第14話 海の民の神秘

 実家への帰省からしばらくが経過して、季節はすっかり夏になりましたあ。最近はアルブル村のお手伝いの合間にも、他種族の住む所の情報を集めていて、遠くから来た人から身近な人まで、マリーン族の住む所の情報を集めていましたあ。


「マリーン族か……それなら、あそこの入り江で海水浴してたらたまたま出会って、素敵な歌声も聴いたんだよ」

「貴重なお話、ありがとうございますう!」


「これがマリーン族の姿を描いた絵だ」

「すごいな、下半身が魚みたいだ。エイリークの本にはまた世話になっちまったな」


 いつものようにお仕事を終えると、自宅に帰ってお互い向き合い、メモ帳を見せ合いましたあ。


「これが、今度行く事になるマリーン族達の暮らす入り江に関する話ですう」

「俺もエイリークから色々聞いたんだぞ。南の入り江にはマリーン族が沢山暮らしているってな」


 わたしとシビルちゃんは、仕事や勉強の合間に、先日お話していた色々な種族と交流して知見を広めるための旅に出る前に、それぞれ情報集めをしていましたあ。


「出発は今度のお休みの日ですう。それまでに色々準備しましょうねえ」

「ああ、そうだな。海へ行くんだったら持っていくものもあるんだしな」


 わたし達はマリーン族に会いに行くための準備を進め、時にはあるものを買うために遠くにも行ったりしましたあ。そうこうしているうちに、次のお休みの日が近付いて来ましたあ。


   * * * * * * *


 こうして迎えた出発の日、わたし達は南の方角へと飛んで行きましたあ。


「海が見えて来ましたよお!」

「朝日に照らされてキラキラしている……そういえば、グラスも飛んでる間は羽から雪の結晶みたいなのを撒き散らしているよな」

「これは飛ぶ時に生じる魔力の余剰を放出しているのですよお。触ってもほんのり冷たい程度なので環境にも優しいんですう」


 そんな話をしている内に入り江に着いたわたし達は、早速用意していた水着に着替えてきましたあ。


「アルブル村から少し離れた所で買った水着なのですう」

「そうなのか。まあ着心地は悪くないな」


 わたしが着ているのは水色の水着で、シビルちゃんはちょっぴり大きめの海水パンツを穿いて、胸と足首には包帯を巻いていますう。


「昔より傷は良くなってるけど、やっぱこれ巻いてないと落ち着かないからな」

「さてシビルちゃん、今日ここに来た理由を分かっているでしょうかあ」

「ああ、その、マリーン族とやらに会ってその人の暮らしを見たり聞いたりして、困ってる事があれば俺達で手助けする。だよな」

「その通りですう。それとせっかく海辺に来たのですから、海水浴も楽しんでみますう!」

「久々に泳いでみたい気分だったしな!」


 シビルちゃんが泳いでいるのを眺めながら、わたしは足首まで海水に浸っていましたあ。わたしの羽には氷の魔力が充満していて、その羽を水に入れたら、水が一気に冷えてしまうのですう。まだこの羽が生える前はお母さんと一緒に泳いでいた事もありましたが、今はこの羽のチカラのため誰かと一緒に泳いだり、ましてや沢山の命にあふれる海にそのまま入るわけにはいかないのですう。


「何か、見つかりましたかあ?」

「あっちの方から、綺麗な歌が聞こえてくる」

「歌……ですかあ……」


 二人で耳をすませると、確かに歌のようなのが聞こえてきましたあ。


「ちょっと上から見に行かないか!」

「そうですねえ!」


 わたしは、海に浮かぶシビルちゃんを抱きかかえると、歌声の方へ飛んでみましたあ。


 ラララ……ラララ……♪


 歌声の方へ飛ぶと、そこには5人の女性と思わしき人達が歌を歌っていましたあ。


「あ……この人達こそが……」

「マリーン族だな。グラス、ここで下ろしてくれるか?」

「はいですう」


 わたしは水面近くまで高度を下げると、シビルちゃんを水面に下ろしてマリーン族達に会わせてあげましたあ。すると、わたし達に気付いた緑色の髪のマリーン族の一人がこちらを向きましたあ。


「あら、お客さん?それもドラゴンさんと人間さんとは珍しいわね」

「初めましてえ。グラスといいますう。こっちはシビルですう」

「お前達がマリーン族か?歌に誘われて来てみたぞ」

「嬉しいですわ。私はペルルと申します。こちらの4人は歌い合う仲間達ですわ」

「「「「ようこそいらっしゃいました〜♪」」」」


 緑色の髪のマリーン族はペルルといいますう。彼女達は水面に浮いている間は耳がヒレ状になっている以外は人間と対して変わりませんが、腰から下は尾びれになっていて水場で暮らすのに適した身体になっていますう。


「グラスとシビルですね。私達の歌に誘われて来てくれたのですね」

「そうですう。綺麗な歌声ですねえ」

「その歌を、また聴かせてくれるか?」

「嬉しいですわ。では、そこで浮いているドラゴンさんにも落ち着いて聴いてもらえるようにあちらの岩場に案内しますわ」

「ありがとうございますう」


 わたしとシビルちゃんはペルルさんの案内に従い、ちょうどいい岩場に来ましたあ。その場で浮いているのも大変ですからねえ。わたしとシビルちゃんは、座るのに適した岩に座り、マリーン族達は色とりどりな尾びれを見せるように岩に座りましたあ。


「それでは今から先程の歌をよく聴こえるように歌って差し上げますわ」

「よろしくお願いしますう」


 ペルル達は歌を歌い始めましたあ。


 ラララ……ラララ……♪


 遠くから聴こえてきた歌声も素敵でしたが、歌っている相手が目の前にいる中で聴くと、とても綺麗に伝わって来ますう。


「みんな、とっても歌が上手ですう!」

「アルブル村の人達にも聴かせてみたいな」


 わたしとシビルちゃんはマリーン族の歌声の素晴らしさに拍手しましたあ。


「ありがとうございますわ!私達はこの身体であるが故に陸に上がる事は出来ませんが、こうしてみんなで集まって歌って、誰かの心を癒やす事が一族の喜びなのですわ」

「そうなのですねえ。わたしはこの翼で色々な所に飛べますが、わたしが水に入っちゃうと水が冷たくなっちゃうからちょっとうらやましいですう」

「うらやましいですか……ですが、これも生きるために一族が選んだ道ですから、それを誇りにしているのですわ」

「そうなのか。海での暮らしってどんな感じだ?」

「私達の居住はさほど深くない海底にありますわ。みんなの暮らしを豊かにしたり海の秩序を守るために、マリーン族は頑張っていますもの」

「海底にあるのか……さすがに俺じゃ入れないし、グラスが入ったら海が冷えちゃうしな……」


 すると、ペルルさんの後ろから何かが近付いて来ましたあ。


ザパアッ!


 それはマリーン族の男性で、背中には立派な槍を背負っていましたあ。


「ペルル殿、一大事です!」

「あら、ベルウさん、どうしました?」

「また意地悪なサメ達が群れをなして近付いて来ました!」

「……分かりましたわ。グラスさん、シビルさん、緊急事態なので、ここでおいとましますわ、ごきげんよう!」

「「「「ペルル様、私達も行きますわ〜♪」」」」


 ペルルさんとベルウさん、そして歌仲間達は向こうの方へ急いで泳いで行きましたあ。


「何だか良くない事が起こっているみたいですう……」

「おめおめ放って置けるかよ。行こうぜグラス」

「はいですう!」


 わたしはシビルちゃんを抱え、ペルルさん達を追いかけましたあ。一体この海で何が起きているのでしょうかあ……もし大変な事件なら、わたしのチカラで解決出来る事なのでしょうかあ……!


「ペルルさん、わたし達も行きますう!」


 第15話へ続く。

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