010 五人目

「魔王様、どうでしょうか?」

「ああ、悪くない」

「魔王様、足が凝っておりますね」

「そうかな?」

「魔王様、腕は気持ちいいですか?」

「うむ、良き良き」


 魔王城、王座の間、座している状態で、俺は三人のハーピーからマッサージを受けていた。

 名前は、ハピ子とハピ美とハピりん。


 ハーピー三姉妹って既視感があるな。


「我が主、今のところ周囲は問題ありません。引き続き、見回りしてきます!」

「ああ、頼んだよゴンちゃん」


 魔王城の窓から声をかけてきたのは、先日の竜、ドラゴンことゴンちゃんだ。

 普段は魔力を抑える為に体躯を小さくしているらしく、ゴールデンレトリバーぐらいの大きさになっている。


 今は城に変な魔物がこないように見回ってくれていた。


 初めはなんかアレだったが、今は凄く礼儀正しくて凄くいい子になっている。


 何かあれば教えてくれるセコムみたいな感じ。


「魔王様、ウィンディーネの聖水でございます」

「ありがとう。シルティア」


 今俺にお水を手渡してくれたのは、頭を下げて俺に頼んできた女の子だ。

 驚いた事に、ハーピー族の王女だったらしい。


 今は側近の三姉妹と同じく俺の傍で仕えてくれている。

 綺麗な羽根がとても美しい。ちなみに触れるとちょっと気持ちいいらしくあえぐのだが、それはそれでなんかこっちも恥ずかしくなる。


 当分魔王城にいてくれるらしいので、領地拡大をお手伝いを頼んだ。

 普通はゆっくり拡大していくのだろうが、まさかの制空権からとは思わなかった。


 魔王城の近隣は、既に森の管理者ドライアドの許可を得て伐採が進んでいる。

 それを行っているのは、ペールが召喚したアンデットモンスターだが、生物ではなく魔法なので複雑な行為ということもあって戸惑っているらしい。

 まあ、戦う目的で作られたのに森を耕せなんて結構無茶だもんな。


 そのとき、扉を勢いよく開ける。


 アリエルかと思い、俺は急いでハーピー三姉妹を傍においやる。

 うん、怖いからね。


 だが現れたのは、五人目・・・の部下だった。


「遅くなりまして大変申し訳ございません。ただいま戻りました――魔王様」


 片膝を付いたのは、眼鏡鏡をかけた高身長、誰よりもスタイルがよく、スレンダーで肌の露出が激しい服を着ている女性。

 魔王直下六封凶ろくほうきょうのシュリ・ストーンである。


 部下には個性がある。

 ビブリアは主に俺の補佐、情報伝達、主に全てだ。

 アリエルは移動と戦闘、そして俺の身の回りの世話。

 ペールは戦闘メインだ。アンデットモンスターを召喚できる。

 ライフは回復がメイン。

 

 シュリは俺を守る役目だ。最高峰の防御魔法を扱える。


「おかえりなさい。シュリ」


 俺が問いかけると、シュリは目を見開いた。驚いているみたいだ。


 ああ、そういえばもっと堅苦しい喋り方だったか。


 までもいいか。


「どうした」

「いえ、嬉しかったのです。叱咤される覚悟でしたから」


 めちゃくちゃ遠い国から急いで戻って来てくれたに怒るわけがない。やっぱり、前のデルスはクソだな。

 まあ、今は俺だが。


「そんなことはしないよ。俺は色々と理解を深めたのだ。ビブリアから伝令は届いているか?」

「もちろんでございます。これからはデルス魔王様のお言葉通り、人間に危害は加えません」


 俺はようやくホッと胸を撫で下ろす。

 どうやらシュリの忠誠心も変わらないみたいだ。


 それより、俺はずっと気に入っていたことをようやく伝える。


「シュリ、なんだその後ろの――蜥蜴リザードたちは」


 後ろには、数人の蜥蜴リザードたちが整列していた。

 それもみんな背中をまるめずまっすぐに立っている。


 怪我はしていないみたいだが、怯えているみたいだ。


「魔王城へ戻る途中、魔王様の悪口を言っていたので捕まえました。今は使役・・で逆らえないようにしています。――もちろん、傷つけてはおりません」


 シュリは強固な守護に加えて、同種である魔物を従えさせるという最強の使役能力を持っている。

 これにより、言葉の通じない魔物でも、シュリの命令を聞く機械と化すのだ。


 原作では千人の大群を作って国を滅ぼしていた。


 ある意味では作中最強ともよばれるほど。


「さすがシュリだな。だが使役を解いてやれ」

「よいのですか? 暴れる可能性もありますが」

「大丈夫だ」

「はっ」


 するとシュリは、魔法を唱える。

 解除されたのか、我に返る。


 だがここが魔王城だとわかったのだろう。

 青ざめた顔をしている。


「そう驚くな。悪口ぐらいでむやみに攻撃したりしない。それより、国を創る手伝いをしないか?」

「……国?」

「ああ、魔物の国だ。人間に襲われない、最強の国を創る。きっと気に入るだろう」


 蜥蜴リザードたちは話し合い、そして後日また来てもいいかとのことだった。

 俺はそれを了承する。


 ふところが大きいところを見せるのも大事だろう。


 しかし蜥蜴リザードはかなり強い戦闘能力があったはず。

 さすがシュリだな。


 それと――。


「シュリ、土産もありがとう」

「とんでもございません。稲を探すのに時間がかかってしまい、帰宅が遅れました」


 なんと、シュリが稲を持ってきてくれたのだ。


 米が食べられるなんて、今から楽しみだ。


「そういえば魔王様、お食事は済みましたか?」

「いや、まだだが」

「でしたら、このシュリに作らせていただけませんか。地方の国で覚えてきたとっておきの料理があるのです」

「いいのか? 疲れてるだろう?」

「魔王さ――」


 するとビブリアが不安そうに俺に声をかけようとしてきた。

 それを止めたのはシュリだ。

 一体何が?


 まあいいか。


「いえ、魔王様の為ならば問題ございません」

「そうか。なら頼んだよ」


 すると本当に嬉しそうにシュリはその場を後にする。

 原作で料理が好きだったとかは知らなかった。


 実は裏設定とかがあるのだろうか。


 しかしビブリアが急いで走って来る。

 その顔はなぜか青ざめていた。


「……どうしたのですが、前はあんなに嫌がっていたというのに」

「嫌がる?」


 あんなに美人の手料理を?


 いや……もしかして……そんなお約束ないよな?


 そして少しして、シュリが戻って来る。


 手に持っていたのは、よくわからない目玉に骨に、ドロドロのヘドロスープ、そして稲がそのまま入っていた。

 え、まさかそこから?


「魔王様特別のスープでございます。麺と共に召し上がりください!」

「…………」


 しかしせっかく作ってくれたのだ。

 食べないのも可哀想だ。


 ……でも俺死なないか?


「――ごくり」


 一口食べると、生存魔法が自動発動した。

 毒が分解されていくのを感じる。


 ――え、なにこれ闇魔法?


「……ビブリア、お前も食べてみろ。美味しいぞ」

「そ、そんな!?」

「この料理を覚えて出してほしいのだ。なあシュリ」

「ありがたき幸せ!」


 ごめんビブリア、でも、お前が早くに断ればよかったんだ。


 そしてビブリアは、顔を青ざめながらも、一言も声を漏らすことはなかった。

 さすがだな。


 しかしこれで五人はそろった。


 残りの一人はまだだが、ひとまず人数は十分だろう。


 俺はおもむろに立ち上がる。


「ビブリア全員を中庭に集めてくれ」

「はっ、畏まりました」


 魔王城の中庭は、色とりどりのお花畑になっていた。

 毎朝手入れしているのだが、とても綺麗で気持ちがいい。


「魔王様、全員集合しました」


 ビブリアが背中越しに俺に声を掛けた。

 振り返ると、そこにはアリエル、ペール、ライフ、シュリが片膝をついている。

 その後ろには同じようにハーピー三姉妹とシルティア、そしてドラゴンのゴンが服従のポーズをしていた。


 ウィンディーネとドライアドは城には近寄れない(魔の力が強すぎるらしい)。


 ――何事もまずは形からだ。


「楽にしてくれ。まず、人間たちを襲わないと決めたが、追加で頼みたいことがある。よく聞いてくれ」

「「「「はっ」」」」


 一糸乱れぬ声、統率力が相変わらず凄いな。


「異種間族での争いはできるだけ避けてくれ。どうしても話が通じない場合は仕方ないが、極力、俺に話しを通してからだ。それと、文化の違いもあるだろうが、仲間同時は仲良くすること。もちろん、それは人間に対してもだ。俺たち魔族は人間が嫌いだ。それはわかってる。だが中には殺さなくてもいい人間がいる。今はわからなくとも言葉として理解しておいてくれ」


 それを聞いたみんなは少し驚いていた。

 人間たちを襲わないことは俺のルールで理解できているみたいだが、真の意味がまだわからないのだろう。

 それでもしっかりと俺の目を見て頷いてくれた。


「何と勿体ないお言葉、このビブリア、魔王様の慈悲深い御心に痛み承ります」

「わたくし、アリエルも同じでございます」

「ペールも同じく。魔王様の仰せのままに」

「シュリ・ストーン、全て御身のままに」

「ライフ・モーニング。畏まりました」

「ハーピー一族を代表、シルティアも同じくでございます」

「ドラゴンのゴンもです」


 ほんと、忠誠心が高くてありがたい。


「じゃあ役職・・を決めよう。監視兼護衛大臣にシルティア、環境大臣はシュリ、医療大臣はライフ、外交大臣はビブリア、戦闘大臣はペール、俺がいない場合は指示をとれ。詳しいことはおって説明する」

「「「「はっ」」」」


 まずは名ばかりだが、責任感を与える為にもいいだろう。みんなの特技を生かしているだろうし、将来的に彼らなら問題ないはずだ。

 そしてアリエルは不安そうにしていた。唯一役職を与えていないからだ。


 だが――。


「アリエルは、君は俺の大事な秘書だ。戦闘も報告も移動も全てを担ってもらう。一番忙しいぞ、大丈夫か?」


 その言葉を聞いて、アリエルは凄く嬉しそうだった。


「も、もちろんでございます! ありがたき幸せ!」


 ほんと、俺には勿体ないくらいの部下たちだ。


 だがこれはほんの序章。ここから領地をさらに拡大していく。

 さっきみんなに伝えたが、人間を襲わないのは最低限のルールだ。


 俺に歯向かうものはそれにあたらない。

 

 そのときは、手加減なんてしない。


 ――何が何でも、俺は自分の為に最強の国を創ってやる。


「それでは今から大忙しですね。道の舗装も出来てきましたので、家造りをはじめましょうか――」

「いやビブリア、今日は違う」

「それはどういうことで――」

「宴だ。今日は魔王の国の新設の初日だ。みんなで祝おう。その代わり、明日からは忙しいからな」


 俺の言葉の後、みんなが嬉しそうに声をあげた。


 だがこれからが本番だ――。

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