第20話 猛毒

「エリー大丈夫かい?」

「ああ、コイツがバカで助かった」

「取り敢えずこれ、解毒剤だから飲んで」

「助かる」


 僕が駆けつけるとエリーは木にもたれかかっており、そしてその前には片腕のないバカの死体が転がっていた。


 エリーは恐らく毒をもらったのだろう。油断したのか、それとも意外とコイツが強く狡猾だったのか。


「このバカはジョブを2つ持っていたようだ」

「2つ? アーチャーだけじゃなかったの?」

「ああ、こいつテイマーのジョブを持っていた。恐らくここにくる途中でテイムしていたのだろう、その鳥が矢に塗るタイプの毒を私にかけてきたのだ」


 よく見ると少し離れた場所にカラスほどの大きさの鳥が死んでいた。


「矢に塗るタイプの毒は傷口などからでないと効果が薄い事を知らなかったのだろう。私としたことが油断してしまった」

「なるほどね、知識が足りなかったわけか。しかしベンや他の二匹はどうしたの? 普通こういう時は流石に守るんじゃないの?」

「ベンにはホープの方にいてもらっていたのだ。他二匹はタイミング悪く少し離れた場所に行かせたところだった。恐らくそれを狙っての毒だったのだろうな」


 なるほど、従魔とはある程度距離が離れていても言葉を使わずに意思疎通が出来ると聞いた事がある。それで攻撃されて油断していた事もあって咄嗟に避けられなかったのか。

 そして逆にベンへ僕を呼ぶように頼んだわけだ。


「そろそろ動けるかい?」

「ああ、すまなかったな。やはり毒に対する耐性はつけるべきだと思い知った」

「いや、エリーがこれだけ毒の影響を受けてるって事はかなり強い毒だったはずだよ。エリーは今毒耐性のレベルはいくつだい?」

「レベル6だ」

「なら間違いなく猛毒だね、多分毒耐性レベル8以上ないと完全には防げないだろう。こんな毒をどうやって手に入れたんだ」


 大体の毒は毒耐性レベル5もあれば無効化、または軽微な異常程度で終わる。

 だが今回はレベル6もあり、しかも主に傷口から効果を発揮するヴェノムタイプの毒をかけられただけでフラつき、木にもたれていないとまともに立つ事も出来ないなんて異常だ。


「これは罠かもしれない。取り敢えず急ぎ二匹を休憩所にやって依頼人が無事か確かめて。もしもヤバそうならそのまま無力化または殺してもいい」

「分かった、お前たち頼んだ」


 もしかしたら僕たちと依頼主を分断する罠だったという可能性を否定出来ない。

 普通であれば少しくらい一緒に探そうとする素振りくらい見せたりする。

 それに枝拾いにバカ以外が参加しなかった。

 これは見方によっては確実に依頼主を殺したり脅すために三人が残ったのではないかと疑ってしまっても仕方ないだろう。


 エリーは僕の言葉に一つも問い掛けずに実行する。


「じゃあ僕たちも戻ろうか、僕の考えが杞憂に終わればみんなを待たせる事になるからね」

「そうだな、悪いがベン、そこのバカと鳥をギリギリまで運んでくれ」

「ワフ!」


 皆に見えないギリギリの場所まで戻り、ベンが影からバカを出してくれる。

 残りは仕方ないので僕が抱えて行く。


「やっぱりか、ジャスパーさんケガはありませんでしたか?」

「いえ、エリーさんの従魔が守ってくれたのでかすり傷程度ですみました」


 やはり罠だったようだ。よくもまあやってくれたものだな。


「そのホープさんが抱えているのはやはりこのパーティの仲間ですか」

「ええ、毒を使ってきたそうです。ですので殺して念のために持ってきました」

「そうでしたか」

「一つお聞きしたいのですが、命を狙われる心当たりは?」

「いえ、これといって何か思い当たるものはありません。まだまだ店も持てない若い商人ですので」


 こんな所で狙うなんて金銭目当てとは思えない。金銭目当てなら商売が終わった後を狙うだろうし、宿を狙う事も可能だったはず。

 最悪買付けの途中で襲えばある程度の金は手に入ったはずだ。なのに何故だ?


 エリーの従魔二匹はエリーを守れなかった事を挽回するように張り切ったのだろう。既に三人は事切れていた。

 これでは理由は闇の中か。


「今は一度考えるのをやめてゆっくり食事をとって休憩しましょう」

「そう、ですね。少し私も疲れたのでそうさせてもらいます」

「エリー、他にも僕たちを狙ってくる奴がいるかも知れない。従魔に警戒をお願いしてもらえないかい」

「そうだな、お前たち警戒を頼む」


 エリーの言葉にエリーの従魔は散開していった。そう、エリーの従魔、ベンもだ。

 ベンがいればかなりの広範囲を警戒出来る。これは実質ベンに警戒を頼んだようなものだ。


 食事をとり、少し長めの休憩をとる。それぞれ心当たりなど、何故狙われたのかを考えている。


「今回エリーが狙われたのはまだ分かる。馬車での会話を考えると性欲を発散するためだったんだろう。Bランクという事もあり、強力な毒を使って弱らせようとしたと考えるのが妥当ではある。だけどじゃあその毒はどこで手に入れたんだという話になってくる」

「そうだな、もしくは初めから殺すつもりだった可能性もあるだろう」

「ですが本当に彼らはDランク冒険者だったのですよね? しかも四人ですよ? いくら猛毒を持っていてもBランク冒険者のお二人を殺すのは難しいと思うのですが」

「その油断があって私はまんまと毒をくらったわけだ。圧倒的なレベル差があってもやり方次第で殺す事は可能という事だな」


 うーん、これってもしかして。


「僕が狙われてた?」

「どういう事だ? むしろお前が一番被害にあってないだろう?」

「もしかして私とエリーさんが邪魔だったという事でしょうか?」

「ジャスパーさんの言ってる通りだと思います。仮にこの考えが正しければ猛毒が手に入ったのも説明が出来るんですよ」


 この考えはあまり当たって欲しくはない。

 だけど二人には念のために言っておかなくてはならないだろうな。


 僕は二人に考えている事、そして隠していた事を話す事にした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る