おっぱいは自ら助くる者を助く

「びっくりした、なんすかいきなり」


「びっくりしたのはこっちの方だよ、きみが部屋を空けている間、私の世話は誰がするんだ」


 正面切って語尾を荒げる肩と胸を揺らしながらわかばさんは必死の抵抗を続ける。


「認めたくはないが私はよしくんがいないとなにもできない、というかなにもしたくないんだ。きみはなんもできないチワワを置いていくほど薄情なのかい」


 今度は身体をしぼめて小さい声で祈るようにつぶやく。


「いや、子どもじゃないし、お金あれば大丈夫でしょ」


「大丈夫なもんか、私の自堕落さを舐めるなよ」


 次は自信満々に宣言した。


「おい、何がそんなにおかしい?」


「いや、なんか可愛いなと」


 僕の言葉に彼女はあははと笑う。


「冗談だよ、出張行ってきたまえ。私は大丈夫だからさ」


 そう言って柔和な顔つきを破顔させる。


 全然大丈夫そうに見えない。


 ゆっくり横になったわかばさんは分かりやすくへそを曲げていた。


「土曜日の夜には帰りますよ」


 肩を軽くゆすり、なだめて見る。


「……ごはん」


「土曜日の夜の分まで作り置きしておきます」


「うーん」


 気の抜ける声をあげ、わかばさんが飛び掛かってきた。わかばさんを身体全体で支えて、僕たちはキスをした。


 狭い部屋に流れていたテレビの音は消え去り、自分の内側にだけ響く。例えば筋肉の強張り、骨の軋み、唇の摩擦、心臓の鼓動。


「わかばさん?」


 わかばさんは流し目で僕を見てから「もう寝る」


 一言だけ残して歯磨きもせずにベッドを占領した。


 あきれ顔で僕はそんな彼女を眺めながら、下着だけのわかばさんに毛布をかけて、


「携帯置いておきますから、寂しくなったら社用の携帯にメッセージください。電話しますから」


 それからわかばさんは僕に返事をすることはなく、宣言通り夢の国へ旅立っていった。

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