018 黒幕

 魔王デルスは、ベクトル・ファンタジーにおいて最凶のキャラクターだ。

 倒すことができるのは勇者のみ。


 だが部下である六封凶や俺に従ってくれている魔物は違う。


 吸血鬼族ヴァンピールと直接関係があったわけじゃないが、いつか異種間族での争いに巻き込まれることはあるだろうと考えていた。


 俺は最強の国を創る。

 綺麗ごとだけじゃ叶えられない理想だ。


 それが、今来ただけのこと。


 もしここで吸血鬼族ヴァンピールを見捨てたとしても、いずれ矛先は俺たちへ来る。

 なら今協力して叩く方がいい。


 俺はアリエルに蜥蜴族リザードマンの里近くに飛ばしてもらっていた。

 他の連中は吸血鬼の里を守る為にここへ飛んでいる。

 

 視界の先、大きな川をまたいで、テントのような形をした建物がいくつも並んでいた。


 視界を凝らすと、そこには里に残っている蜥蜴族リザードマンたちの姿があった


 そこには、女性と思われる蜥蜴族リザードマン、そして――子供たちもいる。


 ……家族か。


 考えてなかったわけじゃない。奴らも無から生まれるわけじゃないからだ。


 だが魔物の世界、いやこのベクトル・ファンタジーは弱肉強食の世界。


 淘汰されるのは、仕方がないことだ。


 しかし驚いたのは、男の蜥蜴族リザードマンもいること。

 どういうことだろうか。


 まあ、聞く方が早いな。


 飛行魔法は得意じゃないが、川を超えるぐらいは問題ない。


 俺は助走をつけて――向こう岸に渡る。


 俺に気づいた蜥蜴族リザードマンたちが、理解するまで時間をおいて、それから悲鳴のように叫んだ。


「て、敵だあ!」

「この角……風貌……魔王だ!」

「やっぱりだ、やっぱり来た・・のか!」


 その戸惑った様子に違和感を覚えるも、蜥蜴族リザードマンたちは一致団結、長く反った剣を構えた。

 サーベルソードに似ている。威力も高そうだ。


「なぜ吸血鬼族ヴァンピールを狙っている?」

「……なんで知ってるんだ?」

「? お前たちが俺に仕掛けさせたんだろう。魔王がレイヤ姫を奪ったという情報を流してな」

「訳の分からないことを! 俺たちは決して、お前の部下にはならない!」


 後ろからサーベルを振りかぶられたのが、振り返らずともわかった。


 ――ったく。


 次の瞬間、ドシっと鈍い音を立てて落ちる。


「ひ、ひぎゃああああああああ」


 サーベルが落ちる音、いや、正しくは右腕が落ちた。


 ……やはり変だ。


 俺は魔剣に魔力を込めて構えた。

 

「――俺がその気になればここにいる連中、子供も含めて全員を数十秒で塵にできる。――質問に答えろ」


 蜥蜴族リザードマンはただ怯えている。

 吸血鬼たちを殺そうとし、俺たちに仕掛けた側として、やはりおかしい。


「……魔王が吸血鬼族ヴァンピールと手を組み、俺たちを殺すと聞いた。それに同胞を先に殺してきたのは、吸血鬼のほうだ!」

「なんだと?」


 それで、俺は全てを悟る。


 急いで思念伝達で声をかけた。


『シュリ、全員に伝えろ。攻撃は中止、話し合いに応じなくとも攻撃はせず、一旦引け』


 だが――。


『了解しました。しかし既に蜥蜴族リザードマン吸血鬼族ヴァンピールと交戦しています。死人はいないですが、怪我人はかなり出ています』


 ……一足遅かったか。


 ――いや、間に合うはずだ。


『ライフのポーションを全部使っていい。とにかくこの戦いでは誰も殺すな』

『しかしあれは町の為に――』

『構わない。できるかぎり殺すなよ』

『はっ、すぐに周知致します』


 その瞬間、俺は魔力感知を広げた。


 足元から無色透明の闇が広がっていく。


 もっと、もっとだ。


 もっと広げろ、もっと、もっともっと。


 もっとだ――。


 ――いた。


 次の瞬間、俺は地面を踏み込んで――飛んだ。

 遥か先、木の上で隠れていたに声をかける。


「――やっぱりいたか」

「……なぜわかった」

「俺ならそうするだろうからな。レイヤ姫はどこだ?」

「――ふっ、そこまでわかっているとは。さすが――魔王か」


 黒装束で姿は見えない。

 だが漲る魔力はただ物ではなかった。

 

 俺が魔剣を振りかぶる瞬間、煙幕を詠唱し、姿を消す。


「クソ、どこいった!?」


 ――っと演技はこのくらいでいいか。


 さて、案内してもらおうか。


  ◇


 蜥蜴族リザードマンの里から近い森林の岩陰、金色の長い髪、真紅のような赤い服を着た女性が、眠っていた。


 その前には、黒装束が立っている。


「――んっ、あなた・・・どうして私をこんなところに!」

「事情が変わった。お前はここで死んでもらう――じゃあな――がっ!?」

「――案内してくれてありがとう」


 黒装束の男が、女性を殺そうとした瞬間、俺は上から降りて腕ごと叩き落す。


 いや、折った・・・が正しいか。


「……な、なんでここまで」

「俺の魔力感知を侮るなよ。この大森林でお前がどこに逃げようが、俺には視えている」


 その瞬間、シュリから連絡が入る。


『交戦を停止し、対比させました。ですが、双方に被害は出ています。もしかすると、数名死んだかもしれません』

『……上出来だ。全員、魔王城に集めてくれ。俺も蜥蜴族リザードマンを何人か連れていく』

『どういうことですか?』

『すぐにわかる』


 その瞬間、男が自害しようと魔法を詠唱した。

 だが俺はそれを止めて、首に一撃を与えて眠らせる。


「ったく、厄介な奴だな。――大丈夫ですか? レイヤ姫・・・・

「あなた……もしかしてデルス魔王? なんだか前と様子が違う……」

「……ええと」


 前の俺……ああ、そうか、普通に考えたら敬語とか使わないか。

 でも、姫とかついてたらさすがに丁寧にしちゃうよな。

 今更偉そうも難しいし……。


「……カッコイイ」

「え?」

「しゅき……私の王子様……」

「はい?」


 何かよくわからんことになっているが、とりあえず――解決編をするか。


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