012 職人探し

「我が主、乗り心地はどうでしょうか」

「ああ、悪くないよ」


 俺はゴンの背中に乗っていた。今は森の中を低空で突っ切っている。

 魔力を抑えているので、今はライオンの二倍くらいの大きさになっていた。


 ちなみに俺の後ろにはシュリがいる。

 包み込まれるたゆん。


「疲れたらいつでも胸を枕に眠ってくださいね」

「ああ、そうさせてもらうよ」


 その横では、シュリが使役した魔狼に乗っているアリエルが、悔しそうに涙を流していた。


「ああ、魔王様っ! どうして私のところへ乗ってくださらなかったのですかっ! ああっ! 魔王様っ!」


 最初はアリエルのところに乗っていたのだが、「ああ、魔王様、魔王様、ああ揺れる魔王様」とちょっとうるさかったので移動したのだ。

 まあ、なんかごめん。


 ビブリア、ペール、ライフはお仕事中。

 俺が向かっているのは、とある孤島だった。


「そういえば魔王様のお知り合いなのですか?」

「まあ知ってるような知ってないような」

「ああっ! さすが魔王様!」


 きっかけは家だった。

 ハーピー一族が谷を捨て、まさかの大移動してくるとのことになったのだ。

 その理由は、こっちのが居心地がいいから。

 竜に奪われそうになってて焦ってたのでは? と思ったが、安全なほうがいいと言われてしまった。

 その清々しさはとても気持ちがいい。


 だが家造りの知識があまりにも足りなさ過ぎた。


 アンデットモンスターに任せてみたが、単純作業ではないからか、ボロボロの家が出来上がったのだ。

 俺も原作チート無双系じゃないので詳しくはわからない。


 そして、プロの技術者を何とか呼ぼうとなった。


『ではこのアリエルめが、王都から2-3人ほど技術者をかっさらってきます』

『あら、だったら私、シュリにお任せください。人間を洗脳して働かせますわ』

『そんな野蛮な事はダメよ。私が平和的に解決させるわ。死ぬか構築か、簡単な選択肢を与えるだけでしょ』

『野蛮すぎます。魔王様、このビブリアが各国から家関連の書類を奪い取ってきましょうか?』

『だ、だったら、に、人間を連れてきて回復しながら寝ずに働かせる?』


 最後のライフが一番恐ろしいことを言っていたのはちょっと笑えたが、どれも却下だ。


『俺がなんとかするよ』


 そして俺たちは、魔王城から一番近いルギルアという国へやって来た。

 ちなみに魔王城を狙っているかもしれない四つの大国の一つでもある。


 新情報はないが、水面下で何か動いている可能性もあるので油断はしていない。

 だが俺は冒険者だ。ランクもあげたこともあって、魔王城を襲撃する、なんてあれば気づくだろう。

 

 ちなみに近くまでアリエルの転移で飛ばしてもらったのでここまで一日足らず。

 まったく、血の気が多いところ以外は優秀な奴らばかりだ。


「私、ルギルア初めてですわ! ふふふ、人間どもめ、優秀な技術者を奪い去ってくれる!」

「何いってるんだ。アリエル」

「え?」

「そこにはいかない。いくのは、この先だ」


 俺は、何もない海に指を差した。

 いや、遥か奥、小さな島が見える。


「なんでしょうかあれ?」

「あそこにいるんだよ。俺がほしい技術者は。――シュリ、水の魔物を使役してくれ」

「畏まりました。しばしお待ちを」


 すると、水に手を向ける。

 シュリは魔物を怒らせることもできるし、従わせることもできる。


 そして現れたのは、デカい水蛇だった。


「何だ俺を呼ぶのは? ああっ? 人間にしちゃあ魔力が強いようだなあ?」


 うん、イキがよくていいね。


    ◇


「スーパー主様、乗り心地はどうでしょうか?」

「悪くないよ。ありがとう。よかったらうちの領地に来ない? 君と同じような友達もいるよ」

「なんと! 是非おともしやす!」


 蛇はなんかこういう舎弟っぽい口調が多いのかな?

 ウィンディーネの前にいた兄弟もそうだった。

 

 しかしさすがシュリだ。戦うこともなく魔力で従わせた。

 魔物は力関係が全てだ。


 誰もそれに嫌がることもないし、むしろ安定を望んでいる。


 魔物の世界はわかりやすくていい。


「……あの島にいくんですか?」

「ああ、知ってるのか?」

「……と、とんでもない人が住んでますぜ……」

「知ってるよ。でも、必要なんだ」


 そして俺たちは上陸した。


「悪いがアリエル、シュリ、ここで待っていてくれ。必ず連れて帰る」

「危険ではないのでしょうか?」

「そうです。魔王様に何かあれば……」

「大丈夫」


 島はそれほど大きくない。

 森を抜け、木々を抜けると、小さな小屋があった。


 ――原作通りだ。


 するととんでもない魔力を感じる。


「人間が何の用だッ!!!」


 突然後ろから攻撃を感じる。

 振り返ると大剣だったが、防御シールドで受け止めた。


「人間じゃない。俺は、魔王だ。それも良い魔王だ」

「……良い魔王?」


 そこにいたのは、しっかりとした身体つき、むちむちぼん、でも体躯は小さい可愛いドワーフ・・・だった。

 



 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る