023 デルス街

 原作では、いや――この世界で一番猛威を奮っているのは魔物だ。


 だが俺たちはそのほとんどと会話することができるし、意思を持たない魔物はシュリが使役することもできる。


 さらに俺は知っている。どこでどんな大事件が起きるのか。


 それこそ、未来人のように。


「ペール、派手にやってこい。だが殺すなよ」

「はい! 畏まりました!」


 やると決めてからの行動は、自分でいうのもなんだが早かった。


 東の果てにあるオラアイ国は、常に死人の魂から生まれでるゾンビと戦っていた。


「誰だ……? 子供?」

「あのデカい斧、魔力、何者だ?」

 

 ペールは単身でそこに乗り込み、アンデットモンスターを従え、魂を浄化し、全てを無に帰した。


「あっはは! 楽しい、楽しいねェ!!!!」


 三日三晩戦うことを余儀なくされる過酷な戦いだったが、ペールはそれをやってのけた。

 これにより長く続いていた災害のような呪いが終わり、ウィンディーネの聖水を撒いて、全てが終わったと魔王国・・・が宣言した。


 それはすぐに周知された。


 だがこれは始まりだった。


「シュリ、頼んだぞ」

「はっ、全て使役してまいります」


 魔素が濃く、魔物が絶え間なく続くベルトォーヴァー大森林の魔物を抑えたことにより、西と東で分断されていた国の流通を再開。


「ベルディ、ライフ、殺すなよ。――最後に無傷ならそれでいい」

「わかりました」

「は、はい! 承知しました!」


 過激な奴隷商人として有名な規模組織のアジトに二人で乗り込み、最終的・・・には誰も殺すことなく壊滅に追いやった。

 もちろんそれも、俺たち魔王国の手柄として。


 後は災害による救助だ。


 あらかじめアリエルの転移魔法で準備しておいて、山の噴火での人間の救助、ビブリアがまとめ報告で滅びゆくしかなかった小国を助けたり。


 もちろんその間、吸血鬼族ヴァンピール蜥蜴族リザードマン、ハーピー一族、ゴン(見張り)は街の建設を頑張ってくれていた。


 その間にもメリットは商人として順調に信頼を積み上げながら、俺たちと人間の橋渡しをしてくれるようになった。


 畑ができて、お花畑ができて、ファイルとリリのおかげで噴水ができて、そして、真ん中には俺の銅像が建てられた。


「これ、いるか?」

「……尊い……」


 ちなみにレイヤ姫が毎朝悶絶しながらお祈りをしているとの噂だが、真偽はわからない。


 ただの森は村となり、町となり、そして街になった。


 世界各地でも俺たちのことは認知されるようになり、魔王は人間に寄り添おうとしているという声も出てきているらしい。


 正直やっていることは偽善以外の何物でもないが、やらないよりなんとやらだ。


「それでは魔王様、よろしくお願いします」

「ああ」


 数か月後、俺が知っている原作の知識を駆使した権威作戦が一旦終わり、大きな時計台が完成した。

 それに伴い、ビブリアがみんなを集めてくれた。


 ちなみに身長が低いので、お立ち台を作ってくれている。


 見渡すと綺麗な街並みが見える。

 そして、多くの俺を慕ってくれている人たちが。

 

 そして俺は、一晩考えていたことを発表する。


 色々悩んだが、至極シンプルな案に決まった。


「まずはありがとう。色々と紆余曲折はあったが、俺の理想にかなり近づいている。それも手伝ってくれているみんなのおかげだ」


 そして完成が上がる。

 もちろんそこには六封凶の姿があった。


 俺を支えてくれる、忠誠心の高い連中だ。


「魔王様、どうするんですかー!」

「気になりますー!」

「教えてくださーい!」


 みんなにせかされながら、俺は小さな紙を広げる。


「この街、いずれ国となるが、名前を発表する」


 そう、俺は重大な任務をビブリアとメリットから決めてほしいと言われていた。

 輸入にあたってあったほうがいいというのだ。


 いずれ付ける予定だったが、それが、決まった。


 というか、投票にした。

 

 自分で決めるのも恥ずかしかったからだ。


 集計してくれた文字を読み上げようとすると、手が止まった。



 ……恥ずかしいな。


 だがビブリアは「どうぞ」とという目をしている。


 ……はい。


「……デルス」


 恥ずかしそうに小さな声でいうと、聞こえなーい! と言われた。


 俺は勇気を出して、声を上げる。


「投票の結果、この街、いやいずれ国だが、デルス街とする! ――てか、ほんとうにこれでいいのか?」


 次の瞬間、溢れんばかりの歓声が沸き上がった。


 まさか俺の名前になるとは……。


 勇者にただ蹂躙されるだけの魔王が、原作ではありえない仲間たちと街を作って魔剣まで持ってるって、結構やばいよなあ。


 でも――。


 嬉しそうにしている六封凶を見て、俺のしたことは絶対に間違いじゃないと思うのだった。


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