二章
第52話 新人受付嬢
◇ ◇ ◇ ◇
日は落ち暗闇の刻が顔を覗かせる。
夕闇に響くは笑いや怒号、そして家族の明るい希望に満ちた声。
闇は飢え、光を今日も呑み込んでいく。
誰もが手を伸ばし、掴む事叶わぬ新緑の光を。
部屋に響く音は新緑が放つ慟哭。しかしそれも闇は呑み込み、溶かしていく。
新緑を満たすは濁り酒よりも白く、そして強く酔う淫靡な捧げ物。
種が芽吹くかどうか、それを知るにはまだ早い。
◇ ◇ ◇ ◇
最近冒険者ギルドには新人の受付嬢が何人か入って来た。受付嬢をするくらいだ、どの子も可愛く魅力的で、男の冒険者たちはそれだけで色めき立っている。
「どこの冒険者ギルドもやはり新人の受付嬢が入ると盛り上がるね」
「その分良いところを見せようと無理をして死ぬバカが出て来るがな」
少しでも自分はすごいのだと誇示するために、男たちは普段よりも難易度や報酬の良い依頼を受けがちだ。だからエリーの言う通りで、無茶をして死ぬバカが何人か、最悪パーティ単位で出てくる。
「そもそも冒険者とギルド関係者はプライベートでの接触を禁止されてるからあまり意味無いんだけどね」
「たまに引退したりする奴がそのまま結婚するなんて事があるからな。夢は捨て切れないんだろう」
「あれはそれなりに成功した冒険者だけなんだけどねぇ。受付嬢の方が惚れて仕事を辞める時も大体は成功した冒険者と一緒になるためだし」
「要するにあそこで新人に群がっている三流冒険者に希望は無いってことだな」
冒険者とギルド関係者が親密になるのは基本的に許されていない。特に恋仲になる事はキツく禁止されている。
理由としては簡単で、優遇したり仕事に関しての情報を流しやすくなるからだ。
過去にそう言ったトラブルがいくつも起こり、貴族の情報まで流してしまい処刑された者も少なくない。
それ以降は基本的に禁止されたが、それでも関係を持つ者達は後を絶たないし、表に出さずにちゃんとしていれば見て見ぬふりをしてくれたりもする。
そして僕は昨晩新人受付嬢の一人を抱いていた。
たまに初めての時にかなり痛がる子がいるけれど、昨晩の子は痛みで泣き叫んでいた。
まあ唇を塞いでやれば勝手に落ち着いてすぐに目を蕩けさせていたんだけどね。
「そうそう、これ昨日の奴ね」
「助かる。昨晩は帰って来なかったが宿にでも泊まったのか?」
「そう言えば言ってなかったっけ? いつでも使える部屋を借りたんだよ。そっちの方が都合がいい時もあるからね」
「聞いてないな。まあ仕事に支障が出ないのであれば問題ない。それに魔石をくれるのだ、私もその部屋の家賃を半分出そう」
「そう高い部屋じゃないから別にいいよ」
「しかしこれは私の気持ちの問題だ」
「ならさ、消音の魔道具が欲しいかも。声が大きいと周りに聞こえてしまいそうなんだよね」
「なるほど、なら範囲はどれくらいがいい? 少なくともベッド一つ分は必要だろう?」
「ダブルベッドくらいでいいかな。本音を言えば部屋全部が入るくらいって言いたいけど、流石にそれはお金が足りないからね。ダブルベッド分の広さがあればそれなりにカバー出来ると思う」
「範囲が広くなるにしたがって一気に値段が上がるからな。分かった、次の依頼から戻り次第用意する」
消音の魔道具はある一定の広さを超えると一気に値段が膨れ上がる。エリー一人のお金ではあまり広範囲の物は買えないほどだ。
正直僕たちがたまに使うテントも結構な値段がしていたりする。
「今日はあまりいい依頼も無いみたいだしどうする?」
「依頼も受けずにここのダンジョンに行っても旨味が無いし、日帰りで出来る近くの森に行くか。確か依頼もあったはずだ」
「了解」
森での採取依頼を僕たちは受けることにした。ルーキーや採取を避けてきた冒険者たちでは中々見つけることが出来ない苔を採取する、鼻の良いモンスターをテイムしていれば簡単にクリア出来る依頼だ。
「これをお願いします」
まだ研修中の新人受付嬢たちが先輩受付嬢と共に全ての受付をそれぞれ担当しているので、僕は昨晩抱いて女にしてやった子に依頼の手続きを頼んだ。
「あ、ホープさん。こ、こちらの依頼ですね。はい、では受注完了しました。頑張ってください♡」
「ありがとうサリーちゃん。頑張ってくるよ」
頬を染めたサリーちゃんに笑顔で答えて僕はエリーの元へと戻る。
「サリー、冒険者相手に本気になるのはダメですよ?」
「サリーちゃん、俺も頑張るぞ!」
「流石にDランク冒険者のお前じゃ相手にされないから諦めろ」
後ろからはサリーちゃんを嗜める先輩受付嬢や、自分にも甘い声で応援してもらいたい冒険者、そして現実を教えてやる冒険者の声が聞こえてきた。
サリーちゃんが声を放つその口は今朝も僕のモノを咥えていたなんて誰も思ってないんだろうね。
皆んなのアイドルを女にして躾をしてやった事を思い出してついニヤけてしまいそうだ。
「くっくっくっ、滑稽過ぎて私も笑ってしまうところだったぞ」
ギルドから出て目的の森へと向かっているとエリーが上機嫌にそう言った。
「もしかして僕笑ってた?」
「笑っていた、まあ私くらいしか気付いた者はいないだろうがな」
「昨晩は痛みで泣いてた子が朝には嬉しそうに咥えてたからね。そりゃあ笑いたくもなるさ」
「完全にあの新人はホープに惚れてしまっていたな。どうするんだ?」
「次の子が見つかるまでの繋ぎかな。新人受付嬢だから可愛いのは間違いないんだけど、下が好みじゃなかったんだよね。高ランク冒険者が受付嬢と関係を持つなんて実際はよくある事だし、何の問題もないでしょ。新人の言葉と高ランク冒険者の言葉、どっちがギルドにとって大切かなんて分かりきってるしね」
「それもそうか。私たちは町でも指折りの優秀で善良な冒険者だったな」
多少ギルドから注意を受ける可能性はあるが、つまみ食いくらいなら問題ないだろう。
「あ、ホープさんにエリーさんじゃないっすか」
町を出て軽く準備運動をしていると以前引率依頼でダンジョンでの基本を教えた事のある三人組パーティの一人、ダニエルが声を掛けてきた。
「こんな所で会うなんて珍しいね。君たちはダンジョンをメインにしてなかったかい?」
「いやぁ、たまには外の依頼も受けようと思って、今日は街道近くの魔物や動物の間引きっす。ホープさんたちも依頼っすか?」
町周辺の間引き依頼は常駐依頼で、ルーキー達が引き受けることの多い依頼だ。町周辺は強い存在が居ないので比較的安全な依頼で、冒険者なら一度は受けた事があるだろう。
まあ魔物や動物を倒してギルドに納品しないと殆どお金にならないのが難点だけどね。
「僕たちは森に散歩だよ。ほら、そこにやる気を出してるのがいるでしょ?」
「アウ!」
僕が視線を向けると、アデラインは一鳴きして返事をした。
その姿を見てこの場にいる全員が笑みを浮かべ、僕の言葉が本当なのだと勝手に理解してくれる。
「森まで一緒に行ってもいいっすか?」
「僕は構わないけど、エリーは?」
「私もそれくらいは構わん。どの道方向は同じだからな」
「ありがとうございますっす」
そうして僕たちは一緒に森へと向かい歩き始めるのだった。
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