011 心の変化

 魔王城の付近は森だったが、今はペールのおかげで平地になってきている。

 早朝、お花畑に水を上げた後、城の外に出る。

 そこには、巨木を抱えている戦闘幼女がいた。

 黒い武装で、肌の露出は大きいが、ツルペタペタだ。


 原作でペールはわがまま暴走少女と書かれている。だが誰よりも真面目で、夜は早く寝て、朝は早く起きている。

 分かりやすく例えると、八時に寝て、五時くらいに起きている。


 俺がびっくりした意外な一面だ。


「ええと、これはこっちでいいのかな――」

「おはようペール」


 俺が声を掛けたことで驚き、すぐに片膝をつく。

 だが手に持っていた巨木が行き場を失って、面に落ちると、耳をつんざくような音が響いた。


「す、すみません魔王様!?」


 慌てふためくペール。その体躯は本当に小さい。

 どこからその腕力が出ているのだろうか。


「ああ、気にしないで。それより怪我はない? ごめんね、突然声をかけたから」

「そ、そんなことはありません! 嬉しいです!」


 魔族も基本的な構造は人間と変わらない。

 食事を食べて、睡眠もする。


 突然、国を創るなんてわがままを言った俺だが、ペールは進んで森の伐採を続けてくれていた。

 それもアンデットモンスターを召喚し、魔力を使いながらだ。


 元々は王都をせん滅する為の軍隊だが、まさかこんな用途で使われるとはベクトルファンタジーの開発陣も思っていなかっただろう。


「なら良かった。しかし凄いね。ペールのおかげでだいぶ早いよ」

「えへへ、でもまだこれからです! 全部終わったら石畳を敷き詰めて、無駄な石とかもどかさないと。なんか凄く取りづらい根っ子とかあるんですよね……。あ、すいませんこれは愚痴ではなくてええ!?」

「ふふふ、そんなこと思ってないよ。ちょっとだけ散歩しない?」

「え? さ、散歩ですか!? 魔王様と!?」

「そうだよ。それとこの木は俺が小さくしておくね」


 地面の巨木に手を添えて、風の断裂を与える。次の瞬間、木が等間隔に分かれた。

 全て無駄にしない為だ。残りは、配下たちの家や家具で使う。


 今はまとめて雨ざらしにならないように城へ持ち帰っている。


「さすが魔王様!」

「いや、俺はほんとみんなに任せきりだからね」


 俺は、よしよしとペールの頭を撫でる。

 彼女は本当に嬉しそうにする。しかし俺は複雑な気持ちもあった。


 なんだか利用しているみたいだからだ。


 自分が破滅になりたくないがために、部下を使っている。


 だからかもしれない。こうやって、みんなと交流を図りたくなるのは。


 だがそれも、自分の為だが……。


「行こうか」

「はい!」


 魔物には動物のような種類と、自我を持つ個体が存在する。

 今はどちらもほとんど姿を現さなくなった。

 おそらく俺たちが領地を広げているのことが要因だろう。


 平地を歩きながら、ペールととりとめのない会話をする。


 驚いたのは――。


「採取が楽しいって?」

「はい! 戦うのが好きだと思ってたんですが、こうやって体を動かすのが好きなんだと気づきました! まあ朝はちょっと眠たいですけど、それもまた気持ちよくて」

「……そっか」


 ペールは身振り手振りが多くて可愛らしい。

 原作では人間の首を笑いながら折っていたので、いつもそのギャップに驚かされる。


 そのとき、まだ伐採が進んでいない森から声が聞こえた。

 微弱な魔力も感じる。

 

 視線を向けると、そこにはなんと、少女が倒れていた。


 ごくまれだが、何かひずみで人間が魔王城の近くに飛ばされることがある。

 おそらく原作ではそのたびに人間を殺していたのだろう。


 魔族に餌を与えるような、そういう悪魔的なシステムに違いない。

 もしくは、被虐を尽くしていると人類に思ってほしいからか。


 俺と同時に、ペールも見つけたらしい。

 

 sると、ペールが急いで駆けた。


 ペールは俺を守る為に戦うキャラクターだ。相手は人間、俺は急いで制止しようとしたが、ペールの動きがはやかった。


 ――マズイ。


「魔王様、まだ息してます! でも弱ってるみたいです!」


 だがペールは少女を抱えて、そんなことを言った。それもとても焦っているみたいだ。

 俺はハッとなり急いで向かう。少女は弱っていた。


 魔王城の近くは瘴気が漂っている。それのせいだろう。


 俺はすぐに保護魔法を唱えて覆う。

 すると、すぐに少女の顔色が変わった。


「……良かった……」


 驚いたのは、ペールがそんなことをぼそりと言ったのだ。

 原作を知っている俺からすれば、ありえなかった。


 そして少女の服に印があった。

 それは、王都で販売されているものにつけられる証だ。


 アリエルの転移ならすぐに帰すことができる。

 

「魔王様、どうされますか? アリエルにお願いしますか?」

「え? あ、ああ。そうしよう」


 するとペールは俺と同じことを考えていたらしい。

 防御魔法を唱えたとはいえ、長居は危険だ。


 すぐに魔王城に戻り、何事もなかったかのように少女を返した。


 ペールは、本当にホッとしたみたいだった。


「時間かかっちゃいましたね。引き続き、夕食まで頑張ってきます! 魔王様、また散歩しましょうね」

「ねえペール、今のはどう思ったの?」

「え? 何がですか?」

「人間の少女だよ。どんな気持ちだったのかなってね」


 するとペールは、少し考えて、そして――笑った。


「わかりません! 見つけた瞬間は、心がざわざわしました。でも、魔王様の言葉を思い出して、すぐに駆け寄って顔を見たら、助けてあげなきゃ! って――これっておかしいですよね? ……なんでだろう」


 ペールは六封凶の中でも残虐な性格だ。

 戦う為に、人間に強い恨みをもっていると書かれていた。


 制止しようとしていた自分が、少し恥ずかしくなる。


 部下たちは、本能に抗って頑張ってくれているというのに。


「いや、ありがとうペール」

「え? えへへ。なんか褒められちゃった」


 俺はふたたびペールを撫でる。だがこれは、心から誇らしかったからだ。


「夕食はペールの好きな甘い物をいっぱい出してもらおうか。頑張ってるご褒美だよ」

「ええ、本当ですか!? やったー!」

 

 ペース・ストリーム。殺戮戦闘少女で、人間を見境なく殺す。


 だった。


 だけど今は、一生懸命働くいい子だ。


 その夜――。


「魔王様、この赤いジュース、人間の血みたいで美味しいです!」

「え、飲んだことある……の?」

「え、ないですないです! 冗談ですよー! ふふふ、魔王様は可愛いなぁ!」


 うん、まだちょっとだけ怖いけど。



 

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