彼女とプレゼン 2

「ゼネラリストの育成を強化してきたわが社に置いて2024年4月から見直される医師の働き方改革にともない、緊急症例に対応するスペシャリストの採用と育成が急務になると考えます」


 作成していたパワポの資料を鹿角さんの言葉に合わせてクリックする。


 画面に映し出されたデータをお偉いさんたちは熱心に眺め、配布された得点用紙に書き込んでいた。


「わが社は長年、同業者出身の中途採用を会社の風土や伝統を乱される可能性があると敬遠し、特に三十五歳を過ぎた人材の採用を見送ってきましたが、昨今の人手不足問題はわが社においても他人事とは言えず、未曾有のパンデミックが終わり、国からの病院による補助金が少なくなり特需を望めなくなった今、更なる利益の向上を目指すにあたり……」


 発表も佳境を迎える中で、薄闇の先にいる審査員の顔はあまり良くはないと僕は感じていた。


「以上を持ちまして発表を終わります。ご清聴ありがとうございました」


 鹿角さんが会釈して、会場は拍手に包まれる。


 これから質疑応答の時間になるのだが、薄闇の中で上げられた手は前任者の発表の時ほど多くはなかった。


「発表ありがとうございました。ちょっと質問があるのですが、わが社の強みとして、百年以上続いてきた信頼と伝統を重んじて今までの功績があるわけで、それを根本から否定するのはどうかと……それにスペシャリストの育成にかけるコスト面を中途採用で補うっていうのはいささか楽観的ではないだろうか?」


 鹿角さんに回答が求められる。彼女はマイクを握りしめながら笑顔で対応する。


「ご質問ありがとうございます。まず一つ目のご質問について、どこの支社もグループ会社も人員不足で新しい開拓への営業は多く見込めません。ですから年齢制限を取り払い経験者を雇用する必要があると考えます。もうひとつはわが社に新卒からスペシャリストを育てる時間も余力もないと感じたからです」


 その発言に会場がざわつく。


 僕は小さく深呼吸しながら鹿角さんを見つめる。


 彼女に向けられた視線に好意的なものは少なかったが、僕はスポットライトの中心にいる彼女がとてもかっこよく見えた。

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