第54話 ブス専Aランク冒険者

 森から無事脱出した僕たちはラシャドを待つことにした。


「ホッホッ!」


 そう待たずにラシャドが戻ってき、早速エリーに何かを報告している。


「魔物の集落があるようだ。ゴブリンとウルフ、それにオークが居て規模もかなり大きいようだな。流石に私たちだけでは骨が折れそうだ」

「ラシャド、人はいたかな?」

「ホッホッ!」

「見える範囲には居なかったが住居らしき建物の中に人の気配が複数あったらしい。まず間違いなく女だろうな」

「だね。取り敢えず一度町に戻ってギルドに報告かな」

「あの、女性が囚われてるなら一刻も早く救助しに行った方がいいんじゃ」


「悪いが私たちは自分の命が第一だ」

「でもお二人の力があれば」

「ココちゃん、君の言いたいことは分かるけど僕たちは英雄や救世主じゃないんだ。二人は慎重に森を進んでいながら罠にかかったと言っていたよね? なら他にも巧妙に隠された罠があるのは間違いないだろう。そんな中を進んで今すぐに助けろと言うのかい?」

「それは……」

「ダンジョンでも言ったがな、魔物を舐めすぎだ。今すぐどうしても助けたいなら自分でやれ。その場合はお前の相棒はここに置いて行く」


 僕とエリーにここまで言われると、ココちゃんは何も言えなくなってしまった。恋人の命と見知らぬ人間を天秤にかけ、恋人の命を取ったのだ。


「別に助けないとは言っていないよ。早く戻ってギルドに報告、そして討伐隊を組んでもらおう。それが僕らにとっても、囚われている人にとっても最善だ。いいね?」

「……はい、ワガママを言ってすみませんでした」

「自分に出来る事と出来ない事、今何が最善なのかを見極める力をつけろ。ラシャド、先に行ってこれをギルドに届けてきてくれ」

「ホッホッ!」


 エリーはラシャドに黒い棒を持たせて町にあるギルドへと向かわせた。


「じゃあ僕たちも行こうか。走るからココちゃんもついて来るんだよ」

「は、はい!」


 僕はレオを担いで二人と一緒に町へと走り、朝とは違い閑散としたギルドへと入る。


「【捕食者プレデター】のお二人、奥の部屋へ案内させていただきます」

「頼む」


 ラシャドが黒い棒を届けてくれたおかげか、こちらが何も言わずともそのまま奥へと案内され、部屋の中にはギルマスと副ギルマス、それとギルマスの秘書が待っていた。


「ホッホッ!」


 自分もいるとラシャドが鳴いてエリーの元へと飛んだ。


「よく戻って来てくれた。早速話を聞かせてくれ」

「分かった」


 ギルマスの言葉に答えたのはエリーで、ココちゃんたちを助けたところから話し、そして魔物の集落のおおよその規模を伝える。

 地図を見ながらの説明を隣で見聞きしていると、僕が思っていたよりも規模が大きな集落が出来上がっているようだった。


 これは100や200って数じゃ済まないんじゃないか? それにこれだけ規模が大きいなら確実に上位種がいるはずだ。撤退を選んで正解だったな。


「規模の割に囚われている女の数が少なそうだな。どこか別の場所に女を集めているのか?」

「ホープはどう思う?」

「そうだね、地図を見る限りだと断崖絶壁の壁に穴を開けて奥に隠しているんじゃないかな。一ヶ所大きな建物が崖に接するように建てられているのも隠すためだと僕は思う」

「では何故他の建物にも女がいるんだ? 一ヶ所で管理した方が良いだろう」

「何度か魔物を出産すると女性は生殖能力を失うから、そう言う女性を性処理用として分け与えているんだと思う。過去にそう言う事例があった記憶があるから間違いないと思うよ」


「その考えが正しいとして、実際のところどれくらい囚われていると考える?」

「規模を考えると100前後ってところかな。じゃないとここまで大きくなってないと思う」

「それだけの数の女を何処から連れて来たと言うんだ? 流石にそれだけの数居なくなれば問題になっていてもおかしく無い」

「この集落の辺りってどれくらい調査されてなかったとか分かります?」

「この辺りだと年に1、2度採集の依頼が出ているはずだ。だよな?」

「確かに依頼は出ているのですが、実は10年以上受けた冒険者がいません」


「おいおい、そんな報告は聞いてないぞ」

「報告はせずとも書類を見ていれば分かる事です」

「っ……」

「となるとだ、僕の予想が正しければ男も捕らえられていて、人間の子どもも産まされてるんじゃないかな。言い方は良くないと思うけれど、人間の養殖をしていると思う。じゃないと数が増えないからね。多分子どもが産めるようになった女の子にも子どもを産ませて苗床の数を増やして、その間は事前に捕らえて来た女を苗床にしてたんじゃないかな」


「事実ならかなり頭の良い個体がいる事になるぞ」

「ですね。今回罠にかかった二人も慎重に進んでいたにも関わらず引っかかった訳ですし、間違いなく知能の高い個体がいますね。それも1匹2匹じゃ無さそうです。二人が罠にかかった場所を外周とした場合、これだけの範囲が魔物のナワバリと言えるでしょう。過去にこの周辺に向かった冒険者で消息不明になった者はどれくらいいますか?」

「そうか、足りない苗床は冒険者で補っていたという事か。急いで調べろ!」

「はい!」


「それでここからが問題ですが、この集落はどうするんですか?」

「潰すに決まっている。これだけの規模の集落を作ったんだ、間違いなく近い将来近隣の村が襲われるのが分かりきっているだろ」

「ホープはどうにか出来る算段があるのかと聞いているんだ。殲滅する方法をな」

「予定では今日か明日にはこの町唯一のAランク冒険者が戻って来る。そいつらを筆頭に町にいるCランク以上の冒険者に殲滅の強制依頼をする。これは【捕食者プレデター】も例外ではない」


 そう言えばまだこの町に来てAランク冒険者を見たこと無かったから忘れていたけれど、ちゃんと存在してたんだね。

 そう思っていると外から静止の声が聞こえて来る。そしてそれを無視してこちらへ向かう足音も。


「ただいま戻った! 何やら緊急事態らしいじゃないか! 俺にも話を聞かせてくれ!」


 扉が開いたかと思うと、腰には明らかに何かを付与されているだろうロングソード、何らかの付与が施されているプラチナブルーの鎧を着込んだ偉丈夫が現れた。その表情には自分なら何でも出来ると絶対の自信を感じさせる。


「いきなり勝手に入って来るなこの馬鹿者が!」

「うっ、すまないすまない。しかし緊急とあってはつい体が動いてしまったのだ!」

「はぁ、まあよい。すまんな、こいつが今話していたこの町唯一のAランク冒険者【憧憬無頼アウアビジョン】のリーダーだ」


「君が報告者か! よく無事に生還して情報を持って帰って来てくれたな! それで緊急事態とは何なのか俺にも教えてくれるか!?」

「10年以上前からあったのでは無いかと考えられる魔物の集落が発見されたのだ」

「何? そんな物が何処にだ?」

「ここだ」


 完全に格下の冒険者が相手の対応だな。まあ間違いでは無いのだけども、こちらの事を聞くことはおろか、自己紹介すらしてこないのか。

 ただの情報提供者、彼から見たら僕たちはその程度の存在という事だ。


「すみませんうちのバカが来ませんでしたか!? あ、いたこのバカ! 勝手に立入禁止の部屋に入らないの!」

「あ、やばい! ギルマス助けてくれ!」

「うるさい! 長期遠征でこっちは疲れてるんだから早く帰るわよ!」

「待ってくれ! 結構大変な事態になってるみたいなんだ!」

「だから何よ!? そう言うのはギルマス達がちゃんと話し合って決めるの! あんたみたいなバカが邪魔しないの!」

「酷い! なあお前らも酷いと思わないか?」

「僕としては彼女の言葉の方が分かるのでなんとも」

「そうだな、自分勝手な行動を取る奴よりもあちらの方が正しいと思うぞ」

「お、お前らまで! 俺たちの友情はその程度だったのか!?」

「友情だなんて、僕たちは貴方にとってただの情報提供者に過ぎないのでしょう?」


「ぐぐぐ、悪かったって。確かにさっきの対応は良くなかったな。謝るから! だから今は助けてくれないか!?」

「すみません、僕は女性の味方なので」

「な!? お前あいつが女に見えるのか!?」

「キレイな方だと思いますが? もしかしてブス専ですか?」

「え、本当にキレイだと思うのか?」

「はい。エリーはどう見える?」

「美人だと思うぞ。女装でも無さそうだし、お前ブス専か?」

「な!?」


 怒鳴り込んできた時は鬼の形相ではあったが、今は僕とエリーに褒められて照れている美人の女性。恐らく実年齢は30代だろうが、20代前半と言われても納得してしまいそうな若さと、何処となく漂う色気を纏っている。


 僕とエリーにブス専だと言われた偉丈夫は衝撃を受け固まってしまった。


「はぁ、まあいい。【憧憬無頼アウアビジョン】の他のメンバーは今何処にいる?」

「既にパーティハウスに帰っています」

「そうか、なら代表としてこの馬鹿者と一緒に話を聞いてくれるか?」

「かしこまりました。どうも、【憧憬無頼アウアビジョン】のリアラと言います」


 リアラさんの自己紹介に続いてこちらも自己紹介をし、やっと具体的な魔物討伐の作戦を考えることになるのだった。

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