002 千里の道も一歩から

 魔王城について色々とわかったことがある。

 まず内部の構造だが、これはゲームで知っていた部分と知らない部分があった。


 俺がいた場所は玉座の間で、城の中心部分にあたる。

 また、直下六封凶ろくほうきょうの部屋も存在していた。

 

 地下の宝物庫には世界中から集められた古代魔法具あるとのことだ。だがまだ詳しくは調べていない。

 後の楽しみは最後にとって置くタイプだからな。ショートケーキの苺とかみたいな感じ。


 そして周囲だが、やはりというべきか、とんでもなく僻地だった。

 近くは岩、崖、森、砂漠ばかり。しかし田舎なのはありがたい。


 つまり誰にも邪魔されずに領地を拡大できるということだ。


 愉快な仲間たち殺戮大好き連中と共に行動すれば不可能なんでないだろう。


 大規模戦争も事前に止めたし、これで勇者なんて現れないはずだ(多分)。


 初めは魔王なんて、と思ったが、俺を慕う連中が大勢いる。

 平民スタートより何倍も良いかもしれない。


 そして何よりも大事なことがあった。


 それは、俺――デルス魔王がどのくらい強いのか知ることだ。


 地面に亀裂を与えたが、あれは咄嗟のことだった。魔法は使えるみたいだが、まともに戦ったことなんてない。

 何をするにしても異世界で戦うことはあるだろう。


 まずはそのあたりから調べることにした。


 魔王城の地下には、だたっぴろい何もない空間がある。

 正直、何に使うねん! とツッコミたくなるが、今は訓練室にちょうどいい。


 俺は、しっかりと柔軟、ラジオ体操をした後、アリエルに声をかける。

 ちなみにアリエルもたゆんっとさせながらしてくれていた。


「よし、まずは軽くでいいからお願いしていいかな」

「は、はい……し、失礼します!」


 するとアリエルは、ものすごくものすごくゆっくりビンタしようとしてきた。

 恐れ多いのか知らないが、目をつぶっている。


 ちなみに話し方はもう面倒なので普通にしゃべることにした。

 全然態度も変わらないし、むしろ喜んでいたので良し。


「アリエル?」

「~~~~ッッッ!」


 それにしてもスローすぎる。


 避ける気にもならないので見ていたら、ぺちんっ当たった。


「ぁあぁつ!? あああっ! 魔王様、大変申し訳ありません!!!!!!」


 目を開けて驚いたアリエルは、たゆんを揺らしながらむせび叫ぶ。

 うん、手加減しすぎな!?


「もうちょっと本気出して。練習にならないから。――じゃあ距離を取ってからで」

「わ、わかりました……」


 そういいながら離れた後、アリエルは魔力を漲らせる。


 彼女は原作で勇者ご一行を瀕死にまで追い詰めるほどの力を持っていた。


 さあて、どのくらいか――。


「――ハァアッ」


 次の瞬間、目にもとまらぬ速度で駆ける。

 魔法が得意だったはずだが、体術も結構できるんだな。


 そしてさっきより随分と速い拳を振ってきた。


 ふむ、悪くない。


 だが俺には余裕で見えている。


 やはり俺は、デルス魔王なのだろう。


 軽く手で受け止めるが、衝撃で轟音が響いた。


「ああぁつ! さすが魔王様! それに何という暖かいおててっ!」

「あ、ありがとう。次は魔法をお願い。――かなり強めで」

「――はい」


 アリエルはふたたび後方に飛んで距離を取ると、手に魔力を漲らせる。

 ぶんっと右腕を鞭のように振ると同時に、大きな魔力砲が放たれる。


 それは電気のようにビリビリと波動を身に纏いながら俺に向かってくる――。


拒絶リジェクト


 が、ふっと息を吹きかけただけで、その場で消滅する。


 アリエルは、驚きながら悶えていた。


「ぁあっん! さすがデルス様でございます!!! 今のは人間100人をも殺せる魔力があったというのに! 吐息だけで! ああ! かっこいいです!」

「ありがと。――ペール、次は君だ」

「わかりました! 魔王様!」


 そう言って体育座りで待っていてくれたツルペタ戦闘武装少女ペールに声を掛ける。

 黒衣の装備だ。手には大きな斧を持っているが、細腕でぶんっと余裕で触れるほどの怪力を持つ。

 

 原作では一人で大軍を相手にしても余裕だった。


「武器を使ってそのまま本気・・できて」

「いいんですか?」

「ああ、ヤバそうだったらまた言うよ。いつでもおいで」

「――わかりました」


 ペールは凄く嬉しそうだった。彼女は戦うのが大好きだからだ。

 次の瞬間、姿が消えるほどの勢いで地面を蹴りつけると高く空を飛び、上段に構えた斧を振りかぶって遠慮なく俺を真っ二つにしようとした。


 ――だが俺はそれを片手で受け止める。


「――ぐぬぬぬぬ!?」

「やっぱりペールの力は強いね」


 ひょいとそのまま投げるように飛ばすと、ペールが悲鳴をあげながら吹き飛んでいく。


「ふぇええぇえぇっ!?」


 しかし猫のように姿勢をただして、くるりと翻りながら着地した。

 斧を持った状態でも素早い。


「アリエル、ペール、二人でかかってきて」

「ええ、そんなの良いのですか!?」

「いくら魔王様でも、それは……」

「もし一撃でも与えたら――よしよし・・・・してあげるよ」


 俺がそう言うと、いつも喧嘩ばかりしている二人が一致団結したらしく、「行くわよ、ペール」「ええ、アリエル」とさっきよりも強い魔力を漲らせた。


 うーん、この忠誠心はどこから来てるんだ。


「「――っ!」」


 すると二人が左右に散る。右からアリエルが魔法を放ち、左ではペールが斧で一撃を与えようとしてきた。


 俺は両手に拒絶リジェクトを詠唱して防ぐ。だがさっきよりも随分と圧力を感じた。

 そんなによしよしされたいのか……。


 原作でデルス魔王は最強だ。勇者が現れるまでは常勝無敗。

 

 俺は今まで戦闘なんてことはないが、身体になぜか染みついている。


 しかしイメージ通りに動かせていないのか、少しのズレがある。


 このあたりは訓練しながら微調整していくしかないんだろうな。


 すると二人はさらに強い魔力を漲らせ――。


「――闇の波動ラギブラストス!」

「――一撃必殺ワンヒットキル


 まさかの奥義を放ってきた。

 塵すら残らない最上級魔法と竜すらも切断する必殺攻撃。


 原作ではHPが残り2割を切ったときに発動する技だ。

 何度これに苦しめられたかわからない。


 ――なら。


完全防御フルシールド


 俺は自分の身体を360度覆った。

 二人の攻撃がぶち当たって轟音が響く。だが、バリアは壊れなかった。


 だが少しだけヒビが見える。この辺りは、俺のイメージがやはり足りないみたいのだろう。


「す、す、す、す、す、凄いですわ! デルス様! 私の魔法が一切通じないなんて!」

「ペールの必殺技攻撃がいとも簡単に……魔王様、凄い……」

「ありがとう。二人の攻撃も良かったよ。おいで――よしよししてあげる」


 その言葉を発した瞬間、二人は瞬地――顎と頭を差し出してきたので、なでなですると、ネコナデ声で喜んだ。

 うーんなんか背徳感が凄いな。


 まあでも、当人たちが喜んでいるのならいいか。


 攻撃魔法の練習もしたいが、まだ力加減がわからない。

 アリエルとペールに無駄な怪我はさせたくない。


 だがこれでわかった。

 俺はデルス魔王で、そのすべてを受け継いでいる。


 勇者以外に負けることはないし、大国を創ればそれすらも不可能だろう。


 これなら、できる。

 やることはいっぱいだ。領地拡大をするには配下も増やす必要がある。


 なんだか楽しくなってきたな。

 さて、頑張るぞ。


「早く人間たちを皆殺しにしたいですね、ペール!」

「そうねえアリエル、この手でぐちゃぐちゃに引きちぎりたいわ」


 あーでも、まずは道徳を教える学校を作らないとな。


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