005 アリエル・サーシャ

「人間は襲わない。これからは傷つけないでくれ」


 デルス魔王様が突然そう発言してから、私たち魔族はそれを受け入れた。


 だが混乱もしていた。


 今までと180度も意見が違うからだ。


 ――人間は殺さなければならない。


 それは、私たち魔族であれば当然の考えだ。


 人間は、家の中に黒い虫が出たら真っ先に嫌悪感を抱くらしい。


 そしてほとんどが躊躇なく殺す。


 そこに罪悪感なんてない。誰もが持っている共通認識だそうだ。


 一度人間に訪ねたことがある。理由は、ただ目の前にいるのが不快だから。


 おそらくだが、それと似た感情を私たちは人間に抱いている。


 理由なんてない。激しい嫌悪感が、身体中を支配するからだ。


 しかし魔王様の言うことは絶対。

 

 もちろん私たちはデルス様を信じている。魔王様は絶対に間違っていない。


 だけど――脳が言う事をきかない。


 そんなことをしてはいけないという一方で、デルス様のことを疑う気持ちがどうしても芽生えてしまう。


 そしてそれは、私だけではなかった。


「ねえアリエル、魔王様のご命令、どう思う?」

「……何がですか?」

「人間を襲わないこと。もちろん、考えがあるんだろうけど……」


 ペールもまた複雑な気持ちだったらしい。

 それは、ビブリアもだった。


「私もですよ。ペール、不思議なことではありません。しかしながら魔王様には考えがあるのでしょう」

「でも、これがずっとだったらどうするの? 人間たちがのうのうと暮らしているのを眺めておくってこと?」

「それはわかりませんが……」

「わたくしが代表して聞いてきます」

「アリエル!? 魔王様に逆らうの!?」

「違います。魔王様に忠誠を誓っているからこそです」


 そして私は真意を訪ねようと、デルス様の元へ向かった。


 しかし部屋にはいなかった。


 城内を探すと、なんと魔王様は、荒れ果てていた中庭を綺麗にしていた。

 それも、素手で。


「デルス様!? 何をしているのですか!?」

「ああ、ちょっと城を綺麗にしようと思ってね」

「お手が汚れています! 言ってくだされば私たちがやります!」

「大丈夫だよ。んー……だったら、アリエルも手伝ってもらっていい?」

「え? あ、はい! 今すぐに!」


 それから私と魔王様は、枯れ果てた草木を取り除き、新しい土を植え替え、花の種を植えた。

 理由は、みんなに気持ちよく過ごしてほしいからだそうで……。


「どうしてそこまで……」

「まずはできることからしようと思ってね。ほら、アリエルも」

「は、はい!」


 そして私は驚きました。

 今まで奪うことしか考えた事がなかった私が、何かを生み出そうとしている不思議な感覚に。


 このあたりの土は特別だ。魔物が活性化する為に魔力が豊富に詰まっている。


 そしてすぐに発芽し、綺麗なお花畑が出来上がった。


 私は――驚いた。


 こんなに綺麗なものがあるのだと。


「どうしたの? アリエル」

「い、いえ……綺麗だと思いました」

「良かった。そういえば、色々と不安にさせてるよね。でも、人間を襲わないことはきっと俺たちの将来の為になる。理解してくれ」

「――はい」


 そして魔王様は私たちの気持ちもわかっていた。


 人間は憎いし、不快だ。


 でも、魔王様の言葉は信じたい。


 ただ――。


「じゃあアリエル、ちょっと身体動かしたいから戦いの練習手伝ってもらっていいかな?」

「もちろんでございます!」


 それでもいいと思うようになってきた。


 人間のことをあまり考えず、魔王様と一緒に話したり何かしているときが楽しいのだ。


 それは、ペールもビブリアも、そしてライフも徐々に感じているみたいだった。


「確かに、今のほうが……なんだか楽しいと思うときがあるわ」

「……同感です。領地を広げることを考えているとき、人間のことを考える余裕がないですからね」

「わ、私も……今の魔王様のほうが安心する」


 おそらくまだ戻ってきていない二人・・も同じことを思うかもしれない。


 そのときの私は、魔王様のお言葉を代弁する役目でありたい。


「アリエル、いつもありがとう。君がいなかったら僕は……もっと絶望していたかもしれない。ああごめん、よくわからないよね」

「……魔王様のお言葉はいつも難しいです。でも、私ができることは何でもします!」


 私は魔王直下六封凶の一人、アリエル・サーシャ。


 好きなことは人間の苦痛の顔。


 ――だった。


 今一番好きなのは、魔王様と一緒にお花畑に水をやること。


「アリエル、花に水やりいかない?」

「はい! もちろんでございます!」


 ――できれば、ずっとこうしていたい。


 でも、もし人間が魔王様のこと傷つけようものなら、この命に代えても守り、そして――容赦はしないけど。

 

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