第23話 力の支配者
やはりか、デバフのかかりが悪い。おそらく魔法によるデバフへの耐性を上げる装備を全員つけているのだろう。完全に僕対策をしてきているわけだ。
しかしかかりが悪いといっても効いていないわけではない。むしろ問題なのはかけた端から解除されていることだな。
あの新メンバーか。こちらのデバフを解除し、さらに味方へバフを付与している姿は確かにAランクパーティに入れる実力があると言える。
しかし最初から分かっていたが、エリーではキツいか。今もダークアウルのラシャドが空から攻撃を繰り出し、ブラックウルフのアデラインがかく乱してくれているからギリギリ耐える事が出来ている状況だ。
「どうした二流テイマー! 遅い遅い!」
「ぐっ、三流聖騎士に言われたくない!」
「へえ、まだそんな口が聞けるか」
騎士の力を持ち、神聖魔法まで使える聖騎士相手に押されながらもなんとかなっているのは
エリーの力試しはこの辺でやめさせよう。
「エリー時間だ」
「ちっ、本当なら今のままで殺してやりたかったが仕方ないか」
「おいおい、何の時間だよリーダー。降参でもする――」
「黙れ。僕に喧嘩を売った罪、その命で償え」
「へえ、いいぜリーダー、やってみろよ。マヤ、全力で全員にバフだ!」
「こんなデバッファー相手に必要無いのでは?」
「いいからやれ! 本気になったリーダーを舐めるな!」
「はあ、分かりましたよ」
僕の言葉を本気と捉えたレナルドは今までとは違い、油断などせずに全力で受けるつもりのようだな。
その態度に不満を持ちつつもマヤは全員にバフを施していく。はっきり言って過剰過ぎるほどのバフだ。
「へえ、思ってたよりバフの効果が高そうだね」
「当たり前です、その辺のバッファーと一緒にしないで下さい」
自信満々に言ってくるが、それが
「いくぞエリー、感覚に気をつけろ」
「ああ、任せろ」
「<
<
だからだろうか、レナルドたちも構えていた割に何も起きない事に怪訝な表情を浮かべる。
「何だリーダー、初めて聞く魔法だが、何も無いじゃ……ぐっ、な、何だこのデバフは。マヤ、解除だ! 早くかい――」
「ふう、流石にまだ体が慣れないな。だがこれなら残りは私一人で問題なさそうだ」
レナルドが一番早く異変に気付き指示を出すが、そんなの関係無いと言わんばかりにエリーがクビを刎ねた。
レナルドのクビがいきなり無くなった事に全員が唖然としている。
そして自分たちに起きている異変に気付きエマは全員にデバフ魔法を解除する魔法、<
魔法には魔法しか対応出来ないものがある。それはスキルにおいても同じ事が言える。
そう、<
「だめ、解除出来ないです! こうなったらもっとバフを!」
「早くしろ! あのテイマーだけじゃなく、従魔まで強くなっ――」
「うるさいぞ、やっと慣れてきて最高に気持ち良くなってきたな!」
あ、エリーのスイッチが入りかけてるな。僕よりエリーの方が人を殺す事に躊躇が無いというか、楽しんでたりすることもあるからなあ。
「ほ、ホープくん、これは一体……?」
「冥途の土産に教えてあげる。簡単に言うと、僕たちにかかってるバフとデバフ、そして君たちにかかってるバフやデバフを交換するスキルだよ。面白いでしょ?」
「そんなスキル聞いた事ありません」
「だろうね、数日前までエリーにも教えてなかったし、多分歴史的にみても誰も覚えてないと思うよ。だって今までデバッファーとバッファー二つのジョブを授かったという事例は無いからね。特定のジョブの組み合わせは特殊な魔法やスキルを覚える。君が一番知っているだろう? 火炎魔法使いと風魔法使いの組み合わせで他にない強力な魔法が使える君ならね」
「え……? ホープくんのジョブはデバッファーだけなんじゃ?」
「そんなわけないでしょ。全部を教えるなんてバカのする事だよ」
「この裏切り者! 嘘吐き! 初めから嵌めるつもりだったのか!」
「裏切ってないよ。君たちに辟易してパーティを抜けただけだし、むしろ僕の気持ちを裏切ったのは君たちだ。嘘を吐いたわけじゃない、教えなかっただけだ。さっき教えたレベルはバッファーのレベルだよ。そして今回嵌めようとしたのは君たちだろ。エリー、コイツももう殺していいよ」
「ま、待っておねが――」
「さて、あとはそこのバッファーだけだな」
気付くとエリーはフレイヤのクビを刎ねる前にイザベラのクビも綺麗に刎ねていた。
流石にマヤのバフがかかったエリー相手に僕のデバフが付与された状態では10ほどのレベル差があっても太刀打ち出来なかったようだ。
「さてと、あとは君だけだけどどうする?」
「み、見逃してください! 私は、そう! 私はこの人たちに脅され無理やりパーティに入れられただけで、今回も逆らえなかったのです! だからどうか見逃してください!」
「らしいけど、エリーどう思う?」
「いやどう考えても嘘だろ。ここで見逃せばきっとホープがジョブを二つ持っている事が知れ渡るぞ」
「それもそうだね、じゃあエリーには特別にバフをかけてあげよう」
「そんな!」
「バフにバフの重ねがけが出来るのか、すごいな!」
「今なら体感でレベル70以上の強さになってるから好きに殺すといい」
「いや! たすけ――」
一線。ただエリーがまっすぐマヤの元へ走り、そのまますれ違ったと思うとマヤのクビはごとりと地に落ち、鮮血が迸った。
そしてエリーは制御出来ず、勢いよく転けてしまった。
普段クールに振る舞っているが、盛大に転けてしまった姿につい笑みが溢れた。
「笑うなホープ。バフのおかげでかすり傷程度で終わってよかった。次があればこんな事にならないよう気をつけよう」
やっと終わったか。しかし殆どエリーしか頑張ってないな。
まあ僕とベンが参加すると正直話にならないからなぁ。
「今回の件私にはいい事づくしだった。なんせレベルが3つも上がったからな。高レベルの冒険者がこんなにも経験値をくれるとは思わなかった。従魔たちも皆レベルが上がっているようだ」
「それはよかったね。僕は上がらなかったから羨ましい限りだ」
「それとホープが秘密を教えてくれた事が嬉しかった。ありがとう」
「いいよ、これまでの付き合いで十分信用出来ると思ったから教えたんだ。こっちこそ礼を言いたいくらいさ」
この三年、お互いに助け合ってきてエリーを信用出来ると感じる事が出来た。
正直合わなければすぐに解散するつもりだったくらいだしね。
「あのー、この死体はどうするので? 一応隣国である帝国の、それもAランク冒険者たちです。公表すると色々と面倒な事になりますが……」
「問題ない、私たちが処分するからジャスパーさんが黙ってさえいてくれればだがな」
「エリー言い方。すみませんジャスパーさん。でも黙っていてもらえると助かります」
「分かっております。私は何も見てない聞いてない。ここで何が起こったか知らない。それだけです」
隣国である帝国の高ランク冒険者を殺したとなれば冒険者ギルドは黙っていないだろう。
それに冒険者ギルドと国は不可侵だと言われているが、流石に帝国も黙ってはいないはずだ。
この場に僕たち以外に誰もいなくてよかった。
あとはジャスパーさんが見ていない所で死体とクビをベンに回収してもらうだけだな。
これでネクロマンサーのベンは更に強くなったと言えるだろう。
僕たちは戦いの後を隠蔽して昼食を取るのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます