第38話 煽る従魔

 数日が経ち、他に冒険者はセーフティエリアに現れなかったので続けて20階層で狩りを続けているとそれは現れた。


「ホープ、私の記憶では20階層にオーガジェネラルとクイーンがいるとは地図に書いて無かったんだが」

「僕も記憶にないかな。多分下層から上がってきたんだろうね。仕方ない、依頼品は揃ってるしコイツらを倒したら一度ダンジョンから出よう。流石にギルドへ報告しないわけにはいかないからね」

「倒すのだな」

「証拠は必要だろうからね。一応魔石に記録はさせたから早速やろう。両方とも単体でBランク上位の強さがあるから油断しないように」


 地図に書いてあったこのダンジョンに出現するオーガジェネラルとオーガクイーンはレベル54〜58。

 エリーと従魔三匹でどちらか一体を任せると言った感じだな。流石に二体同時に戦闘をさせると負けてしまうだろうね。


「ホープ、練習の成果を確認したい。頼めるだろうか」

「分かった、無理だと判断したら僕があの二体を倒すからね?」

「問題ない」


 まだオーガたちはこちらに気付いていないので一気に準備を行う。


「<範囲加速エリアヘイスト><範囲攻撃力上昇エリアアタックアッパー><範囲防御力上昇エリアディフェンスアッパー><範囲運上昇エリアラックアッパー><範囲魔法威力上昇エリアマジックアッパー>」


 すでにエリーたちにはデバフをかけているからオーガたちへのバフの付与はこれくらいで大丈夫だろう。

 バフを付与されたオーガたちは異変を感じるとすぐにこちらを発見し臨戦態勢をとる。バフとはいえ、不意打ちを受けたオーガたちに微塵の油断も感じられない。


「いくよエリー! <力の支配者ギブアンドテイク>」


 力が反転する。強靭な肉体は脆弱に、脆弱な肉体は強靭に。強者は弱者に、弱者は強者に。

 いまこの場を支配しているのは僕だ。力こそ正義の魔物討伐で力を支配することは勝利を意味する。


 エリーと従魔三匹はギリギリ戦える程度には慣れたのか、勢いよく転んだり体当たりを繰り出すこともなく無事に倒しきってみせた。

 昨日今日、何度か普通のオーガ相手に試しただけなのによく動けるようになったと感心してしまうね。


「お疲れ様、よく動けてたよ。取り敢えず二体を先に簡単な処理してアイテムバックに入れよう」

「分かった、魔物が沸く前にすませて移動しよう」


 すぐそばに魔物が沸くことは滅多にない。だけどここまでの道中で倒した場所はそうではない。

 時間が経てば経つほど魔物が沸く可能性は高くなるし、一々相手にしていては無駄に体力を使うことになってしまう。


 一度セーフティエリアに戻りこれからについて話す。


「今日中に15階層まで戻って明日は朝からダンジョンの入り口まで駆け抜けよう。道中出会った冒険者には念の為に注意喚起だけでもしていこう」

「分かった、既に昼を過ぎてはいるが問題ない」

「それじゃ早速行こう」


 少しの休憩と水分補給をすると僕たちは15階層のセーフティエリアへと駆け出した。


 道中いくつかのパーティとすれ違いながらオーガジェネラルとオーガクイーンの話をするが、あまり危機感を持った風には見えなかった。

 この町に来たばかりの新参者の言葉は信用出来ないといったところか。

 伝えるべき情報は伝えたので信じるも信じないも、そのせいで最悪死ぬことになろうが相手次第なので強く言うことはやめた。

 無駄な問答で時間の無駄使いはしたくないからね。


「しかし思ったより信用されないね。いや、信用されないというより楽観的なパーティばかりと言ったほうが正しいかもしれないかな」


 15階層のセーフティエリアに辿り着き、先に休んでいた冒険者たちに情報を教えて回ったのだけど、ありえないだとか本当だとしても15階層周辺は関係ないだとか否定的な反応しかなかったのだ。


「私たちが倒した個体だけの可能性は十分にありえる。仮に下層から他にも魔物が上がってきていたとしてもここまでくるには時間もかかるだろう。ならば奴らにとってはそこまで重要な情報ではないということだろう」

「そうだね、ここを拠点にしているということは潜っても17階層あたりまでだろうしそこまで関係ないと思ってるんだろうね」


 まあいいか、僕たちのように異変に対して注意をし過ぎる冒険者は少ないしね。


「それよりラシャド、最近お前はホープにベッタリすぎるぞ?」

「ホッ?」

「どこが? ではない。休憩時と移動時、そして睡眠時まで常にホープの近くにいるだろう。特に睡眠時はひっついて一緒に寝ているじゃないか」

「ホッホッ!」

「誰が寝取られ女だ!」


 たまにエリーは人間を相手にしているのと変わらない態度で従魔と会話をする。

 テイマーは2通りいて、エリーのように従魔と普通に会話をするタイプと必要最低限の疎通しかしないタイプだ。


 僕はエリーのように従魔と会話をするテイマーの方が好ましく思う。

 あとエリーとパーティを組んで思ったが、そっちの方が見ていて楽しい。

 今もラシャドと会話をしているエリーは不機嫌だけどどこか楽しそうでもあるしね。


 テイマーと従魔は繋がっていて、従魔は主人を裏切ることがないとされている。

 信用できる仲間は冒険者を続けるなら非常に重要で必須だ。

 その必須条件をテイマーなら個人だけで満たすことが出来る点はかなりのメリットだと僕は思う。

 絶対に裏切らない仲間や信用出来る仲間を見つけることはかなり大変だからね。


「ホープ、お前も笑ってないでなんとか言ってやれ」

「なんとかって言われてもね。仲が良さそうで何よりだよ」

「ホッホッ!」

「ラシャド、そのケンカ買ってやろう。後悔するなよ?」


 ラシャドが何を言ったのか分からないが、エリーの眉間にシワが出来たのでかなり煽ったのだろう。


「はいはい、そこまで。こんなところでケンカしないの。それ以上やるなら動けなくするよ?」

「ちっ、ホープに免じて我慢してやる。命拾いしたな」

「ホッホッ!」

「なんだと?」

「やめなさい、ラシャドもそれ以上何か煽るなら本当に動けなくするよ?」

「ホッホッ……」

「分かればよろしい」


 ラシャドが何を思って何を言っているのかは分からない。だけど申し訳なさそうに鳴きながら人間のように頭を下げてきた。

 ならば許すしかないだろう。


「アウ!」

「どうしたのアデライン?」

「はあ、今日はアデラインがホープと一緒に寝たいそうだ」

「え?」

「アウ?」

「嫌なのか? と言っているぞ」

「嫌とかじゃなくて、アデラインがそんなこと言ってくるとは思わなくてびっくりしただけだよ。僕としては構わないけどエリーはいいの?」

「ホープが嫌でないなら私は別に構わん」

「それならいいんだけど、じゃあ今日はアデラインと一緒に寝よう」

「アウ!」


 エリーは構わないと言っているが諦めたようにアデラインを見ている。

 なんというか、エリーといると自分がテイマーなのではないかと錯覚しそうになるな。ラシャドとアデラインだけでなくベンも僕に懐いてくれているので会話のできない半テイマーみたいな感じだ。

 まあテイマーのスキルは当然使えないから半テイマーと言うのは言い過ぎかもしれないけどね。


 そして僕はラシャドの視線を感じながらアデラインと一緒に眠りにつくのだった。


――――――――

新年あけましておめでとうございます

今年もどうぞよろしくお願いします

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