その男、絶食系…のはず。

橘しづき

第1話 ◯◯系男子


 柚木透哉は、女の影が全くないことで有名だった。


 私とは三歳離れた二十八歳。とにかく仕事が出来て、営業部のエースだった。営業部に所属されてからすぐに頭角を現したようで、社会人一年目の時点で周りから一目置かれていたようだった。


 端正な顔立ちをしていて、キリっとした目元は時折威圧感を覚えることもあるが、笑えば一気に顔立ちが幼くなり、女子社員たちは表情を緩めた。仕事中は厳しくしっかり自分の意見を言うが、決して驕ることなく誰の話でも聞き、信頼度も厚い。


 文句のつけようがないスーパーな男なのでとにかくもてまくっていたが、女の影はゼロ。


 めちゃくちゃ美人で有名なあの子も、スタイル抜群で男たちに見られまくりのあの子も、柚木透哉に近づいては玉砕しているらしい。だが、結婚は勿論、彼女もいないのは確か。


 恋愛対象は女ではないんじゃないか、という噂まで流れ始め、誰かがそれを遠回しに聞いた。彼は笑いながら答えた。『恋愛対象は男じゃない』と。


 女が好きなはずなのに、彼女は作らない。というわけで、柚木透哉はこう結論付けられた。『絶食系』なのだと。


 〇〇系男子、とは一体いつの時代に生まれた言葉なのだろうか。有名な物は草食系、肉食系だ。だが実はそれ以外にも、ロールキャベツ男子だとか、雑食系男子だとかも色々あるらしい。


 その中の一つが絶食系。つまり、食べない。


 恋愛そのものに興味がない男性をさすようで、案外多いのだとか。彼はきっとそれに違いない、と女性社員の間で噂が回り、今ではすっかり定着してしまっている。



 さて、そんな絶食系で有名な柚木さんと、今不思議な話をしている。


「よし、とりあえず俺の彼女になればいいんじゃない」


 にっこりと笑って、目を真っ赤に染めた私にそう言ったのだ。



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