第2話 貪られ

◇ ◇ ◇ ◇


 夜の帳がおり、室内には月明りしか差し込んでおらず、そこにはゆりかごのように揺れる影があった。

 闇が光を包み込み、光は闇へ縋るように絡みつく。今だけは離さないで欲しいと言わんばかりに光は闇を抱きしめる。触れてはならなかった闇だとは知らずに。


 くぐもった声と顔をしかめてしまいそうな臭いが部屋中を覆い、少女は戻る事叶わぬ紅の涙と白い悪意で染められていた。

 甘く優しい、心の奥にじわじわと染み入るような堕落の儀式は明け方まで続いた。


◇ ◇ ◇ ◇


「やっと起きて来たか。ホープ、ギルドから我々に依頼があるそうだ」

「おはようエリー。依頼? もう受けたの?」

「まだだ、これから一緒に聞きに行くぞ」

「僕今起きたばかりなんだけど……」

「うるさい、遅くまで楽しんでいただけだろうが」

「わかったわかった、じゃあアイリちゃんに一応書置きだけしてくるからちょっと待ってて」


 部屋から出るとパーティメンバーのエリーが呆れたようにこちらを見ていた。

 どうもかなり待ってくれていたようで、時計を見ると既に昼を過ぎていた。


「依頼ってなんだろう。何か心当たりある?」

「ルーキーとは言え、魔法剣士を殺してしまうような魔物の討伐じゃないか?」

「あー、アイリちゃん達ルーキーがいるから安全を優先して撤退してきたって説明しちゃったからね。二人で討伐してこいって事か。それか別のパーティと合同ってところかな」


 本当ならあのガキを助けて心象を良くしようと思っていたけどムカついて殺してしまったからなぁ。

 結構な数の魔物がいることを一緒にいたルーキー達が見ていたので、撤退した理由をギルドに伝えた時、疑われることもなく納得してくれた。

 数がいる事をギルド側も把握する事になったので合同討伐の可能性もあるだろう。


「それで、ちゃんと撮ってあるんだろうな?」


 冒険者ギルドへ向かう途中、すました顔でエリーが聞いてくる。


「ちゃんと撮ってあるよ。ほら」


 僕は頼まれていた物を渡すとエリーは少しだけ口角を上げた。


「毎回思うけど、僕のハメ撮りを見て楽しい? 趣味が悪くない?」

「寝取り趣味があるお前にどうのと言われたくない。それで今回の娘はどうだったんだ?」


 僕が渡したものは映像を記録する事が出来る魔石。その中には昨晩楽しませて貰ったアイリちゃんとの行為が記録されている。

 僕にアイリちゃんの事を聞きながらも、魔石から目を離すことはしないエリーの声はわずかだが期待をしているのがわかる。


「僕に言われたくないって、その行為を見て楽しんでいるエリーに言われたくないんだけど。アイリちゃんは普通だったかな。優しくしたらすぐ股を開いてくれたし、受け入れるのも早かったからエリー好みとは違うかな」

「心が落ちてしまっているところに酒と魔法を使っている奴の言う事ではないな。しかしそうか、たまには無理やりやるところを見たいんだがな」

「うーんそうだね、今回は優しく癒すようにしたし、じゃあ次の子はそうしようか」

「ああ、頼むぞ」


 無理やりやるところか。僕とエリーはルーキー専門だから難しくはないけど、どうしたものか。

 エリーと次の獲物をどういただこうか話していると冒険者ギルドに到着した。


 中へ入ると冒険者が5人ほどいた。【白い騎士ホワイトナイツ】という男4人のパーティが1人の少女に何か話しかけている。多分あれは下心まるだしの勧誘だな。気が弱そうだし断り切れずに入れられるんだろうな。可哀想に。


「やっと来たか【捕食者プレデター】。奥の部屋で話そう」


 僕たちが受付に向かおうとしていると奥からギルドマスターが現れ僕とエリーをパーティ名で呼び、奥へ来いと言って来た。

 奥の部屋って事は聞かれたくない話か。面倒な依頼にならなければいいな。


「すまないな。出来るだけ外に出したくない内容だったんで奥に呼ばせてもらった」


 部屋に入り椅子に座るとギルドマスターが話し出す。


「スケルトンウォリアーとウルフの群れがダンジョンで発生したという件なんだが、お前たち【捕食者プレデター】に頼みたい事がある」

「残った魔物の討伐か?」


 エリーが単刀直入に聞く。


「それも頼みたいが、メインは違う」

「メイン?」

「おそらくだが今回の魔物の大量発生は人為的に行われたものではないかと考えている」

「人為的とはどういうことだ。まさか私たちを疑っているのか?」

「そうじゃない、俺の考えではさっきいた4人組の【白い騎士ホワイトナイツ】じゃないかと思っている」


 人為的に発生させたと考え、しかも犯人に当たりまで付けているのか。


「確かにあいつらはあまり評判がよくないが、それは女関係がメインだったはずだ。何か思い当たる節でもあるのか?」

「お前たちだから言うが、【白い騎士ホワイトナイツ】には召喚術師がいる」

「なるほど、確かに召喚術師なら可能だろうが、私たちしか近くに人間はいなかったはずだ。となると離れた位置に魔物を召喚した事になるが、それが出来るのは高レベル、それこそAランク以上の冒険者にしか出来ない芸当だ。だがあいつらは万年Dランクだぞ」

「これは公にされていないが、低レベルでも可能な方法がある」

「それを私たちに教えると? ホープが悪用するかも知れんぞ?」

「そうだね、僕なら悪用しかねない。だから僕は帰っていい?」


 これはめんどくさいな、証拠を手に入れて捕縛または討伐をしろって事になりそうだ。

 これ以上聞きたくないので僕は帰ろうとするが止められてしまう。


「俺はお前たちを信用している。ルーキーを守るために撤退を選べる冒険者は少ない。そんな奴らが悪用するとは思えん。そもそもギルドは信用出来ない奴らをBランク冒険者にすることは無いからな」

「はぁ、分かったよ」


 こんな時にランクの話を出すのは卑怯だ。適度にこういう依頼を受けなければランクを下げられてしまい、信用を失う事になりかねない。

 僕とエリーの楽しみの為には信用がもっとも大切だといっても過言では無い。

 だから受けるしかなくなってしまった。


 そしてギルドマスターの口から説明された内容を聞いて僕とエリーは次の獲物を決めたのだった。

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