第40話 助けを求める少女

 冒険者ギルドでギルドマスターにオーガの件と冒険者たちに襲われた件を報告し終わり、ギルドのホールへと移動した時だった。

 見たことのある少女が勢いよく扉を開けてギルドへ入ってきた。


 確かあの子はダンジョンの7階層まで連れて行ってくれと言ってた子だ。無理をせずにちゃんとまだ生きていたんだな。


「す、すみません! あの、ま、マックスが、マックスが!」


 余程慌てているのか、受付まで行き誰の名前か知らないが連呼している。受付嬢が宥めようとはしているが効果が無さそうだ。


「こんばんは、どうしたんだい? 僕の事は分かる?」

「あ、先日の! ま、マックスが!」

「マックスってのは一緒にいた男の子で間違いないかな?」

「そ、そうです! 助けて! マックスが、マックスが!」

「ここだと迷惑になるかもしれない。すみません、どこでもいいので部屋を借りてもいいですか? 使用料は預けている僕のお金から引いてかまいませんので」


 そう言って僕とエリーは彼女を連れてギルドが貸し与えてくれた部屋へと入る。


「少し落ち着いたかい? 少しずつでいい、何があったか教えてくれるかな」

「す、すみません。ただマックスが……」

「ゆっくりでいいよ。言えないことや言いたくないことは言わなくても構わないからね」

「……マックスが、マックスが殺されちゃう」


 これまた物騒な単語が出てきたな。


「まだマックスくんは無事なのかい?」

「きょ、今日中にお金を持ってこいって、出来ないならマックスを殺すって……」


 うわ、借金でもあったのか。だから7階層に行きたがってたわけか。

 たしか7階層にはルーキーからすればかなりの金になる採集、採掘ポイントがあったな。

 というかもう日も落ち始めているし、流石にもう無理じゃないか?


「おいホープ、流石にこれ以上の深入りはやめた方がいい」


 エリーも不穏な空気を感じ取ったのか、小声で僕に話しかけてきた。

 僕もエリーの言葉に賛成だ。正直これ以上はあまり聞きたくない。


「お願いします! なんでもします! だからマックスを助けてください!」

「諦めろ。返せない金を借りたお前たちが悪い。なんでもするならその辺で身体でも売れば多少の金になるぞ。それで返済金に足りるかは知らんがな」

「そ、そんな……」


 確かにエリーの言うとおりだ。ルーキーが借りることが出来る金額はそこまで多くはないだろう。ならばマックスの命と彼女の身体、どちらかを優先させるだけでどうにかなるだろう。


「はあ、それでいくら必要なんだい?」

「……小金貨3枚です」

「思ってたよりかなり多いね。それは今日中に払わないといけない金額かい? それとも全部でその金額?」

「今日中で、全額ではないです……」


 今日中に小金貨3枚? どれだけ借りたんだ。それとも利息の高い闇金か?


「流石に君の身体を売った程度じゃ無理な金額だね。因みに誰に借りたのか教えてもらえる?」

「おいホープ、いくらなんでもやめておけ。必ず面倒なことになるぞ」

「いや、多分この町にいればどの道面倒なことになると思う。なら今のうちに潰しておくのも悪くない」

「その言い方は誰か見当がついてるのか?」

「多分僕の考えは合ってると思うよ。Bランクパーティの【竜の落とし子シーホース】じゃないかな? 違う?」


 僕たちをダンジョンで襲おうとしたパーティのバックにいると言う【竜の落とし子シーホース】だろう。

 一人一人殺す前に話を聞いた時にあまりいい印象を持てなかった。必ず裏で何かやっている、それだけは確証が持てると思ったくらいだ。


「い、いえ、その通りです。【竜の落とし子シーホース】の方たちからお金を借りたんです」

「やっぱりね、胡散臭いと思ったんだ。多分近いうちに僕たちに絡んでくるよ。なら来る前にこちらから会いに行ってそのまま消してしまうのも一つだと思うんだ」

「はあ、確かにその可能性は高いと私も思ったが」

「ほ、本当にマックスを助けてくださるんですか!?」

「助けてあげてもいい。今僕が言ったようにどうせ今後絡まれて面倒なことになる可能性が高いからね。でもね、僕たちは別にに【竜の落とし子シーホース】をどうにかしなくても問題ないんだ。明日でもいいし、なんなら絡んできた時でもいい」

「そんな、お願いします! なんでもしますから! だから助けてください! お願いします!」

「身体を売ることを躊躇ったのに本当になんでもできるのかい? もしかしたらそれ以上のことを僕たちは要求するかもしれないんだよ?」

「や、やります……。毎日身体を売ってこいと言われるならやります……。奴隷になれと言われるならなります。だから、だからお願いします。ホープさんお願いします。もう私に頼れる人はいないんです。お願いします。マックスを助けてください!」


 へえ、頼れる人がいないのか。スラム出身では無さそうだし、孤児院出身かな? それともこの町の人間じゃないとか。

 まあそれよりも何でもしてくれるという方が魅力的だ。


「エリー、よければ手伝って欲しいんだけどダメかい?」

「はぁ、分かった。それで?」

「誰にもバレず、そして何もさせずに無力化だ」

「それが無難か。では早速行くとするか」


 僕とエリーで話は纏まったので少女を連れて……。


「そう言えば君の名前聞いてなかったね。なんて名前なんだい?」

「すみません、私はチェルシーと言います」


 チェルシーちゃんに道案内を頼んで【竜の落とし子シーホース】のアジト? へ向かうのだった。

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