第35話 ベンと共闘

 初日は特に絡まれる事もなく2日目の朝を迎えることが出来た。


 今は17階層まで潜ってきている。この階層から目的の素材を落としてくれる魔物が現れるのだ。


「オーガの角は傷つけないようにね」

「分かっている。といっても普通に戦えば角を傷つけることはないがな」


 今回僕らが受けた依頼はオーガの角、トロールの心臓と肝臓だ。

 主に薬の材料として使われる物だね。


 オーガの角は倒す時に傷つけるとドロップ率が下がり品質が悪くなるので極力回避したい。


 そろそろ敵にデバフを使ってもよさそうだな。オーガとの戦いに慣れるのも必要だが、まずは対等にまで引きずり落とすのが先だ。

 相手は一体なのでエリーにかけているデバフと同じデバフをオーガへと使う。


 しかしさっきからラシャドがキツそうだな。やっぱり移動方法が基本的に飛ぶしかないからデバフを使われた状態でダンジョン探索は誰よりも大変なのだろう。


 あ、アデラインの背中に乗ったよ。背に乗ったまま固定砲台として魔法を使ってる。意外と悪くないんじゃないか?

 ただアデラインは少し嫌そうにしている。まあ普通に考えて重いよね。

 これはもう二匹合わせてアウルライダーって呼んだ方がいいかもしれないな。


 アデラインが少しだけ溜めを作ったと思ったらラシャドが飛び上がりオーガの目を引いた。

 その隙を見逃さずにアデラインが一気に突進してオーガの左腕を噛みちぎる。

 突如訪れた痛みにオーガは顔を顰めたが、それが最後だった。

 エリーが槍でオーガの心臓を貫くとオーガはそのまま息絶えた。


「お疲れ、どうだった?」

「もう少し慣れるまでは今のままで頼む。思っていたよりもオーガの力が強かった」

「了解。それとラシャドがかなりキツそうだからデバフの強度を少し下げたほうがいいと思うんだけどどうする?」

「確かにデバフ状態で飛んで移動はキツいか。仕方ない、移動する時はアデラインが背中に乗せてやれ。強度は下げなくて構わんだろ」

「ア、アウ!?」「ホッホッ!?」


 アデラインとラシャドが嘘だろ? と言った感じで愕然としている。

 誰が見ても分かるほどに二匹のテンションが下がった。どうやら飼い主はスパルタのようだ。


「次は僕が戦うよ。まだスリングを使ったときくらいしかまともに戦ってないからそろそろ体を動かしたい」

「ワフ!」

「ベンどうしたんだい?」

「ベンも一緒に戦いたいそうだ。仕方ない、人のいなさそうな方へ行くか」


 そういえばベンも殆ど戦ってなかったな。たまには2人で戦うのもいいかもしれないな。


 エリーは人を避け魔物がいる場所へと誘導してくれた。


「トロール3とオーガ2か。ベン、キミは好きに動くといい。援護は僕に任せて蹴散らしてやれ」

「ワフ!」


 ベンは一吠えすると影に入ることもせずに手前にいたオーガの元へと突っ込んでいく。

 それに気付いたオーガは完璧なタイミングでカウンターを繰り出すがベンにその攻撃が届く事はない。


「<停止ストップ>」


 ほんの少しだけオーガの動きが止まり、ベンへ殴りかかろうとしていたために頭が下がっていたところをベンはさらに加速してオーガの首へ噛みつきそのまま首を吹き飛ばした。

 電光石火の一撃はオーガを一瞬でほふってしまった。


 しかしベンは止まらない。仲間の首が無くなったことでもう一体のオーガの形相が変わるが、関係ないと言わんばかりに突っ込んでいく。


「<脱力ウィークネスズ>」


 全身に力を込めたはずのオーガは崩れ落ちる。まるで首を差し出すかのように。

 体中の力が抜け落ちたオーガは何も出来ずベンにクビを飛ばされた。


「ナイスベン、残りは内臓を傷つけないように気をつけてくれ」

「ワフ!」


 任せろと言わんばかりに返事をしたベンはトロールが三匹いようとも関係ない。

 再生能力を持つ相手だろうが関係なく腕や足を噛みちぎっていく。


「<回復阻害スロウリカバリー>」


 これでトロールの強力な再生能力を封じ込める。

 再生出来ずに体のバランスを崩していくトロールは拳を握りしめてベンへ殴りかかろうとするが、そうはさせない。


「僕も体を動かしたかったんだよ」


 詠唱しながらも走り近づいていた僕はトロールの腕を斬り飛ばした。

 そしてそのまま切り返してクビも斬り飛ばす。


「<麻痺パラライズ>」


 僕が一体のトロールを倒したと同時にベンも一体のトロールを倒しており、残ったトロールを僕は<麻痺パラライズ>で行動不能状態にする。

 まるで僕が<麻痺パラライズ>を使うと分かっていたかのようにベンは最後のトロールのクビを噛みちぎってみせた。


「お疲れベン、よく信じてくれたね。おかげで僕もやりやすかったよ。ありがとう」

「ワフ! ワフ!」


 ベンが尻尾を振って嬉しそうに吠えているので頭を撫でるとベンの方から僕の手に頭をグリグリ擦りつけてくる。

 シャドウウルフは結構見た目が怖いからギャップが凄いけど目を細めているし可愛いものだ。


 僕とベンがお互いに触れ合っているとエリーが近づいてくる。


「なあ、本当にホープはテイマーじゃないんだよな?」

「違うよ。まあ確かに今回かなりベンが僕を信用して突っ込んで行ってたからそう思われても仕方ないとは思うけどね」

「そうだな、1人なら確実に避けたりする攻撃も一切恐れずに突っ込んでいた。完全にベンはホープを信頼していると言えるだろう」

「ワフ!」

「その通りだとさ、よかったな」

「本当かいベン、嬉しく思うよ」

「ワフ!」


 この場にエリーがいなければ確実にベンは僕の従魔だと勘違いされるだろうな。まあベンは普段人目につかないようにしてるから勘違いされることはないんだけどね。


「しかしデバフを使うとオーガやトロール相手でもあそこまで簡単に無力化できるとは、やはりデバッファーは敵に回したくないな」

「状態異常系ばかり使ったからね。それも一時的に行動不能にするものばかりだったから何も考えずに討伐出来ただけだよ。トロールに関しては殆どベンの活躍だったしね。まあ僕もデバッファーを相手にしたくないというのは同意見だけど」


 今回はかなり楽をしたと言ってもいい。そこそこの攻撃力さえあれば誰でも一撃で倒すことが出来るような状態にしただけだからね。

 トロールに関しては回復能力を封じた、正確には回復する速度を落としたが、それでも攻撃を加えないと意味がない。そういう意味ではやはりベンの活躍でトロールを倒したようなものだ。

 だから僕がやったことは弱っていた一体を掻っ攫っただけだね。


 デバッファーが相手だと不意打ちや攻撃のタイミングに合わせて弱体化させられると致命傷を負いかねないので僕としても相手をしたくない相手だ。


「さて、じゃあ次行こうか」


 僕の言葉にエリーは同意の返事をするのだった。


――――――――――

明日31日は5時4分と22時4分に1話ずつ、計2話を投稿させていただきます。

引き続きどうぞよろしくお願いします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る