は自然と触れ合うことですからね。それを忘れないように」
質問した生徒がはーいと言うと、教師は両手を叩く。
「各自鹿の煮物とステーキ、そしてライスの準備品を持たせましたね? それを各自寮に置いてくること。それから中央にある大きな合宿所で座学を開始して、夕方になったら調理場に行って自分たちで調理するのですよ。さ、今回は同性同士なら好きなように組んで構いません。先生は先に座学の合宿所に向かっていますからね」
それを聞きながら、俺はカインからじりじりと距離を取っていた。
いや、だってこいつ放っておいたら絶対同室希望してくるじゃん。危ないじゃん。いや別に危なくはないんだけどあの五人に勘違いされたくないし。
あれ、これまるでとある台詞をほうふつとさせるな……。考え事をして一瞬動きが止まったときだった。手首をカインに掴まれたのは。
「ヒェッ……」
「そんなに嫌?」
「嫌ではないんだけど、林間学校でまでカインを同じ部屋は……」
「僕は落ち着くけど」
「んんんん」
この天然人たらしめ。その話術でどれだけの女子を落としてきたんだ。言え!
……などと言えるわけもなく、俺は引きずられるようにして男子専用の合宿所の一室に入っていった。
元は別荘というだけあって綺麗で、セミシングルのベッドが二つ並んでいる。俺たちは荷物を置いて座学が行われる中央の合宿所へ向かい座学を受けた。
問題は学校とは違う環境なのを考慮してかいくらか簡単だった。俺でも悩まない問題だ。他の座学が苦手な子もあまりストレスなく勉強ができただろう。
夕方になれば、ご飯タイム。みんなこぞって鹿の肉や野菜、まだ研いでないライスを持ってきて調理場へ向かう。
「キルト!」
この上品な声は……シルヴィか! ようやく女の子とまともに接触した気がする。
「シルヴィはここの合宿所から近いの?」
「ええ。ほぼ隣と言っても過言ではありませんわ。カインも元気そうで何よりです」
「殿下、お会いできて光栄です。他の四人は……?」
「ああ、それなら」
言いかけた背後から、聞きなれたイベルテの声が聞こえてくる。
「シルヴィ殿下! ずるいですわ! 一人だけ荷物を持たないで行ってしまうなんて!」
「あ、キルトとカインだ。やっほー!」
「また二人で組んでるの? 飽きないねー」
「アルトリアちゃん、失礼だよぉ……」
アルトリアは相変わらずマイペースだ。これが未来の賢者様だなんて知ったら、みんなどんな反応をするんだろう。
「みんなも調理場へ?」
「ええ。どうせなら五人みんなで食べようって話になって。あの……キルト、よければ一緒に食べない? そのほうが人数も増えるし楽しいでしょ」
願ってもない申し出だ。女の子と夏の夜にキャンプみたいにして食べる飯は最高だろう。ただ、一人お邪魔虫がいなければの話なのだが。
「それ、僕も行っていい?」
「カインも? ええ、いいわよ。キルトの友達なら断る理由ないし」
そこは! 断ってくれ! 俺を置いていかないでくれ!
そんな心の声が届くはずもなく、イベルテとカインは仲睦まじく話ながら調理場へ向かっていった。
「美男と美少女。様になるね~。うん、負けた。だからボクはキルトと行く」
「いやですわターニャ。キルトはわたしと行きましてよ」
「あー。そうやって仲間外れにするんだ。キルトはあたしと行くんだよ」
「あの……みんなで一緒に行けばいいと思います……」
サリナが正論を述べて一触即発の空気は多少霧散した。
「それもそうね。キルトはみんなのものですし」
「そうそう。というわけで、みんなで仲良く行こっか」
ターニャに手を握られる。その反対側をアルトリアがとり、その二人の隣にシルヴィとサリナが手を繋ぐ。
そうして俺たちは晩飯を作るべく、多少歩きにくい思いをしながら俺たちは調理場へと向かっていった。
到着するなり五人で手を繋いでいることをイベルテに怒られたが、あれは俺にもどうにもできなかったと思う。
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