029 魔王として

 海の国、ストリア。

 

 巨大なガラス工房、魚をモチーフとしたオブジェクトや絵がいたるところに置いてある。

 釣りも盛んらしく、驚いたことに街中にある湖には魚が沢山泳いでいた。


「綺麗ですねえ、ベルディちゃん」

「美しい」

「ああ、これも見納めだな。さて、帰ろうか」


 観光を楽しみ、みんなへのお土産も沢山買いこんで、俺たちは帰ろうと外門に出ようとした。


 だがそのとき――。


「リーエル国が攻撃を仕掛けたらしいぜ」

「ああ今はその話題で持ちきりだな。さてどうなるか」

「過激派の連中は喜んでるらしいが、協定を結んでいた国は激怒してると――」


 俺は、不穏な話を聞いた。胸騒ぎがして、声を掛ける。


「何の話ですか?」

「ん? 何だお前」

「いや、さっきの攻撃を仕掛けたってのが知りたくて」

「ああ、デルス街に――」


 その瞬間、俺の隣にいたベルディが胸ぐらを掴んだ。

 表情は変わらない。だが、気づいたのだろう。


「な、なんだこのガキ?」

「――詳しく話せ」


 そして俺は、思い切り問い詰めた。


     ◇


「シュリの使役魔物がいない。それに思念伝達も通じない」


 それから半日、俺とライフ、ベルディは全速力で森を駆け抜けていた。

 デルス街までもうすぐだが、一向に誰の姿もない。


 いつもは通じるはずのシュリの会話も、見張りも誰もいないのだ。


 そしてその時、森の中で立っている人を見つけた。

 それは、吸血鬼族ヴァンピールのレイヤ姫だった。


「デルス様!」

「どうした、何があった!?」

「私は、私だけは逃げろと部下たちが……それより、結界が!」


 レイヤ姫に案内されながらデルス街に戻ると、街は結界で覆われていた。

 透明なので中は見えるが、魔力遮断と魔物に対して有効な術式が付与されている。


 例えるなら高圧電流が流れている鉄格子のようなものだ。


 それにかなり……強い。


 そしてレイヤ姫とさっきの奴らの情報から、攻め込まれたことがわかった。


 原作、ベクトル・ファンタジーで魔物の国はない。

 

 ……それを世界が許さないというのか?



「ライフ、ベルディ、レイヤ姫の護衛を頼む。どうやら結界の解除には時間がかかりそうだ。だが、俺だけなら入ることはできる」


 何も感じない、何もわからない。だがこの先の結果次第で、俺は魔王として生きるのかどうかが問われている気がした。

 


 俺は右手をかざし、魔力を同調させると、中に足を踏み入れた。

 




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