第48話 打ち上げ
朝になったのか、ラシャドに甘噛みで起こされる。
「おはようラシャド」
「ホッホッ!」
周りを見ると最後に夜番をしていたチェルシーちゃんとフィンレーが他の子たちを起こしている。
さてと、朝から硬くてボソボソした食事は嫌なので僕は小型魔導コンロを取り出して湯を沸かし始める。
湯に入れ少し混ぜるだけでスープになる保存食を二人分使う。僕とエリー用だ。
そのつもりだったんだけども、みんなの視線がすごい。
「分かった分かった、流石に全員分は無いから少しずつだよ?」
僕の言葉に全員が思い思いに喜びを表している。仕方ないのでスープの素をいくつか追加する。まあたまにはいいか。
朝食を食べ終わり、また引率指導を行なっていく。
彼等のレベルは低いが、言われたことをちゃんと吸収しているので思ったより戦えるようになってきた。
「エリーはどう思う?」
「レベルのわりに戦えているな。油断さえしなければこのダンジョンでもDランクまで上がれるだろう」
Dランクまで上がれるか。要するに油断さえしなければ昇格するまで死なないってことだ。
ゴブリンばかりのダンジョンでその評価なら問題なさそうだね。
「後は僕たちが見てないところでも気を抜かなければ大丈夫だろうね。問題は魔物よりも冒険者って感じかなあ」
「どこにでも同業殺しはいるからな。まあこいつらに手を出せば私たちが黙ってないとでも思わせておけば多少は大丈夫だろうさ」
「そうだね、彼らには僕たちが良い冒険者だと広めてもらわなければならないからね」
皆んなには聞こえないよう小声で話す。
少しずつこの町で信用を勝ち取って行き善良な冒険者だと思われたい。そのための第一歩が今回の引率指導だ。
ルーキーからの信用、そして少しずつギルドからの信用を勝ち取り残りの冒険者たちからも認められる。
要するに適度に殺したり犯したりを怪しまれずにやることが出来る環境作りだ。
この日も無事に夜を迎えることが出来た。夜番を行いそして次の日がくる。
「じゃあこれで今回は町に戻るよ」
2泊3日の引率指導。3日目は昼食をダンジョンで食べ、そのあとギルドまで一緒に帰還という内容だ。
皆んなの様子を見る限りだとやはり疲れが溜まっている。だけどもう少しダンジョンにいたそうにしている子もいるな。
しかしそんなのは関係ないのでさっさとダンジョンから脱出して町へと戻りギルドへと報告に向かう。
「引率依頼を終えて無事帰還しました」
「お疲れ様です、ルーキーの皆さんもお疲れ様です。では会議室へ案内しますね」
受付で報告をすると僕たちは全員会議室へと連れられていく。
複数パーティで依頼を受注したときなどは受付ではなくこう言った感じで会議室で報告をする事は少なくない。
「じゃあ【
「そうですね、無理をせずに教えたことさえ出来ればパーティ単位でもなんとかなるかと。引き際さえ間違えなければDランクに上がれると思います」
「なるほどな」
副ギルドマスターから確認されたので簡単な報告を伝える。
一応指導をしている合間に報告書のような物も書かされるのである程度は読み取ってくれているだろう。
そして今回はそれぞれが戦闘を行っている姿を魔石に録画してきた。
「魔石で見る限り戦闘もルーキーにしては安定している。確かに無理さえしなければ問題ないだろう」
そう言って副ギルドマスターはルーキーたちと少しだけ質疑応答をすると最後に鼓舞して会議室から出ていった。
「そういえばみんなどこで寝泊まりしてるんだい?」
「俺たち三人はくちばし亭ってところっす」
「ボクたちは子牛亭です」
「オレは馬房す」
『馬房!?』
フィンレーだけおかしなところで寝泊まりしている事をみんなで驚く。いや馬房って初めて聞いたよ。
「ま、まあ馬房についてはいいとして、くちばし亭と子牛亭ってどっちの方が料理が美味しい?」
「料理っすか? あんまり美味いとは思わないっすね」
「ボクもそんなに美味しいとは思えなかったです」
料理が美味しくない宿って事はやっぱり安宿なんだろうな。
「なんでそんな事聞くんすか? もしかして宿に困ってるんすか?」
「宿には困ってないよ。折角だからお疲れさまってことで今回だけ特別に食事でも奢ってあげようかと思っただけさ。でもやっぱり食べるなら美味しいお店がいいからどうしようかな」
食事を奢ると聞くと全員が歓喜の声を上げた。ルーキーはあまり食にお金を回せないから久しぶりのご馳走なのかもしれない。
ルーキーばかりではどの店が美味しいか分からないのでギルドの受付嬢に聞き、近くにある酒場へと訪れた。
「好きなのを頼んでいいよ。ただし残したら自腹だからね」
僕の言葉に皆んなが思い思いのメニューを注文していく。まったく、こいつら容赦ないな。
まあいいや、取り敢えず全員に酒を飲ませてどれくらい強いかの確認だ。
「料理と酒も揃った事だし食べようか、じゃあ乾杯!」
『乾杯!』
全員が酒を
彼らに負けないように僕とエリーも食べることにする。
「俺一生ホープさんについていくっす!」
「オレもす!」
いやそこまでは君たちに求めてないよ。君たちのパーティに女の子いないじゃん。女の子を加入させて出直してくれ。
「ついてこなくていいよ」
「そんなぁ、いいじゃないっすかぁ」
「たまに相談に乗るくらいはしてあげるからそれで勘弁してくれ」
「言ったっすよ? 絶対相談に乗ってもらうっすからね?」
はあ、ココちゃんなら喜んで相談に乗るんだけどな。なんなら僕の上にも乗らせるのに。
「おいおいなんだなんだ? ルーキー風情がそんなに飯を食って大丈夫か? 羽振がいいなら俺たちにも奢ってくれよ、なあ?」
僕たちが楽しく飲み食いしているとガラの悪そうな冒険者四人に絡まれる。
「なんだ貴様ら、ルーキーにしか絡むことが出来ないチンピラは消えろ。飯が不味くなる」
「なんだと? 女のクセにイキってんじゃねえよ。それとも俺たちの相手をしてくれるのか?」
「いいだろう、貴様ら表に出ろ」
そうだよね、エリーは相手が誰でも受けて立つよね。
「いいんすかホープさん、あいつらBランクパーティの【
「大丈夫じゃない?」
「そんなわけないですって!」
まあそう思っても仕方ないか。
「エリー、3分だ。それで無理なら時間切れだよ?」
「分かった」
3分、それはエリーにかけているデバフを解除するまでの時間だ。どうせ相手も一人相手に本気を出したりはしないだろうから問題ないだろう。
僕の3分発言に【
そして店の前にエリーたちが出ていって5分もせずにエリーは戻ってきた。いや心配して見にいっていたルーキーたちも一緒だ。
「お疲れ、ほらポーション」
やっぱり3分じゃ無理だったか。多少ケガをしてるから3分間は防戦一方だったんだろう。ただそこからはデバフが消えるからまるでバフがいきなりかかったかのような強さに変わる。
そしてデバフが切れた瞬間に一人をダウンさせて近くで舐めたように見ていた仲間を一気に倒したのだろう。少し時間がかかったので一人二人に手間取ったって感じかな?
「助かる。持ち金を賭けたから金を沢山くれたぞ。今日の食費になった」
「はぁ、お店やお客に迷惑をかけたしそれを使っていいかい?」
「それもそうか。皆、迷惑をかけた! 今日は全て私が奢るから好きに飲み食いするがいい!」
エリーは手に入れたばかりのお金を高々に掲げて宣言する。
その言葉に客は声を上げて喜びエリーを讃えるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます