020 六封凶の苦労人、ビブリア。

 朝目を覚ますと、まずは報告書に目を通す。

 現在、魔王様の傘下は、ハーピー一族、ドラゴン、吸血鬼族ヴァンピール蜥蜴族リザードマン、ウィンディーネ、ドライアド、水蛇、ファイル、リリ、そして私たち六封凶である(多分合ってる)。


 それぞれが日々、魔王国建設の為に働いている。


 問題は多く、森の整地、食料問題、法律関係、異種間での軽いいざこざで一日が終わってしまいます。


 しかし――この日々が楽しくもある。


 私は、人間を殺したいとよく考えていた。


 下劣な種族を叩き潰しと思っていた。


 しかし最近は、忙しさからか忘れている。


 それいい事か悪いことはわからないが、魔王様は人間を傷つけたくないと仰っていた。


 きっと、良い方向なのだろう。


「ビブリア、おはよう」

「おはようございます。こちら、報告書をまとめたものでございます。一番の問題はやはり食料でしょうか。資源には限りがありますので、将来的に人間の国と貿易するのが良いかと」


 魔王様から声をかけられ、私はいつものように答える。

 しかしデルス様は驚いていた。


「どうされましたか?」

「いや、ビブリアの口からそれを聞くと思わなくてな」

「? どういう――……そうですね」


 気づけば私は、以前ほど人間を憎んでいないことに気づいた。

 おそらく、多くの他種族と接しているからだろう。


 以前、蜥蜴族リザードマン吸血鬼族ヴァンピールを仲たがいさせようとしていた人間がいたが、その際、国を責めたときに小さな子供たちがいた。


 無力で、何もできない脆弱な生き物だ。


 だが、未来があるとも思えた。


 もしかすると、人間は価値があるのかもしれない。


 それがわかるようになったのは、デルス様のおかげだ。


「シルティア、おはよう。ファイル、おはよう。――レイヤ姫、お、おはよう」

「ちゅきでございます。あ、おはようございます」


 最高峰の権力にもかかわらず、分け隔てなく接するそのお姿は、とても誇らしくも美しい。


 ――そうか。


 私は、魔王様のようになりたいのだ。


 差別をしない素晴らしいデルス様のように、格好よくなりたいのだろう。


 しかしまだ心がざわつくときがある。


 心の葛藤が、何かが、私の心を邪魔をする。


 そんなとき――。


「ビブリア、いつもありがとう。君がいないと俺の夢はきっと叶えられないよ」

「……そんなことはありません。魔王様が願う事は、全て叶いますよ」

「いや、みんなのおかげだよ。特にいつも迷惑をかけてすまない。――これからも頼んだよ」

「もちろんでございます」


 魔王様の一言で、私は頑張ろうと思える。


 そして気づいた。


 魔王様の願いが、夢が、私の夢になっていることに。


 ……見てみたい。


 異種族がみんな仲良く暮らしているところを。


「さて、頑張りましょうか。アリエル、ペール、シュリ、ライフ、今日も頑張りますよ」

「そうですね。頑張りますわ」

「魔王様の為に、れっつごー!」

「あらビブリア、なんかやる気じゃない?」

「が、がんばります! ポーションいっぱいなくなったから作らなきゃ……」


 もちろん、仲間と共に。


 しかしもしこの命が必要なときがあれば、喜んで献上しよう。


 魔王の国の為に、いえ、デルス様の為に。

 


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る