014 最強×最強×最凶

 ファイルと妹のリリが来てから数週間が経過した。

 魔王城の近くは、もはや驚きの進化を遂げていた。


「いつ見ても凄いな……」


 綺麗な石畳に天然の街路樹が等間隔に立っている。

 その奥には、ハーピー一族が過ごしている木を基調とした家が建てられていた。

 もちろんそれだけじゃなく、伐採した木や石を整える工房、少しだけ離れた場所には畑がある。


 野菜はもちろん、シュリが持ってきてくれた稲で米を作ろうとしていた。

 

「あら、魔王様ですわ」

「今日もカッコイイです!」

「魔王様、こんにちは!」


 俺が街を歩くと天使の羽を持つハーピーたちが手を振ってくれたり、頭を下げたりしてくれる。

 魔物の国を創っていたつもりだが、今のところ天国感マシマシ。


「魔王さま!」


 すると、いつの間にか俺の洋服を掴んでいる小さなドワーフがいた。

 お姉ちゃんと同じ赤髪だが、幼い顔をしている。


 ただ身長は俺とそこまで変わらない。


「おはようリリ、もう慣れた?」

「うん、みんな優しくて大好き!」

「そうか、良かった」


 俺は、頭をよしよしと撫でる。

 原作を改変したことは将来的に不安もあるが、これは良い方向だろう。


「魔王さまこっちです!」

「ああ」


 今日はファイルに渡したいものがあると呼ばれたのだ。

 サプライズみたいな感じで変なドキドキだが、気にはなる。


 個人的には食べ物だと嬉しいが。


 ファイル専用の工房は、街の中心から少しだけ離れた場所にある。

 その理由は――。


 ――カンカンカンカンカン!


 騒音を気にせずに済むからだ。


 このあたりはまだ手付かずの森だが、ファイル的には居心地がいいらしい。


 到着するなり、リリが嬉しそうに少し待ってと俺に言った。

 人懐っこい彼女は、ハーピーや六封凶からも人気だ。


 突然現れた姪っ子、みたいな感じだろう。


 これが人間ならどうなっていたのかはわからないが。


 するとリリがファイルと一緒に歩いてくる。


 その手には――黒剣?


「とりあえず試作品だが、試してみてくれ」

「試す?」

「魔王さま、はやくはやく!」


 リリにせかされるように、俺はファイルから剣を手に取る。

 すると――なぜか凄くよく馴染む。


 いやそれより……なんだこの身体の魔力が全て集約されるような感覚は。


「ちょっとだけ振ってみてくれ。あ、ここじゃまずいか……。ええと、向こうのあたりに」


 俺は、ファイルに言われるがままブンっと剣を――。


 するとまるで電気のような感覚が肩から腕にかけて感じると、黒い電気がビリビリとはじく。

 次の瞬間、まるで空気の波動のようにうねりをあげ、目の前の大木が倒れた。

 それも、本当に軽く振っただけだ。


「――よし、いい感じだな」

「よし――じゃねえ!? ファイル、何を作ってるんだ?」

「? 魔王様の魔剣だよ。六封凶に魔王様は武器を持ってないから作ってほしいって頼まれて」


 魔剣……ちょっとまて、そんなのを原作で知らないぞ。

 いや、そもそも勇者の聖剣を作るのは彼女だ。


 そしてそれは、ラスボスである魔王デルスに対抗しうる剣。

 

 なのに俺が、魔剣を持つ? え? 誰と戦うんだ?


 つうか、いつのまに……。


「なんかマズかったか?」

「マズイというかなんというか……」

「みんな、心配してたよっ。魔王さまがもっと安全になってほしいって」


 そのとき、リリが俺の腕を掴んで言った。

 すでに安全なことこの上ないが、俺のことを考えてくれたのだろう。


 ……まあ、ならありがたくもらっておくか?


 うーんでも、これが試作品って……。


「……まあ、そういうことなら。でもそこまで気合を入れなくていいぞ。適当でいい、適当で」

「そんなことできないよ。私の主様だからな。ちゃんと最凶の剣を作るから待ってくれ。もちろん、国の建設の手も抜かない」

「魔王さま、もっと強くなろー!」


 最強の国に最強の魔剣。


 後、最凶の魔王――俺。


 なんか俺は、とんでもないことをしている気がしてきたな。

 

 まあでも、めちゃくちゃカッコイイからいいか。

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