016 吸血鬼族

 吸血鬼族ヴァンピールの二人は、魔力を漲らせた。

 俺の後ろでは、アリエル、ペール。そして周囲を警戒しているシュリがいる。


 この場所は森門・・

 俺たちがそう呼んでいるだけだが。その理由は、まだこの先が聖地されていないからだ。


 さて、それより――。


 若い男は手に変わった赤い剣を持っている。片方の女性は何もないが、見たところ魔法使いだろう。

 鼻息を荒くしているし、少し発散させてから話を聞くことにするか。


「姫様を返せ!」


 男が地を蹴り、右手に構えた剣を上段で振りかぶる。いい動きだ。かなり洗練されている。

 試作品の魔剣で受け止めるも、圧力が凄まじい。


 ――おもしろい。


「姫様というのは、レイヤ姫・・・・のことか?」

「――そうだ!」


 なるほど、少し視えてきたな。


「ヴェニス、少し離れて! ――闇の血よ、我が呼び声に応じよ!」


 すると、男の後ろにいた女性が、両手の天に向けた後、大きな血の玉を出現させた。

 高密度な魔力に覆われている。


 そしてそれを俺に投げつける。


「魔王様!」

「大丈夫だ」


 アリエルが守ろうとしてくれるが、制止する。

 おもしろいことに寸前で、血がはじける。

 魔力を眼に漲らせてみてみると、一つ一つが弾丸のような魔力が込められていることに気づく。


 なるほど、広範囲で攻撃ができるいい能力だ。


 しかし――。


「全部……斬った……?」


 俺は、一つ一つを丁寧に全て断ち切った。

 試作品の魔剣だが、さすがファイルだ。魔力断絶の能力が付与されている。


「悪くない。でも、俺には勝てない」

「アイリス、俺が先に動きを止める!」


 すると男――ヴェニスが俺に思い切り連続で剣を仕掛けてきた。

 かなり速いな。


 まあ、そろそろいいか。


「悪いが、一旦眠ってもらおう。――話はあとでゆっくりな」

「――な!? ぐがあっ」


 俺は攻撃をすべて捌いた後、首に一撃を与えた。

 だが強かったらしく、鈍い音が響く。


 首折れたかも。あ、でも吸血鬼は再生能力があるからいいか。


「姫様ならずヴェニも……!」


 するとアイリスが、先ほどよりもデカい血の玉を出現させた。

 周囲を覆いつくほどだ。

 

 俺が受けても無事だが、周りが穴だらけになりそうだな。


 ――さて。


「――吸収アブソープション


 そして俺は、右手を翳して血を吸った。

 これは先日、シュリから教えてもらった技だ。


 みんな固有魔法が使えるので訓練は続けている。

 

 なかなか使い勝手がいい。


「そんな……」

「とりあえず、お前も眠って」


 そして俺は瞬時に駆け、少し弱めに首を一撃。


 ま、こんなもんか。


「流石です、魔王様!」

「達人の動きでしたわ」

「ペールもやりたかったなあ。でも、さすがデルス様!」


 アリエルとシュリ、ペールが褒めてくれるが、俺はあまり喜んでいなかった。


 厄介なことになっているとわかったからだ。


  ◇


「……う、ここは」

「……家?」

「おはよう。とりあえず話を聞いてくれ。ここにレイヤ姫・・・・はいない。ライフ、飲ませてあげてくれ」

「はい――。どうぞ」

「何だこれは……か、身体が」

「……すごい」


 俺は、ファイルが作ってくれた家の居間に座っていた。

 魔王城に連れていくといかにも悪い奴みたいで嫌だったからだ。

 

 それに、こっちのほうが話もしやすいだろう。


 ライフの全回復ポーションを飲ませたことで、二人は少し気持ちを取り戻していた。

 ウィンディーネの聖水もブレンドしているので、心にも作用がある。


「何度も言うが、俺たちは魔物の国を創っているだけだ。レイヤ姫はここにいない」


 俺の横には六封凶のみんな、ハーピー一族、ファイル、リリ、ゴンがいた。

 それを見て、アイリスとヴェニスが驚愕する。


 魔族は他種族と仲良くすることはないからだ。

 それに気づいたのだろう。


「そうみたいだな……。すまない、勘違いだったみたいだ。……本当に申し訳ない」

「ヴェニスは……悪くありません。悪いのはこのアイリスです。処罰なら私を」

「そんなことはしない。かなり切羽詰まっているみたいだな。まず、話を聞かせてくれ」

 

 すると二人は、目を見開いていた。

 俺の噂ぐらいは知っているだろう。

 最凶で最低のデルス魔王。


 だからこの処遇に驚いているみたいだ。


 以前の俺――デルス魔王が吸血鬼族ヴァンピールのレイヤ姫をかなり気に入っていたことは知っている。

 手駒にしようと、何度かちょっかいをかけていたことも。

 それは原作でもあった。これは、まあある意味俺の罪だし、こいつらが疑うのも無理はない。


 そして蜥蜴族リザードマン

 これは東の森に住む大規模種族で、吸血鬼族ヴァンピールたちと直接関係性もなかったはず。


 それからアリスは、出来事を教えてくれた。


 ある日、蜥蜴族リザードマンの代表がやってきたらしい。

 魔王が領地を広げ、魔物を部下にしていると。


 その噂を聞き、不安がっていたところにレイヤ姫が忽然と消えた。


 以前の俺と蜥蜴族リザードマンの情報からここに幽閉されているのだろうと思ったらしい。


 さらに同胞が何人かやられていたらしく、そこに血文字で魔王に従えと書かれていたとのことだ。


 かなり用意周到だ。


 二人は戦闘能力が高く、あまり大人数だと逆に危険だと少人数で来たらしい。


「なるほど、だが何度も言うが誤解だ。俺は決して無理強いはしてないし、みんな自ら来てくれた」

「……そのようだな。すまない。ということは姫は蜥蜴族リザードマンたちに……クソ!」


 蜥蜴族リザードマンの戦闘能力は高い。


 実際、原作の魔王デルスも蹂躙することもなく共存を選んでいたはず。


 だが――もしこれが奴らの仕業なら喧嘩を売られたも当然だ。


「――魔王様」

「ああ、ありがとうシュリ」


 そして俺は、シュリからの報告を受けた。

 使役した魔物に確認してもらったのだが、最悪のケースだ。


「アイリスとヴェニス、蜥蜴族リザードマンが集結しているらしい。進行先は吸血鬼族ヴァンピールの里だそうだ」

「な……なんだと?」

「そんな……」


 つまり二人を俺にけしかけたのはその間に準備をして時間を稼いでいたのか。

 ふむ、なるほど。


「今すぐに戻ります。デルス魔王、この謝罪は改めて必ず。今回は見逃してもらえないでしょうか」

「本当に申し訳ありません」


 二人は何度も謝罪する。だが――。


「大丈夫だ。だが今回は俺の問題でもある」


 これは、俺が過去にレイヤ姫へちょっかいを出していたのが原因ともいえる。

 それなら、過去の清算をしておこう。


「俺も手伝おう」


 魔物の国の創立にあたり、いずれはどこかと戦う必要があるとは思っていた。

 できるだけ共存したいが、そんな虫のいいことは言わない。


「アリエル、ペール、ライフ、シュリ、行くぞ。ビブリア、お前は念の為、里を守っていろ」

「はっ、かりこまりました」


 同じようなことになる可能性もなくはない。

 ゴンもハーピーもいれば被害も最小限に住むだろう。


「いいのですか? 本当に」

「ああ、今回は俺も怒ってる。この俺を利用したことを後悔させてやろう」

「「「「はっ」」」」



 さて、蹂躙の時間だ。

 

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