おちゃめな彼女とエロ漫画の定番

「あのぉ鹿角さん」


「はい」


「もう着陸しましたし、手は離してもいいのでは」


 鹿角さんは無言で僕の手を離す。本当に飛行機が怖くて空の上にいる間ずっと緊張していたのか手の平は手汗でぐっしょりだった。


「申し訳ありません。不快な思いをさせて」


「いえ、よかったらどうぞ」


 僕はそう言ってハンカチを差し出す。


「ありがとうございます」


「さぁ僕たちが降りる番です。行きますか」


 僕たちはキャビンアテンダントさんに促されながら出口に向かう。


 もうすでに外の気温が高いことがわかった。


「那覇空港は久しぶりだなぁ」


 空調の効いた空港内を探検したい気もするが、今回は仕事で来ているので遠慮する。


 陽が長いとは言えもう午後5時すぎでホテルのチェックインの時間も迫っていた。


「立花さんゆっくりしている暇はないですよ」


「あぁはい、今行きますよ」


 彼女に肩を叩かれ、背中を追う。初めての空港なのに鹿角さんはキャリーバックを引きながら迷うことなく出口のタクシー乗り場に到着した。


「鹿角さん本当に沖縄初めて?」


「そうですが」


「にしてはよく迷わないね」


「三日前から那覇空港内のマップを確認済みです。それに」


 彼女が指をさす先には予約とかかれたタクシー。


 僕たちの姿をみつけるなり減速し停車する。


「ふふ、立花さんがきょろきょろしている間にアプリで予約済みです」

 

 誇らしげに言った彼女の横顔は飛行機のそれとはまったく違った。


「さすがです。先輩」


「当然です。先輩ですから」


 タクシーに乗り込んでから、僕は地図で目的地のホテルを確認する。


「車で十分くらいか」


「はい、準備は万全です。ホテルも決められた予算内で評判の良いホテルを予約しておきました」


 僕は彼女の力強い言葉に安堵し窓の外を見る。


 チェックアウトを終えたら、鹿角さんを誘って国際通りに顔を出そうかな。でも彼女のことだからプレゼンの準備をするとか言って部屋にこもるんだろうなぁ。


 僕は頭の中でわかばさんに買ってわたすお土産を考えながらホテルまでの道のりを沈む夕日を眺めていた。


 観光じゃないけど、久しぶりの沖縄。できる範囲で楽しんで帰るぞぉ。


 僕は表情に出さないまでも、この出張に浮かれていた、


「申し訳ありませんが一室しか予約されておりません」


 受付のうちなー美女にそう言われるまでは。

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