第56話 覚悟の差


 明朝から討伐隊に選ばれたパーティーが町を出発した。

 特に何かある訳もなく、会議で決めていた森へ侵入するための入口へと到着した。


「斥候の数が少ないな」


 そう溢したのはブス専Aランク冒険者。

 昨日の内から複数のパーティーから斥候を出していたのだけど、この場に情報を持って帰るはずだった人数よりも明らかに少なく、2人しかこの場に居なかった。


「6人中2人が罠でやられてしまった。初めに決めていた通り2人を監視として残して来ているが、オレたちCランクの斥候では心許ない」


 斥候が罠でやられるってかなり巧妙だ。しかも1人では無く2人も。

 別パーティーとは言え、複数人で斥候を行っていてもこの結果。Cランク冒険者たちの間で動揺が走っている。


「落ち着け! まずはお前達が得た情報を教えてくれ」


 ブス専の言葉で一定の動揺はおさまり、改めて斥候が持ち帰った話を聞く事になった。


「ラシャドからの情報と合わせると、一晩で要塞を作った事になるね」

「しかしそのおかげで魔物が一箇所にかなり集中している事になる」

「問題は女性たちもそこに囚われている事だね」


 聞かされた内容から考えるに、Cランクパーティーはかなり反発してしまうだろうやり方をするのが最も確実で効率的なのだけど、それを決めるのは僕では無く、Aランクパーティー【憧憬無頼アウアビジョン】だ。


「【捕食者プレデター】のホープだったか? 以前Aランクパーティーのリーダーをやってたらしいが、お前ならどうする?」

「僕なら開幕から高威力の遠距離攻撃を使ってもらう。魔法使いが一斉に魔法を放ち、外に出て来た奴らをアーチャー達が仕留める、かな」

「人間、特に女が多く囚われているがそれでもか?」

「それでもだね」


 恐らく要塞にいる女性の多くは性処理用にされた者達だろう。既に繁殖能力が殆ど無い魔物のオモチャ。

 そしてまだまだ苗床として使える女性の多くは奥に隠されているはず。最悪そこにオーガキングもいるだろうね。少なくともこの巣窟のボスはそこにいるはずだ。


「そんな事出来るわけないだろ! 女を殺せって言うのか!?」

「そうだ! 俺たちに人殺しをさせるつもりか!?」


 やっぱりだ、人を殺すことに難色を示すものが出て来た。彼ら以外にも同じようなことを僕にぶつけて来る者ばかりだ。


「君たちが言う通りだよ。殺せって言ってるんだ。僕たちが何のために来たか分かってるのかい? 魔物の殲滅であって、人の救出では無いんだ。優先順位を履き違えているなら今ここで改めてくれるかな?」

「おいおい、まだお前の案を聞いただけで俺は決定と言ってないだろ。だが言っている事は間違ってないな。俺たちは魔物を殲滅し、囚われていた者たちを救助する。ただしこの救助対象とは魔物を殲滅した時に生きていた者だけだ」


 てっきり僕を悪役にするだけかと思っていたけれど、味方をしてくれるのか。もしかすると僕を試していただけか?


「と言う事で遠距離攻撃を使える奴らで一掃。要塞を突破後、【憧憬無頼アウアビジョン】と【捕食者プレデター】が奥の本陣へ攻め込む。残りは【黒鉄飛龍アイアンドラゴン】を中心に他パーティーで殲滅。殲滅後は周囲の警戒と生きている人間の救助だ。異論のある者はいるか?」


「あるに決まってるだろ! 人がいるかも知れない場所に一斉攻撃なんて出来るわけないだろうが!」

「俺もできない! そんなことをするためにこんな所に来たんじゃないんだぞ!?」

「私も無理よ!」


「俺たち【黒鉄飛龍アイアンドラゴン】は問題ない。ただし【捕食者プレデター】では無く俺たち【黒鉄飛龍アイアンドラゴン】を本陣に行かせてくれるならだがな」


 やはり殺しは無理かと思い妥協案を提案しようとすると、【黒鉄飛龍アイアンドラゴン】のリーダーが賛成した。流石に腐ってもBランクパーティーだ、覚悟をちゃんと持っている。


 上位のパーティー全てが殺すと決めた。と言う事は囚われた者たちを殺す事は確定となる。残りのパーティー全員が反対したとしてもこれが覆ることは無い。


「俺は別に【捕食者プレデター】でも【黒鉄飛龍アイアンドラゴン】でもいいから問題無いぞ? まあそうだな、お前達は纏めるって言うより暴れる方がお似合いそうだしそうするか。【捕食者プレデター】もそれで良いか?」

「僕は構わないよ。エリーは?」

「私も別にそれで構わん」

「なら決まりだな」


 もしも本当にオーガキングがいても【憧憬無頼アウアビジョン】がいるなら問題無いはず。ならば僕らよりも弱い【黒鉄飛龍アイアンドラゴン】がサポートとしてついて行っても問題無いだろう。


「ちょっと待ってくれよ! 人を殺さないといけないなら俺はランクを落とされた方がマシだ!」

「そうよ! 私も無理!」


「もういい、殺れる奴だけにやらせる。その代わり絶対に一匹残らず全部殺せ。いいな?」


「あ、ああ」

「わ、分かったわよ……」


 結局Cランクパーティーからは魔法使いが2人だけしか手を挙げる者が現れなかった。


「要塞内の魔物にデバフはいけるよな?」

「問題無いよ」

「それは頼もしいな! バフはこっちが担当するから要塞毎潰すつもりでやるぞ」

「了解」


 要塞毎潰すって事は要塞にもデバフしろって事だよね。これはかなり魔力を使うことになりそうだ。


「どうやらお迎えが来たみたいだぞ」


 エリーがそう言ったのでエリーの視線の先を見ると、そこにはこちらを嘲笑しているかのように笑みを浮かべるオークがいた。


「斥候が全滅させられたみたいだね。ここまで攻めて来ないって事は向こうの斥候か囮かな?」

「<パワーシュート>」


 僕がすぐに倒すべきか考えていると【憧憬無頼アウアビジョン】の一人がアーチャーのスキルを使い瞬殺してしまった。よく使われるスキルの一つだけれど、高ランク冒険者に相応しい威力と正確さは流石としか言えない。


「これで向こうに離れてても瞬殺出来る攻撃があるってバレちゃったね」

「そんな事を一々考えていたらいつまで経っても殲滅に向かえん」

「ごもっともで」


 確かに相手に情報を漏らさないために徹底していたらいつまで経ってもこの依頼を終わらせる事は出来ない。むしろ被害を増やしてしまう可能性もある。彼の言ってることは概ね正しい。


「敵の巣窟までは斥候二人と【捕食者プレデター】のブラックウルフに道案内を頼む。全員すでに森の中全てが魔物のテリトリーと言う意識だけは忘れずにしろ!」


 会議の時点で道案内役は決めており、ブラックウルフであるアデラインもそのメンバーとして加えられていた。

 確かにアデラインなら嗅覚だけで殆どの罠を回避する力があるので適役だ。実際ココちゃんたちを助けた際には一切の罠に引っかからず魔物の殲滅に成功していたからね。


 斥候の二人もここまで生きて戻って来たのである程度の信頼は置けるだろう。戻って来たルートに罠を仕掛けられている可能性も捨て切れないが、先ほど言われたようにそこまで一々考えていたら進む事は出来ない。


 全員の意識が一つに定まった事を確認し、僕たちは魔物の殲滅をするため森に、そして凶悪な魔物たちのテリトリーへと踏み込むのだった。

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