おっと言えばぱい

「おーい芳くん盛り上がってるかい?」


 ほろ酔いを片手にけらけらと笑うわかばさんは、アルコール度数が三パーセントのお酒を半分くらい飲んで出来上がってしまった。


「新しいお酒をどんどん持ってきたまえよ」


「いやもうやめときましょうよ、だからコーラならいくらでもお注ぎしますけど」


「なんだい、きみは私の酒を飲めないっていうのかい」


 顔を真っ赤にしたわかばさんは両手でわし掴みにしたポテチを僕の口に強引に押し付けて、肩を組んできた。


「それ会社でやったらアルハラですよ」


「うるさい、カンパーイ」


 右手に持っているほろ酔いを僕が傾けていたビール缶にあてがって、舞い上がった彼女は透き通る声でコールする。


「飲んで飲んで飲んで~飲んで飲んで飲んで~飲んで飲んで飲んで育毛剤♪」


「腹壊すわ」


 短く突っ込んでやると、高らかな笑いとともに手を叩き、そうかと思ったらカーペットに寝ころんで腹を抱えて笑う。


「わかばさん、もしかして変な薬とかやってます?」


「失礼なことを言うねぇ」


 返す言葉が完全に脱力し切っていてちょっと不安になる。


「お水持ってきますから……」


 するとわかばさんは起き上がり低い姿勢のまま僕の背中に抱きついてきた。


「ラピュタにこんなシーンあったよねぇ」


 今度はジブリ? と思ったが昨日の金曜ロードショーでやっていたことを思い出した。


「こんな悪酔いしたシータいませんでしたよ」


「だれが今の私の状態だと言った? 私が言いたいのはその行動のことだよ」


「……あ、見張りのシーンのことですか」


 暫しの沈黙の後、僕は頭の中でそれと思えるシーンを浮かべた。


「ご名答。今の私みたいにシータはパズーに抱き着いていただろう。私はあのシーンが大好きでねぇ、録画したら必ず何度も見るのさ」


「変わってますね、あんな変哲もないシーンのどこが好きなんですか?」


「かぁ~きみは感受性が鈍感というか、面白みのない人間というか、あのシーンは今後の二人の運命を決定づけた貴重なシーンだよ」


 言葉尻にも力が入っている。わかばさんの顔はここからは見えないけど、きっと真剣な表情をしているに違いない。


「ま、まさかぁ」


「まさかも、へちまもあるか。あのシーンはパズーがシータを異性として意識したシーンなんだよ、考えてもみなよ、十代半ばの男の子が、同じくらいの可愛い女の子に頼られて力強く抱き着かれて、まだ発達途中の小さいけど柔らかいおっぱいを背中に感じたんだよ。私がパズーならそんな女の子を一生をかけて守るけどねぇ」


「考えすぎじゃないですか」


 そう言って茶化すとわかばさんはあからさまに僕の背中に身体を密着させて、自らのおっぱいを背中にこすりつけてくる。


「さぁ芳くん、可愛くて綺麗で女神のような私がこうやっておっぱいを感じさせているんだ。分かるよね、水じゃなくてお酒を持ってきたまえ」


「分かりましたよ、どうなっても知りませんからね」


「問題ない、私は酒豪だからねぇ」


 身体にかかっていた重さが抜けて、解放されたことを悟り、振り返る。


 すでに酩酊状態で、ふらふらと身体を揺らしたわかばさんが満面の笑みを漏らしながら立っていた。






「ちょっと動けないから」







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