第12話 月に照らされて

 厳しい寒さの冬が過ぎ去り、アルブル村にも、暖かい春がやって来ましたあ。わたしはシビルちゃんとエイリーク君と一緒に森の中でお弁当を食べていましたあ。


「今日のお弁当、美味しいでしょうかあ?煮物も工夫してみたんですよお」

「ああ、美味い。グラスが作るのは何でも美味い」

「この間母ちゃんがグラスの料理食べたら、すごく参考になるとか言って、あの日以来毎日のように料理が美味しくなったんだ!今日の弁当もすっげー美味いぜ!」

「それはとても嬉しいですう!また色々教えてあげたいですう」

「あとこの前の俺の風邪を治してくれたグリューヴルムとかいう奴、あれから沢山薬を作ってるみたいだな」

「グリューさんからも依頼を受けていて、山岳地帯の薬草を採って欲しいと良くお願いされますう。おかげで、アルブル村の薬はよく効くと遠くの街からもお客さんが来てるみたいですう」

「もし今度俺が風邪こじらせたら、シビルを治したあの薬を俺も飲んでみたいな!」

「やめておけ……飲んだ直後、一瞬川のようなものが見えた」

「エイリーク君なら、そんなの飲まなくたって、きっと風邪なんか受け付けないかと思いますう」


 昼下がりの陽気が、楽しく語り合うわたし達を優しく照らしていますう。わたしがアルブル村で色々な人達の困り事を解決していく中、シビルちゃんとエイリーク君は一緒に勉強や冒険ごっこで仲良く成長しているみたいですう。


   * * * * * * *


 気が付けば、わたしがこの山にやって来て丁度一年が経過しましたあ。つまり、わたしの誕生日ですう。この日の朝、かばんを肩にかけた郵便配達のドラゴン族がお手紙を持って来てくれましたあ。


「サクスムさんからです」

「お仕事お疲れ様ですう」


 わたしはお手紙を開いて読んでみましたあ。


―――――――――――――――――――――


 サクスムだ。グラスよ、元気にしているか。


 俺とリヴィエールは人助けの日々が今も続いている。アルブル村でのグラスの活躍は俺達の所でも毎日のように聞いてるよ。まさかお前の尻尾の竜毒が人の命を救う事になるとは、古くから前例の無い事象だった。これは我々ドラゴン族の歴史にも残る凄い行いである事は確かだ。今後は俺達の竜毒も研究の対象となるかもしれないな。ともかくお前がドラゴン族の新たな可能性を見せてくれたのは確かだ。グラス・グラキエース。俺はお前を誇りに思う。近い内に、一緒に暮らしている人間の子と一緒に俺達の家に来い。久々に家族で色々語り合いたい気分だからな。いつでも返事待ってるぞ。じゃあな。あとそれから、俺とリヴィエールの鱗で作ったお守りもくれてやる。片方は大切な人に着けてやってくれ。


―――――――――――――――――――――


 封筒の中には、父サクスムの黒い鱗の付いたミサンガと、母リヴィエールの水色の鱗の付いたミサンガが入っていましたあ。


「お父さん、お母さん、いつでも見ててくれるのですねえ……ありがとうございますう……」

「おはようグラス、また変な字ばっかり書いてあるやつ……何見てんだ?」

「お父さんからの手紙ですう。一族の文字で書いてありますう。それと、こういうのも入ってましたよお」


 わたしはシビルちゃんにもミサンガを見せましたあ。


「これ、綺麗だな」

「良かったら、こっちの黒い鱗のをシビルちゃんにあげますう。水色の方はわたしが着けますう」


 わたしは水色のミサンガを左手に着けると、黒いミサンガをシビルちゃんの左手に着けてあげましたあ。


「何かこう、ずっしりした重さがあって、すごいチカラを……感じるな……」

「改めて見ても、綺麗な鱗ですう!これでわたし達はいつでも守られますう!」

「そんなすごいものなのか……まあいいや」


 ひとつ歳を重ねたわたしは、気持ちも新たに人々の役に立つために頑張る事にしたのですう。


   * * * * * * *


 両親からお守りを貰ったわたしとシビルちゃんは、人助けもお勉強も沢山頑張っていきましたあ。やがて、シビルちゃんと初めて出会って丁度一年の月日が経ちましたあ。


「今日の仕事が終わったら、森のあの場所に行きますよお」

「何かあるのか?」

「それはその時のお楽しみですう」


 この日の仕事を終えると、ある場所からあるものを受け取って、シビルちゃんと一緒に森の中の空が開けた場所に行きましたあ。


「もうそろそろ暗くなる時間だが?」

「今日は、シビルちゃんにプレゼントがありますう」

「プレゼント?今日は何の日なんだ?」

「わたしとシビルちゃんが初めて会った日から丁度一年が経った日ですう!これを受け取ってください!」


 わたしは、この日のために仕立て屋さんで作った服を、シビルちゃんに渡しましたあ。


「早速、着替えて欲しいですう」

「あ……ああ……!」


 周りには誰もいないことを確認した後、シビルちゃんはその場で新しい服装に着替えましたあ。白を基調とした女の子らしい可愛らしさと、普段の動きやすさも考えて作ったドレスですう。


「こ、こんな感じでいいか?」

「良いですう!素敵ですう!」

「ああ、着心地も全然悪くない」

「今まで見たシビルちゃんの中でも一番素敵な姿ですう!」


 わたしとシビルちゃんは、月がよく見える森の開けた場所で、去年のあの日と同じように向き合っていましたあ。今のシビルちゃんの姿は、初めて会った時の泥と土に塗れた姿ではなく、わたしが作った白い服を着て、月の光に照らされて、白く美しく輝いていましたあ。


「これからも、お互いが楽しく暮らせるように頑張って欲しいですう。もちろん、わたしも頑張りますう!」

「ああ……お前がいなかったら、俺は今も……この森で寂しい思いをして生き続けたのかもしれねえからな」

「わたしだって、シビルちゃんと会ってなかったら……村のみんなとも上手くいかなかったかもしれないですう!だからこれから何があっても、一緒に楽しく過ごしていきましょうねえ!」

「ああ……俺だって知りたい事がいっぱいあるからな。またエイリークと冒険ごっこして、色々な本を読んで、俺も将来は誰かの役に立つ事がしてみたい!」

「その心意気ですう!あらためまして、これからもよろしくお願いしますう!!!」


 わたしは、新たな決意を抱いたシビルちゃんを抱えて、山の家まで飛んで行きましたあ。家に着いたら、夕飯を食べて、お風呂で温まって、ベッドで眠るシビルちゃんを見て、わたしはひとりこう思いましたあ……。


「初めてシビルちゃんをここに連れてきた時は、泥だらけのまま湧き水に入ったりで大変だったですう……今はこうして過ごす事が出来るのも、わたしが守っているからですう。しかし……シビルちゃんの本当の家族は、まだどこかでシビルちゃんを探しているのでしょうかあ……今の所、アルブル村の住民は誰もこの子の本当の親の行方を知らないみたいですう……でも、もしいたとしたら、この子を帰してあげなくちゃいけない……それまでに、シビルちゃんには沢山の良い思い出を作ってあげなくちゃならないですう」


 わたしも、ベッドで横になり、眠りにつくのでしたあ……。


「ムニャムニャ……グラスの尻尾、触り心地良い……」

「一緒に寝るようになった頃から、いつもこんな調子ですう……ムニャムニャ……」


   * * * * * * *


 やがて、朝を迎えましたあ。


「シビルちゃん、準備は良いですかあ!」

「ああ、やるだけやるよ!」


 わたしとシビルちゃんは、今日もみんなの役に立つために、この大空を飛んで新しい冒険に出発するのでしたあ!


バサァッバサァッ……


 第13話へ続く。

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