第9話 偽物
「私たちも混ぜてもらえるか?」
エリーはキャンプ場と化したダンジョン前の広場で楽しそうにナンパしている冒険者達の下へ向かい私も混ぜろといつもより少し低い声をかける。
「あ? 誰だ俺たちの邪魔……おっと忘れてた、俺たちはやらなきゃならない事があるんだった。失礼します!」
「そうか、ちゃんとやる事はやっておくがいい」
エリーに話しかけられた男は振り向きエリーの顔を見ると血相を変え、脱兎の如く走り去っていった。
「大丈夫だったか?」
「は、はい。助けていただきありがとうございました」
「気にするな。これでもこの辺ではそれなりに知られてるからな」
「そうそう、泣く子も黙る美人テイマーとして有名だもんね」
「泣く子も黙るって必要か? そこは美人テイマーだけでいいだろうに」
「美人って所を否定しないあたりがエリーっぽいよね」
人前で度を過ぎたウザ絡みをされれば殴って黙らせるので一部でエリーは恐れられている。
特に男冒険者を黙らせ過ぎて、エリーに絡もうとするのは何も知らないルーキーや他の町から来た者達くらいだ。
よく男がナンパ目的で絡みまくるので自身が美人であると確信し、それ以降見た目に関して一切謙遜する事がなくなったそうだ。
僕とエリーの話にきょとんとする少女はハッとしたように質問をしてきた。
「テイマーでエリーさんって、もしかして【
「そうだよ。美人テイマーのエリーと、僕が虎の威を借り、金でランクを買ったと有名なホープだ。よろしくね」
「はあ、よくもまあぬけぬけとそんな事が言えるものだ」
「周りの評価で自己紹介した方が伝わりやすいからね」
「私はミラといいます。最近こちらに来たばかりのEランク冒険者です、よろしくお願いします。その、お二人の会話を聞くにホープさんの噂はデタラメなのですか?」
「どういう噂を聞いたかは知らないが、大体デタラメだ。まず私よりホープの方が強い。そして冒険者のランクは金で買えない」
「いやーエリーより強いは言い過ぎじゃない?」
「まったく、そういう事にしておいてやる」
僕の冒険者としての評価はギルドや高ランク冒険者たちからは悪くない。
だがランクが下がるにつれて僕への評価は下がっていくことが多い。
デバッファーはあまりいないので希少性はある。だが低レベル帯では殆ど役に立たないのだ。そして大体のデバッファーは自身が足を引っ張っていると理解し、早々に冒険者をやめていく。自分でやめなくてもパーティから追放されることも少なくない。
だからか、役立たずですぐに冒険者をやめる足手まといとしか思われていない。
冒険者のランクについてはエリーの言う通りで金で買う事は出来ない。そんなことをギルマスの前で言おうものなら最悪ランク降格や脱退させられる。
ギルドが不正を行っていると言っているようなものだからな。
「まあ大体デタラメだけど否定して回るのが面倒なんだよね。話は変わるけどミラちゃんは最近この町に来たって言ってたけど、どこから来たかって教えてもらえるかい?」
「はい、ロヴンツという町から来ました。それがどうかしましたか?」
「ロヴンツか。いやね、実は僕たち別の町へ行こうかと思ってるんだ。だから参考程度に話でも聞けたらなって」
「そうだったんですね、でしたら先ほどのお礼になるか分かりませんがなんでも聞いてください。ロヴンツは私の生まれ育った町なので」
「待て、ここではなんだ、どこか落ち着ける場所に移動を……ってお前一人では無いのではないか? 仲間を待たせては悪い、今度にしよう」
「確かにそうだ、お仲間さんも心配してるかもしれない。ごめんね引き止めちゃって」
「いえ、そんな! そうだ、良ければ一緒にお食事をしませんか? お食事をしながらならお話も出来ますので。それに仲間もロヴンツ出身なので私が知らない話も聞けると思いますよ」
話しかける前にバレないように魔法を使ったからか、少しずつ距離が近くなってきてるな。それも物理的に。この子魔法が効きやすいタイプだな。
「そう? じゃあご一緒しようかな。エリーもいいだろ?」
「分かった分かった。ミラだったか、そいつは見た目はいいがやめといた方がいいぞ」
「おお、エリーが褒めてくれた。珍しい事もあるね」
「褒めてない」
「ふふ、お二人は仲がよろしいのですね。もしかして恋人関係だったりするのですか?」
「「それはない」」
「そ、そうですか」
「いやまあ仲がいいのは認めるけど恋人関係は無いって感じかな。多分エリーもそんな感じでしょ?」
「そうだな。お互い好みと言うものがあるからな」
僕とエリーが恋人ではないと知り、ミラちゃんは少し嬉しそうにする。
うん、徐々に魔法の効き目があらわれてきてるな。今日は久しぶりに女の子を抱けそうだ。
「ミラまだか? オーウェンも待ってるぞ」
「あ、カーター。ごめん、こちらのお二人とお話させてもらってたらつい。今から一緒に食べようってなってね、丁度戻るところだったの」
「誰だこいつら?」
おお、彼が仲間か。明らかに年上でランクも上にしか見えない相手によくそんなに偉そうな態度をとれるな。近いうちに他の冒険者と
「もうちょっと言い方を気を付けなさい。【
「よろしくね」
ミラちゃんも大変だな。こんなのとパーティを続けるなんて僕には無理だ。
エリーもそう思ったのか、それともカーターの態度を気に入らないのか、言葉すら発しない。
「こいつらが【
「らしいぞホープ、言わせたままでいいのか?」
カーターの物言いに、少しだけ不快感を混ぜながらも楽しそうに僕へ話しかけるエリー。
僕を娯楽にするのは魔石の中だけにして欲しいんだけど。
「いいんじゃない? 仮に僕がDランクの偽物冒険者だったとしても彼より強い存在なのは変わりないし、それを理解せず見た目だけしか見てないイキった子供の相手をしても時間の無駄だからね」
「それもそうだな。悪いがミラ、君の仲間は私たちとは仲良くしたくなさそうだからやっぱり食事は別にしよう。まあ困ったことがあればいつでも来るといい。ではな」
「ごめんねミラちゃん、変な空気にさせたみたいで」
「そ、そんな。こちらの方こそ仲間が失礼な事を言ってすみません」
「ミラ、そんな腰抜け相手に謝ることはねえよ。偽物もさっさとどっかに消えろよ目障りだ」
「カーターいい加減にして!」
はあ、イキりルーキーってなんでこんなに多いんだろうか。毎年絶対出てくるから不思議だ。まあいいや、今のままなら何もしなくてもそのうちダンジョンで死んでそうだし相手にするだけ無駄だ。
僕はエリーと共に来た道を戻る事にする。
「ホープ、お前はどうみる?」
「魔法のかかり具合を見るに9割でイケると思う」
「そうか、なら魔石に記録するのを忘れないでくれよ?」
「わかったわかった」
僕もエリーも考えている事は同じで、ヤレるかどうか、それしか考えていなかった。
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