第36話 常識の無い冒険者
特に困ることもなく順調にダンジョンを進み、その日のうちに20階層まで辿り着くことができた。
「今日感じたのは18階層か19階層が無難な狩場かな」
「そうだな、他の冒険者も少なかったから争いもなさそうだ」
17階層から出てくるオーガとトロールだけど、20階層からはそれなりに遠いので移動だけで時間がかかる。正直面倒で効率も悪い。
それなら少しだけ17階層の二体より強い個体がいる18か19階層で狩る方が効率的だ。
少し強い程度なら僕たちにとっては無いも同然だからね。
20階層はセーフティエリアがあるから冒険者の数がどうしても多くなる。そうすると狩場争いが面倒だし複数箇所を見て回ることができないから結果的に効率が悪くなるのだ。
明日の話をしていると伏せていたアデラインが顔を上げ立ち上がると「グルル」と一方を見て威嚇した。
僕たちはアデラインの視線の先を見ると冒険者が6人こちらに歩いて来ていた。
「お前ら止まれ、それ以上近付けば敵とみなす」
エリーの言葉にあと少しで10mほどの位置まで近付いてきていた冒険者たちは慌てたようにその場に静止した。
「す、すみません。その、明日以降の狩場について話をしたいのですが」
なるほど、狩場が被らないように前日のうちに決めたいのか。まあ後で揉めるよりはマシか。それにこれはどのダンジョンでも見かける光景だ。
「私たちは18階層か19階層をメインにするつもりだから必要ない。それと言っておくがその数で面識のないパーティに近寄るのは今後やめておけ。敵対の意思ありと取られて痛い目に遭うこともあるからな」
「20階層では無いのですね、了解しました。今後気をつけたいと思います、では失礼」
6人で近寄って来られたら普通に敵だと受け取られるよなあ。セーフティエリアと言っても魔物が近寄らないだけで普通にスキルや魔法は使えるし、たまにパーティ同士で争って人死が出ることもあるからね。
「パーティ単位で近寄ってくるとはあいつら本当にCランクか? その辺はDランクでも知ってる常識だろうに」
「どうなんだろうね。でも20階層はCランク以上のパーティがメインだって聞いたし、実際Cランク以上のレベルがないとまともに魔物と戦うことなんて出来ないから単純に常識が無いか殺しに来たかのどちらかだろうね」
「アデラインとラシャド、何かあれば自身の裁量で捕らえることを許可しておく。ただし殺しや四肢欠損はさせるな」
「アウ!」「ホッホッ!」
二匹がいればCランクパーティ一つくらい問題なく無力化出来るだろう。
「取り敢えずいつも通りに魔石で録画しておこうか。最悪アデライン達が殺しても正当性を認められるかもしれないし」
もしもの時を考えて常に録画する冒険者はたまにいる。特にソロの冒険者や少数パーティがそうしていることが多い。
そして実力のある冒険者が返り討ちにするまでがワンセットである。
数で上回っていればなんとかなると考えているバカが多いという何よりの証拠だ。
いまこの場には僕たちを含めて6パーティ。恐らく全てCランクパーティなのだろう。
装備品や使っているアイテムを見る限りだとBランク以上には見えないからね。
そして全て5人以上のパーティだ。
唯一僕たちは2人という少数だが、アデラインとラシャドがいるので客観的に見ると4人パーティと言えなくもない。
実際には影にベンがいるので5人パーティだけどね。
明日の準備を済ませてやる事も無くなったので僕は先に休ませてもらい、エリーに夜番を任せる。
■ □ ■ □ ■
エリーside
ホープは明日の準備を済ませ簡単なチェックをするとすぐに眠りについてしまった。
いつも感心するがこいつは寝付きがいい。
信用してくれているのか、それともただ図太いだけなのか、どこでもすぐに眠りにつくのだ。
信用してくれていると信じたい。そしてその信用に私も応えたいと思っている。
私と同じ考えなのかは分からないが、アデラインやラシャド、そしてベンもホープに対して心を開いているのが見て取れる。
実際テイマーは従魔と簡単な会話であったり意思疎通が可能なので三匹がホープを信頼していることも知っている。
たまに私よりもホープに懐いているように見えるのは納得いかないがな。
今もラシャドがホープに寄り添い気持ちよさそうに寝ているのはどうにかならないものか。
ホープ曰く私は他のテイマーより従魔と良い関係を結べていると聞かされているし、実際私以外のテイマーを何人も見てきたが、ホープが言うとおり私の方がちゃんと関係性を築けていると思う。
なのにどうしてテイマーでないホープに負けているように思ってしまうのだろうか。
やはり私もルーキーを犯すべきなのだろうか? しかし正直それは興味がないので却下だな。
気持ちよさそうに眠るラシャドを見ながらそう考えていた時だった。アデラインが立ち上がった。
「なんだお前たち、さっき言ったよな? それ以上近付けば敵とみなすとな」
狩場について話をして回っていたパーティだけでなく、このセーフティエリアにいる全ての冒険者がこちらへ向かってきていた。
「痛い目を見たくなければ大人しく輪姦されてくれないかな? それと道具一式と魔物の経験値もくれよ。この人数相手に勝てるわけないんだから諦めな」
「なるほどな、お前たちの狙いは分かった。だが大人しく聞くわけがなかろう? そっちこそ死にたくないならそれ以上近づくことはお勧めしない」
「なにイキがってんだよアァ? このアマ死ぬまで犯してやる。やるぞお前た――」
「<
「な! 寝ていたん――」
「黙れ、死ね」
寝ていたはずのホープが残り僅か3mと言ったところまで冒険者が近付いてきたタイミングでデバフを全員に付与する。
そして相手が驚き武器を構える前に近くにいた男をホープが剣で胸を貫いた。
あっという間に1人を倒して見せ、相手冒険者たちが浮き足だった。
「<
「がっ……」
ホープは一瞬で30人近くの冒険者を無力化してしまった。何もさせず、しかし1人を殺すことで死を実感させ、そして無力化だ。
平気な顔で自分たちを殺す存在が目の前にいるのに動けないというのはどれだけの恐怖と絶望感を覚えるのだろうか。
取り敢えず私も1人殺してより死が目の前にある事を教えてやろう。
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