028 聖結界護衛

 デルス街、正午。


 大勢の面々で賑わっていたが、道路の真ん中で、シュリとビブリアが複雑な面持ちで話し合っている。

 そこに、アリエルとペールが駆け寄る。


「どうしたのですか? ハーピー方から呼ばれてきました」

「アリエル、転移魔法を出してみて」


 シュリが不安そうに問いかける。アリエルはゆっくりと手を翳すが――。


「……どういうことですか。出ません」

「私が使役していた魔物の視界が遮断された。ペール、アンデットモンスターは動いてる?」

「森の外で自動行動オートモードしているからわからないよ。でも――何か違和感を感じる。結界みたいな」

「……魔力妨害の可能性が高いです。すぐに全員を集結させましょう」


 ビブリアが顎に手を置いて、静かに言う。

 そのとき、ゴンが上空から降りてきた。


 とても具合が悪そうにしている。


「ゴン、どうしたのですか!?」

「飛行魔法ができなくなってる……なんか変だよ」

「……明らかにおかしいですね。敵の可能性が高いです。私が指揮をとります」


 覚悟を決めたビブリアが声をあげるも、アリエルが制止する。


「敵って……人間でしょうか? でも、手を出すのは……」

「非常事態だよ。デルス様も、悪人は倒していいっていってるでしょ」

「ペールの言う通りだわ。使役した魔物を街の中に集結させる。みんなに周知して」


 一人不安げなアリエルをよそに全員が行動しはじめる。


 それから数時間後、空からハーピーのシルティアが、苦しそうに降り立つ。


「兵士が……来ました」


 全員が森門に視線を向ける。そこには十人ほどの銀甲冑の兵士が立っていた。

 代表として、ビブリアが前に出る。


「なんでしょうか」

「我らはリーエル国のものだ。ただちに投降せよ。それが、わが国の王でおられるドルストイ様のご命令だ」

「どういうことでしょうか。私たちは何もしていませんが」

「そんなことはない。魔物お前たちと取引していた女は既に捕まえている」


 ビブリアはすぐにメリットだと気づいた。今日、彼女は来ていない。


「彼女は領地民ではありませんし、自由権限で取引をしています」

「はっ、口の回る魔族め。そんなもの、魔族のお前らと取引した時点で無効だ。すぐにこの街を明け渡せ、城も全てな。猶予は一時間だ、すぐに行動しろ」


 そういって兵士は去っていく。


 ビブリアは、すぐに六封凶やレイヤ姫、蜥蜴族リザードマンに事の顛末を話す。


「交渉する気はなみたいいです。ただ領地を狙っているのでしょう。しかしメリットさんが捕らえられているみたいです」

「……なんてひどい」


 レイヤ姫は眉をひそめる蜥蜴族リザードマンは戦うべきだと進言、ハーピー一族もそれに同意した。

 吸血鬼族もだ。だが六封凶のアリエル、ペール、シュリは不安げな顔を浮かべている。


「アリエル、転移魔法は?」

「……ダメですわ。……ねえ、ペール、魔王様ならどうすると思いますか?」

「きっと、メリットさんのことを一番に考えるんじゃないかな」

「ビブリア、どうするのか決めなきゃ。戦うか逃げるか」

「……そうですね」


 だがそのとき、デルス街を白い光が囲う。

 それは複雑な魔術の結界だと気づく。


「――そうか、さっきは戦力を確認する為に――」


 瞬間、街中の魔力が著しく低下する。


 同時に、恐ろしいほどの声がいたるところから聞こえた。

 その先導者に、リーエル国の王がいた。


「クックック、魔物だらけというのは逆にありがたいな」

「しかし良いのですか? 今回の魔法は協定を結んだ際の秘匿魔法です。問題になるかもしれませんよ」

「なあに、バレなければいい。――しかし凄いな聖結界護衛ホーリーフィールドとやらは」


 それは、対魔物、魔族だけに有効な、魔力阻害を含む四つの大国が編み出した魔法だった。


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