第12話 仁義なき女の闘い

 上の階にボクが戻ると、みんな集まってボクの帰りを待っていたようだった。みんなどことなく目が血走っている。怖い。


「そ、それで。キルトはなんて?」

「わたしも気になりますわ」

「いけないとわかっていても、カインくんの前で聞くわけにはいかないですもんね……」

「ええい! もう待てない! ターニャ! キルトは私たちの中で誰が好きなの!?」


 全員肉食系すぎるよ……。ボクも人のこと言えないけどさ。


 この世界には珍しい黒髪黒目。姿は中性的で、男女問わずモテるキルトの好意を射止めるのは難しい。今日だって別の女の子に気があったことが判明したわけだし。


 キルトはボクたちという存在を友人か何かと勘違いしている。ボクたちは腐っても女の子で、三年前のあの日からずっと恋焦がれてきたのだ。他の女の子を見るなんて許せない。


 そうして、ボクたちは放課後集まり、ボクとサリナのすぐ下の部屋がカインとキルトの部屋なのを利用してキルトが一人になったタイミングで聞き出すことにした。


 結果は……惨敗だったけどね。


「みんな、落ち着いて聞いてほしい。キルトはボクたちのこと、まだ友達だと思ってる」

「な、なんですって……」

「こんなに殿方にアプローチするのは初めてですのに、まったく届いていませんの!?」

「そんなの、あんまりです……。私たちはこんなにキルト様のこと想ってるのに」

「あたしたち、そんなに魅力ないかなあ……」


 アルトリアがまだまっ平な自分の胸を見下ろす。残念ながらそこには膨らみはほんのわずかにしかなく、体自体が子供だということを主張してくる。


「ねえ、私思ったんだけど」

「どうしました? イベルテ様」

「お風呂の中で揉むと大きくなると聞いたわ」


 その言葉に衝撃が走る。


 イベルテ様、揉んで大きくしてキルトの気を引くつもり……!? 残念だけどその手に乗る人なんて……。


「キルトの気が引けるなら、やらないわけにはいきませんわね」

「万が一のために着替えも持ってきてあるからね」

「みんなでお風呂に入りましてよ!」

「えっ、ボクはいいよ!」

「そんなこと言って、キルトの気を引きたかったくせに」


 みんなにずるずると引きずられて脱衣所に連れていかれ、あれよあれよという間に脱がされてお風呂の中に入れられる。


「なっ、なんっ……!?」

「全員では入れませんわね。わたしは後でにしますわ」

「ボクさっきお風呂入ったばっかりなんだけどー!?」

「ターニャちゃん。おっきくしてあげるね」

「ちょ、ちょっと待って。話せば、話せばわかるから」

「効果があったか報告してくださいましね」


 風呂場のドアが無情にも閉まる。サリナは両手をわきわきさせてにじり寄ってきた。ど、どうしよう。ボク、どうなっちゃうの?


「大丈夫、優しくしますから」

「名にその言葉!? どこで覚えてきたの!? ちょっ……あははははは!」


 気持ちいいとかよりくすぐったさが勝って笑ってしまう。女の子同士のじゃれあいだからだからかな? 気持ちいいというよりくすぐったくて笑い声が漏れていまう。


 サリアはむう、と頬を膨らませてボクに迫ってくる。


「これじゃ実験になりないです」

「まず実験しようって言うのがおかしい気が……あははは! だめ、そこはくすぐったいから! あはははは!」


 笑ってばかりのボクに嫌気がさしたのか、サリナはぷうーっと頬を膨らませて手を止めた。


「ターニャちゃんはキルト様に振り向いてほしくないんですか?」

「それは……。だ、だけど、女の子同士でこんなことするのはさすがに異常だと思う……」

「……じゃあ、私が自分で揉みます。おっきくなったかどうか見ていてください」


 どうしてそうなった。やめるという選択肢はなかったのか。何がみんなをそこまでかき立てるんだ。


 最初は順調だったが、やがてサリナもくすぐったくなってきてきたのか口から笑い声が漏れ始める。ほら、やめとけばいいのに。


「どうしてここでくすぐったくなってくるんですか!?」

「ボクに聞かないでよ。だからやめようってこんなこと」

「いいえ! ぼいんぼいんになってキルト様を悩殺するのです!」

「その根性はいったいどこから来るんだ……」


 そのうちボクたちの笑い声を聞きつけた三人がやってくる。


「で、どうですの? 大きくなりました?」

「くすぐったいだけで全然だめだよ」

「くっ……。こうなったら、プランBよ」

「なにそれ……」

「外堀から埋めるというわけです。もうそろそろ林間学校が始まりますわ。その三日目の自由行動で誰がキルトと二人っきりになれるかで勝負しましょう」


 ごくり。その場の全員が唾を飲む。


 有力候補は絶世の美貌を持つシルヴィ殿下だ。やっぱりこの美貌は何物にも代えがたいし、アメジストの瞳でじっと見つめられると同じ女でもどきっとしてしまうことがあるくらいだ。


 次点で幼馴染であるイベルテ。やっぱり赤ちゃんの頃からの絆というのは強い。友達感覚でいるキルトが向こうから声をかけてきそうで恐ろしい。


 ボクは……ボクはどうすればいいんだ? ドレスなんてガラじゃないし、男装をしていたほうがしっくりくる。でも、他の女の子はドレスを着て行くだろう。キルトを取られるくらいなら、ボクは……。


「と、とにかく。湯冷めしちゃうからサリナ、一緒にお風呂に入ろう? 他のみんなは部屋で待ってて。すぐあがるから。殿下も、少しお待ちいただけますか?」

「ターニャにしては前向きね。何かあったの?」

「べ、別に? ほら、サリナも服脱いで。さっさと洗っちゃうよ」

「え、う、うん」


 サリナが頷いたと同時に風呂場のドアをパタンと静かに閉める。そのあとは少しゆっくりサリナとお風呂を楽しんで、イベルテが氷魔法で部屋を冷やしてくれていたみんなのところに戻る。


 ボクだって女の子だ。他の誰にも負けるつもりはない。

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