015 誤解

 全てが順調、俺は建設スローライフを楽しんでいた。

 ただの森は集落を飛び越え、魔物の町くらいになっている。

 城下町に降りれば、俺はまるで英雄のようだ。


 うむうむ、良きかな良きかな。


「魔王様、問題が起きました」


 だが当然というべきか、ベクトル・ファンタジーは安定を許してくれない。

 片膝をつくアリエルに報告を許すと、静かに立ち上がる。


「……壁か?」

「いいえ」


 壁を作ろうとしているのだが、それではないらしい。


「……ファイルの魔剣作り?」

「いいえ、順調です」


 一応、できればそうであってほしいが違うらしい。


「……話せ」

吸血鬼族ヴァンピールが攻め込んできました。今は防衛として対応していますが、シュリとペールが森門・・で交戦しています」


 吸血鬼族ヴァンピール……。


「繋げ」

「はっ!」


 また厄介な連中が来たもんだ。


    ◇


「返せ! 俺たちの姫を!」

「だから何度もいってるけど、私たちは関係ないんだってば」

「姫様は、私たちの大事な――」


 転移窓をくぐると、森の中を飛び交いながら、ペールがどデカい斧で交戦していた。

 俺との命令を守っているらしく、防御だけしかしていない。


 だが驚いたのは、ペールもかなり必死だったことだ。


 攻撃を仕掛けているのは二人で、一人は金髪で爽やかそうな風貌の男だ。

 えーと……知ってる。


 もう一人はピンクショートカットで、あどけない表情の女の子だ。

 どちらも吸血鬼が興奮したときに出現する、赤い眼を浮かべていた。


 今は太陽が出ている昼だが、ベクトル・ファンタジーの吸血鬼族ヴァンピールは能力が下がるだけで外に出ることができる。

 つまり、かなり動けているみたいだ。


 ――まあ、もう一つ・・・・のボスの側近なのだからこれくらいはやるだろうが。


「魔王とやらが奪ったんじゃないのか!」

「――今……なんて?」


 するとペールが、死ぬほどの魔力を漲らせた。

 斧から黒いオーラがほとばしる。


「ペール、そこまでだ」


 流石に限界だろう。


「ま、魔王様!?」

「――ありがとう、約束を守ってくれたんだね」

「えへへ、はい。――彼ら、私たちが幽閉しているといってきかないんです」

「そうか。後は任せてくれ」


 俺はゆっくりと前に出る。

 かなり焦っているみたいだ。興奮しているらしい。


「お前が魔王か! 姫を返せ!」

「そうよ、私たちの――」

「落ち着け。俺がなぜ姫を幽閉する? 理由は? 俺たちはここでただ暮らしてるだけだ」


 それを伝えると、二人は困惑して顔を見合わせる。


「――だが、魔王が幽閉したと……」

「それは誰から聞いた?」

蜥蜴族リザードマンだ。それに前から姫様の力を狙っているのは知っていた」


 ふむ。


 だが俺は思い出す。

 確か魔王デルス、要は以前の俺は、吸血鬼族ヴァンピールを手駒に加えようとしていた。

 つまり彼らがそう思ってもおかしくはない。


 実際、俺が逆でもそう思うだろう。


 だが誤解だ。俺は何もしていない。


「姫を返せ……」


 とはいえ、ここは俺たちの領域だ。

 ペールも約束を守ってくれたが、そう簡単に引き下がってくれないだろう。


 ――少しだけ落ち着いてもらうか。


「何度言ってもダメだろうな。――来い」


 そして俺は、試作品の魔剣を構えた。

 それを見て、吸血鬼族ヴァンピールの二人が攻撃態勢を取る。


「やはりそうか」

「姫様を返してもらう」


 殺す気はない。だがペールに攻撃を仕掛けた罪はある。


 少しだけ痛い目には合ってもらおう。



 



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る