やっちゃえばいいじゃん人間だもの

 シャツのボタンを外す手が震えてる。


 僕は彼女の体重を身体に感じながら、おぼつかない手つきでシャツを脱ぐまでの様子を眺めていた。


 瞼を閉じ、アルコールと恥じらいと緊張で頬を赤らめながらブラジャーのホックを外すと、僕の身体の上にするりと落ちて来る。


 意図的に隠されていた乳輪の先が存在を主張するように丸くたっている。


「……よう」


「鹿角さん?」


「どうしよう」


 不安そうな声を漏らし両手で顔を隠した彼女に僕は視界が狭くなっていくのを感じていた。


「どうしたの?」


「……ここから先どうしていいかわかんない」


 少し横に顔を逸らす鹿角さんの息遣いがだんだんと荒くなっていく。


 酔った勢いで押し倒したはいいものの、これからどう展開していけばいいのか分からないまま、酔いが冷め始めこのままではパニックを起こしそうなそんな気がした。


「……鹿角さん」


「どうしよう、ここから先わかんないよぉ」


 顔を真っ赤に染めながら泣き出してしまった彼女はなんともいたたまれなかった。僕は起き上がり鹿角さんの身体を抱きしめる。


「大丈夫?」


「……」


 僕が想像していたよりも彼女身体は硬直していて、沖縄の夜には似合わないほど冷たく感じた。


「……うんっ」


 それからどれくらい見つめあっていただろうか、時間にしては一分かその程度だった気もするが、彼女の身体は氷から水に変わるように女性本来の柔らかさを取り戻していった。


「……ハァ」


 入社して半年ほどたつが会社の人間とこんなに見つめ合ったのは初めてだ。いつもはつり目気味の彼女の目じりが下がり、瞳は催眠術にでもかかったかのようにとろんとしている。


「立花さん」


 彼女が僕の名前を呼んで、唇を合わせてきた。


「……んっ」


 僕の右手は鹿角さんの乳房に触れていた。指先から彼女の鼓動が速くなっていく。


 もう鹿角さんの身体は僕を受け入れる準備ができたように、脱力しきっていた。


『頼むよぉ、早く帰ってきておくれよぉ』


 ハッとした。耳元でわかばさんの情けない声が聞こえた気がしたのだ。


 ――僕はなにをしてるんだ。


 酔った勢いで同僚と関係を持とうとするなんて、僕はどうかしていた。そう理解した瞬間に酔いは一気に冷めた。


「ご、ごめんなさい! 鹿角さん僕やっぱり……」「すぅぅぅ」


 心地よい寝息を立てながら鹿角さんは僕の腕の中で眠っていた。


 彼女を自分の身体からどかし、優しくベッドの上に寝かせる。


「おやすみなさい」


 僕は安堵と少しの後悔を抱きながら彼女に毛布をかけ、部屋をあとにした。


 








 











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