第55話 心配な二人


 話し合いも終わり、結果として魔物の集落を殲滅する事になった。

 現場の指揮をするのはAランク冒険者の【憧憬無頼アウアビジョン】、その次にBランクの僕たち【捕食者プレデター】と以前お金を沢山寄付してくれた【黒鉄飛龍アイアンドラゴン】がいて、さらにCランク冒険者が10組参加する。

 正直過剰戦力だとは思うが、救助なども考えると人数は必要で、僕たち以外のパーティーは最低でもメンバーが4人いた。


「何とかなると思うか?」

「他のパーティーがどれくらい強いのかは分からないけれど、大丈夫じゃないかな? 最低限の連携だけでも十分な戦力だと思うよ」

「なら大将首はどうだ?」

「オークキング程度なら問題無いだろうけど、もう一つの可能性を考えると僕たちもボス戦に参加だろうね」


 エリーが気にしているのは巣窟の主がオークキングで無かった場合だ。もう一つ、二つ上の種族オーガキングがいた場合、まず間違いなく戦闘への参加を強要されるだろう。

 以前ダンジョンで戦ったジェネラルやクイーンよりも強く、単体でAランク冒険者と遜色無い戦闘能力を有しており、常に周囲の魔物へバフを与える固有スキルも有している。


 他にオーガは見当たらないが、はぐれたオーガやオークは別種族の魔物を支配下に置いて群れを形成する事が稀にあるので、今回はその可能性も念頭において行動すべきだろうね。


「何故オーガキングの可能性を会議で話さなかったんだ?」

「高ランクパーティーならこれくらい想定するなんて当然だからさ。ギルドも言って来ないって事は暗黙の了解ってやつだよ」

「悪い奴だ」

「それはエリーもでしょ?」

「ふっ、違いない」


 会議が終わり、明日の殲滅戦に向けて追加のポーションなどを買い揃える。レオに使ったポーションの補充もついでにしておく。


 そして僕たちが家に戻るとレオとココちゃんが玄関前で待っていた。


「二人ともどうしたんだい?」


 ココちゃんがレオを支えている姿を見るにまだまともに歩ける状況に無いみたいだ。


「お礼を言いたくて、今日はココを助けていただきありがとうございました」

「レオを助けてくれてありがとうございました」

「だってさエリー」

「別に私たちは何もしていない。礼を言うならこいつらにしろ」

「アウッ!」

「ホッホッ!」


 自分たちが助けたのだから勘違いするなよと言っているかの様なアデラインとラシャドの姿に僕は微笑ましくなるが、レオとココちゃんは改めて一匹と一羽にもお礼を言っていた。


「少し二人に聞きたい事があるから時間があるなら中で話さない?」

「聞きたいことですか?」


 いくつか二人には確認をしておきたい事がある。

 特に否定の言葉も出ず、二人は僕たちが借りている家に大人しく招待された。


「早速なんだけど、罠にかかる前後の話を聞かせてもらえるかい?」


 明日少しでも安全に魔物の巣窟へ辿り着くためには必要な情報だ。ただ設置していた罠に引っかかってしまったのと、罠に誘導されてしまっていたと言うのでは話が変わってくる。

 今回かなり賢い個体がいるだろうと結論付けているので、罠一つが死に直結している可能性がある。


 そして二人の話を聞く限り、本人たちはどうやら誘導されて罠に掛かっていた事が分かった。そして誘導されていたとは気付いていなかった事も。


「かなり賢い魔物がいるな」

「そうだね、これはちょっと厄介かも。二人を助けた時に魔物を倒したことでかなり警戒されてるだろうね。少し倒し過ぎたかも」

「雑魚では束になっても敵わない相手がいるとなれば向こうも初めから本気で来るだろうな」


 僕たちが一度撤退した事で戦力を増やしに戻ったと理解した魔物がいる可能性もある。

 僕たちが戻って来るまでに罠を増やし、いつ攻め込まれてもいいように魔物も準備を整えているかも知れない。


「その、ホープさんたちがあの魔物たちの棲家を潰しに行くんですか?」

「僕たちだけじゃなくてこの町にいる殆どのCランク以上のパーティーでだね。と言ってもダンジョンや町の外に行ってるパーティーは流石に参加しないんだけど」

「私たちだけで討伐をしろと命じるほどギルドも鬼では無い。今ホープが言ったように複数のパーティー、それも高ランクパーティーが参加するような依頼だからな」

「それってとても危険なんじゃ」


「魔物を相手にしているのだから危険なのは初めから分かっていることだ。何度でも言うがな、魔物を舐めるな。相手がゴブリンやスライムでも一歩間違えれば命を落とす事はある。お前たちの後に冒険者になったルーキーが既に1パーティー魔物に全滅させられたのを知っているはずだ」

「心配してくれるのは嬉しいしありがたいと思う。けれどね、それを上位の冒険者相手に言ってはダメだ。失礼になるからね」

「そうですよね、ごめんなさい」


「むしろ僕は二人の方が心配なんだけどね」

「「え?」」

「なるほど、確かにホープの言う通りだな」

「えっと、どう言う事でしょうか?


 僕とエリーが心配することと言えば健全な寝取り行為に決まっている。少しココちゃんから目を離さないようにしたいんだよね。


「レオくんの足は今ココちゃんに支えてもらって初めて歩けるレベルだ。これでは当分レオくんが冒険者として稼ぐことは出来ない。ここまではいいかい?」

「……はい」

「かと言ってココちゃんが一人で二人分の生活費を稼げるかと言われると難しいはずだ。現状二人がどれくらい貯蓄しているかは分からないけれど、ルーキーの貯蓄では宿代などの生活費だけですぐに消えるはずだよね? 貯蓄が無くなるとどうするつもりだい?」


 レオは当分安静にし、治ったとしてもリハビリが必要になるはずだ。冒険者として今まで通り稼ぐのであればそれなりに時間がかかるだろう。

 だってその為にハイポーションを使わずに安いポーションを使った訳だからね。毒矢が刺さっていた訳では無かったけれど、普通は毒消しポーションを念の為に使うのに今回は使わなかった。

 レオの命が助かったと言う事実だけでココちゃんは満足して、僕がどう言った処置をしたのかなんてもう覚えてすらいないだろう。


 話は逸れたけれど、今二人は生きていくために必要なお金を稼ぐことが出来ないと言うことだ。


「借金をするつもりならやめておけ。私はあまりお勧めしない」

「そうだね、それは僕もお勧めしないかな」

「ココがレオの分まで頑張るので大丈夫です!」

「ココ……ごめん」

「いいの、ココがレオを支えるからね」


 借金はチェルシーちゃんが失敗してたからオススメ出来ない。まあ借金をしていたのは当時パーティーを組んでいた少年の方だったのだけれどね。

 過去借金で問題を起こした他の冒険者を何度も見て来ているので、借金は避けるべきだ。


 しかしココちゃんは頑張ると言うけれど、何をするつもりなんだろうか?


「ココちゃん、何かあてはあるのかい?」

「ココが一人でたくさんの依頼を受けますから大丈夫です!」

「はぁ、さっき言った事をもう忘れたか? 魔物を舐めるな」

「忘れてません。依頼には町の中だけで出来るものもありますから」


 なるほど、お使いのような物から溝さらいまで、ボランティアに近いことをやらされ、貰える報酬もそれに見合わない少額の依頼を一日にいくつも受けるつもりなのか。

 ただ本当に端金のような報酬しかもらえないので、二人分の生活費を稼ぐには無理がありそうだな。


「依頼が無い日はどうするんだい?」

「あ、えっと……」

「はぁ、ココちゃんは掃除とか出来る?」

「はい、掃除は好きです」

「なら当分僕が雇うから家の掃除をお願いしてもいいかい? レオくんも知らない所でココちゃんが頑張るよりも安心でしょ?」


 そうすれば僕とココちゃんの接点も増えるし、家政婦を雇うよりも安上がりだ。二人が最低限生活出来るだけの賃金を与えるだけでいいからね。


「でも毎日は無理ですよね?」

「なら私も雇ってやる。アデラインとラシャドの世話を頼む。主にエサやりと遊び相手だ。これが結構大変でな、お前たちが生きていける最低限の金くらいはだしてやるから安心しろ」

「あ、ありがとうございます! はい、それで良いのであればお願いします!」

「ホープさん、エリーさん、ボクたちのためにありがとうございます」


「気にしなくて良いよ。早く治すんじゃ無くてゆっくりでも良いから完治を目指すようにね。じゃないと冒険者に戻った時にまたすぐにケガをしてしまうし、最悪死んでしまうかも知れない。レオくんとココちゃんは駆け出しでしかもまだまだ若いから焦る必要は無いよ」

「そうだな、折角ここまでしてやるのに簡単に死なれては困る。一緒に引率に参加した奴らが一歩先にランクを上げることになるかも知れないが、所詮はDランクだ。長い人生を考えるなら確実に完治させるんだな」

「はい、ありがとうございます……」


 今にも泣いてしまいそうな表情を浮かべるレオだが、すんでのところで止まり頭を下げた。

 それに釣られココちゃんも頭を下げる。


「じゃあ取り敢えず一週間分前払いで渡すから明日から頼むよ」

「え!? そ、そんな、まだ何もしてないからもらえません!」

「明日から僕たちは魔物の殲滅に向かうけれど、後処理まで考えると戻って来るまで数日はかかるんだ。僕たちが町に居る間は仕事が終わってから毎日ちゃんと払うけれどそうで無い時は前払いさせてもらうよ」

「働くだけ働かせて戻って来た時に宿を追い出されていても困るからな」

「ですが」


「いいからいいから。別に何もせずにそのお金を持って何処かへ消えてもいいよ?」

「そ、そんな事はしません!」

「なら大丈夫だね。これが家のカギになるから明日からよろしく」


 何処かに消えたらその時はギルドに報告して冒険者として二度と働く事が出来ないようにするだけだ。冒険者ギルドからブラックリストになった者は他の施設でもブラックリストになるので、一生まともな生活は送れなくなるだろう。


 絶対に不義理な事はしない、誠心誠意働きますと顔に書いているココちゃんへ僕は合鍵を渡して今日は帰ってもらうことにし、二人を見送った僕たちは明日に備えて準備をしてゆっくりと休むことにするのだった。

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