まだ理性が勝つ

 宿代わりにしていた漫画喫茶の個室に戻ってくる頃には僕の酔いはさめていて、つい数分前におきた状況を理解できるようになると手が震えてきた。


 こんな時代だ、もし万が一があって懲戒免職、いや性的暴行で訴えられたら僕の人生は今度こそ終わってしまう。


 もちろん鹿角さんがそんなことをする女性だと思っているわけではないが、もしあの時鹿角さんが寝落ちしなかったら、僕は抗えなかったかもしれない。


 しかしながら。


 僕は胡坐をかいて自分のイチモツを触ってみた。あれだけ身体が興奮しても息子がぴくりとも反応しないなんて、もはやそっちの方が恐怖であった。


「わかばさんがだらしなくて反応しなかったからじゃなかった」


 と同時に安堵もあった。


「これでわかばさんだけじゃなかったってことはわかった」


 鹿角さんは真面目で勤勉で魅力的な女性だ。そんな人の胸を触っても反応しないなら、問題は百パーセント自分にある。


 自らのおっぱいを触らせているにも関わらずうんともすんとも言わぬイチモツを見てがっかりするわかばさんが残念な気持にならなくても良いのだ。


 わかばさんに出会わなければ今の僕はなかった。


 それを思えば、多少のだらしなさとか、僕の給料を勝手に使ってしまうとか、その他もろもろの暴挙も多めに見てもバチはあたらないだろう。


「もう明日帰るのか」


 月曜日は会社から振替休日をもらっている。


 帰ったらわかばさんにお土産を渡して好きな料理を作って、それからのんびりすごそう。


 僕は個室に常備されたタオルケットに身を纏って目を閉じた。

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