変態は一日にしてならず
『するかい』の言葉に僕はお腹のあたりに力を入れて、
「……します」
「えっするのかい?」
自分で誘ったのに、心底驚いた顔をしてわかばさんは僕を見た。
「はい、します」
「ちょっと待って、きみが? 本当にできるのかな?」
「あなたが誘ったんでしょ」
顔を赤らめ、その顔を僕に見られないように手で隠す。こんな初心な反応ができることに驚いた。
「そうなると心の準備がぁ」
消え入るような声でつぶやく。
僕はわかばさんの肩に手を伸ばす。
狭い部屋の外では、踏切の音が聞こえてきて、二人の静寂の中にずしんと響く。
「ほら早く始めますよ、マッサージ」
「ふぇっ」
わかばさんが気の抜けた声を出した瞬間に僕は彼女の身体をくるっと反転させ仰向けにすると、勢いのままに背中を指圧した。
「はぁあぁぁあぁ」
絞り出たような声が彼女の身体から出てきた。
「意外と身体こってますね。毎日部屋でなにしてるんですか?」
「ひどいねきみも」
わかばさんにしては珍しく曖昧な反応だった。
「どきっとしました?」
「どきっとなんかしてないさぁ、だってよしくんはビビりだからねぇ」
「そのわりに顔が赤かったですよ」
「うるさい、口を動かさずに手を動かしたまえよ」
わかばさんはいつもの口調に戻って、開き直って命令する。
「……今日はどうだった?」
「何もありませんよ、平和でした」
「本当かい?」
「本当です」
今日の感想を聞かれても本当に何事もなく平和に仕事が終わり、こうして彼女のマッサージをしている。
「あぁでも今日出張の命令が下りました」
「出張? どこに?」
「沖縄です。水曜日から二泊三日の。学会に参加しろと言われました」
「なんだって!」
これまで抜けたような口ぶりだったのに急に声を荒げた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます