第4章 出会いと友情

第13話 一緒に里帰り

 シビルちゃんに、新しい服を作ってあげた日からしばらくの月日が流れ、この日はお仕事がお休みの日ですう。それもわたしは3日も貰えましたあ。


「今日はシビルちゃんの好きな卵焼きを作りましたよお!」

「ああそうか、今日は休みの日なのにやけに気合い入ってるな」

「何故なら今日から3日間、両親の所に里帰り出来るんですからあ!わたしも元気付けていきますう!」


 わたしは一緒に卵焼きを食べて、先日新しく作り直した服装に着替えると、シビルちゃんを抱えて、アルブル村とは反対方向を向きましたあ。


「グラスも、ずいぶん雰囲気変わったな」

「わたしだって去年から成長してるんですよお」


 新しい服装は、いつもの水色のシャツの裾に青いフリルが追加されて、膝上までの長さの紺色ショートズボンを穿いて、青い革靴は足首も覆うブーツタイプに変わり、サイドテールのシュシュにはシビルちゃんの髪飾りに似た大きなリボンが付き、左腕には母リヴィエールの鱗のミサンガが付いていますう。もちろん、シャツの胸元には氷竜のマークも付いてますう。


「しばらく飛びますから、良く掴まってて下さいねえ!!!」

「分かってるよ!!!」


バサァッバサァッ……


   * * * * * * *


 わたし達が向かった先……それは、わたしが生まれた洞窟……お父さんとお母さんの家ですう。一時間かけて、今の家からわたしの生まれ育った家に戻って来ましたあ。


「グラス、ただいま帰って来ましたあ……!」

「グラス!良く来たな!」

「一緒に暮らしている人間とはその人ですね」

「ああそうだが……しばらく邪魔するぞ」


 父のサクスムと母のリヴィエールは、今もこの家で人助けをして、周辺の住民とも仲良くしていますう。


「長旅で疲れてるだろう。グラスの大好物をこれでもかというぐらい用意しておいたぞ」

「久し振りに沢山作っちゃった」

「ありがとうございますう!」

「すげえな、グラスの飯より美味そうじゃん」


 久し振りの母の手料理を食べながら、わたしは両親にこれまでの出来事を沢山お話しましたあ。


「今の家に住み始めてから、山の近隣にあるアルブル村という所で働かせてもらっていますう」

「あの場所は自然豊かだと伝わっているよな」

「お友達のエイリーク君をはじめ、みんな親切で仲良く出来ましたあ」

「騒がしい事件もあんまり起きてないんですよね」

「でもお、しばらくして、不穏な事もありましたあ……」


 わたしは、去年のアルブル村の怪物騒ぎの事をお話しましたあ。


「色々な人が、何者かに襲われて怪我をする事件が多発して、その正体は何かは今も分からないんですう……」

「俺だったら、奴をこの手でとっ捕まえてきついお仕置きをしてやりたい所だな」

「わたしはその正体を知るために、森を探索していたら……今ここにいるシビルちゃんと出会いましてえ……」

「俺も最初は何だか分からなかった。初めて会った時のグラスの顔……不安そうだった……」

「シビルちゃんは全身泥まみれで弱り果てていて、これは怪物なんか見てる場合じゃないって思い、すぐに助け出して一緒に暮らす事になりましたあ……」

「シビルちゃんも長い間大変だったわね……」

「不思議な事に、その日以来、怪物に襲われる事件はパタリと起きなくなりましたあ」

「まさかお前が拾ったシビルってのが怪物そのものだったりしてな」

「……!!」

「お父さん……シビルちゃんは怪物なんかじゃないですよお……」

「ハハ、冗談冗談!軽く流してくれよ」


 わたしは気を取り直してまた話を続けましたあ。


「シビルちゃんは森で食材を集めてくれたり、エイリーク君とも仲良くしていますう。夏祭りの時は一緒にかき氷屋さんもやったんですよお」

「かき氷も作ったのか、今度食べに行きてえな」

「今年の夏祭りでもお店を出すので、今度来てほしいですう」

「時間があれば一緒に行ってみたいわね」

「俺も、あの時はその……楽しかった」


 話はいよいよこの間の冬のシビルちゃんの風邪の話になりましたあ。


「しかし、シビルちゃんは冬に体調を崩してしまい、診察所でも治せる薬が無かったのですがあ……」

「それで、お前の竜毒を薬にしたんだよな」

「はいですう……治す手段がそれしかないと言われて、わたしはこの尻尾に賭けてみたのですう」

「あの薬を飲んだ時、全身に吹雪のような寒さが走って、すっげー苦しんだけど、それを過ぎると風邪が嘘のように鎮まって……」

「あの薬の実用化は見送られましたが、わたしはシビルちゃんが助かって嬉しかったですう……」

「グラスの竜毒が人を活かした話は、ここ最近のドラゴン族の話題になってるぞ」

「他のドラゴンの毒でも薬が出来るか実験も行われたそうだけど、まともな薬が出来た試しは無かったわ」

「そんな訳で、わたしとシビルちゃんは今もこうして、アルブル村で楽しくやっているのですう」


 一通りお話した後、お父さんはこう言いましたあ。


「よし、それじゃあグラスがどれほど強くなったかを、俺が直々に見てやるとしよう。リヴィエール、立ち会いを頼む」

「分かりました。ですが、始めるのは明日の朝、お互い十分な体調の時に行きましょう」


   * * * * * * *


 わたし達はここで一晩過ごして、二日目の朝日を実家から見ましたあ。朝食を食べてから、お母さんがみんなをある場所へと案内しましたあ。


「グラス、サクスム、ついて来なさい」

「はいですう、シビルも一緒ですう」


バサァッバサァッ……


 着いた場所は、見晴らしの良い丘の上ですう。程よく広くて、空気も美味しい所ですう。


「ずいぶん、綺麗な所ですねえ」

「グラスよ、ここで俺とリヴィエールは出会ったんだ」

「昔から、ここはお気に入りの場所だったのよ」

「とても良い所で出会えたんですねえ」

「初めての出会いは最悪だったけどな」

「ああいう奴にこんなあっさり勝てるとは正直思って無かったわ」

「で、ここに来て、何するつもりなんだ?」

「決まってるだろう、グラスのチカラを試す時だ」


 お父さんは、わたしを前にして、決闘の構えを取りましたあ。


「試合は一本勝負。顔の前に尻尾を向けた方の勝ちだ」

「これって……お母さんといつもやってたっていう……決闘なのですねえ……!」

「もちろん、俺も本気で行く。だからグラスも遠慮なく来い。ではリヴィエールよ、合図をくれ」

「分かりました。シビルちゃんもしっかり見守っててね」

「ああ、分かってるよ」


 わたしと父サクスムは、この丘の上で向き合いましたあ。


「何だかこうしてグラスを見てると、初めてリヴィエールに会った日の事を思い出しちゃうな」

「わたしも、改めてこう見るとお父さんは大きいんだなって思いますう」

「今まで学んだ事を見せてくれ。言いたい事はそれだけだ、行くぞ」

「では、二人共…………はじめ!!!」


ゴォッ!!!


 サクスムはすごい迫力でわたしに迫りましたあ。


「キャッ!」

「さあいきなり本気で行くぞ!」


 サクスムの勢いを例えるなら、巨大な岩が意思を持って襲いかかってくるような感じですう。わたしはその勢いに押されそうになりましたあ……!


「無理に押し返しちゃ駄目ですう……こんな時にお母さんだったらどう対処していたんでしょうかあ……」


 戦士の顔となったサクスムを前に防戦一方のわたしを見ても、リヴィエールは真剣に戦いを見ていますう。


「思えばこの状態のサクスムとはやり合った事は無かった……今のサクスムは単調なだけじゃ無くなってる……どうするの、グラス……!」

「すげえ迫力……だが、確かに攻めるチャンスはあるはずだ……!」


 わたしはサクスムの攻撃を何度もかわしながら、隙を見つけようとしましたあ……!


「そろそろ決めさせてもらうぞ!!!」

「あっ……!!!」


 サクスムの拳が迫りますう……わたしは……!


「えいいっ!!!」


バシッ……!


 咄嗟に拳を避けながら脚払いをして、サクスムを転ばせましたあ……!


「うおおおっ!」


ドサッ!!!


 そして……!


シャキッ!


 わたしは、サクスムの顔の前に、青い尻尾から生えた黄色い棘の先を向けましたあ。


「これで、わたしの勝ちですう……!」

「良くやったな、グラスよ……!」


 わたしは、満足の表情を浮かべるサクスムの手を引いて、立ち上がらせましたあ。


「とても、良い勝負でしたあ……」

「妻にも負け続けて、とうとう娘にも負けるとは……だが、とても嬉しいぞ」

「これからも、ここで教わった事を大切にして、沢山の人達の役に立って見せますう!」

「それでこそ俺達の子だ。その強さで、自分が正しいと思う事を続けてみせろ。それが願いだ」


 その様子を、シビルちゃんとお母さんも見ていましたあ。


「グラスも、サクスムも、かっこよかったわよ」

「これならどんな困難でも乗り越えられそうだな」

「さて、帰ったらまた昔のように鍛えてあげないとな」

「サクスムの事をね」

「ぎゃふん……」

「今日は楽しかったですう」


   * * * * * * *


 楽しかった3日間はあっという間に過ぎ去り、わたしはシビルと一緒に実家を後にしましたあ。


「また来てくれよ!」

「シビルちゃんの事も守ってあげてね!」

「楽しかったぞ」

「では、行ってきますう!」


バサァッバサァッ……


 山の自宅への帰り道で、わたしはシビルちゃんに思いついた事を話しましたあ。


「シビルちゃん、今度また長い休みを貰ったら、色々な所へ行って、色々な種族と出会ってその生き方に触れて、沢山の事を勉強してみたいんですう」

「色々な所って、どこだ?」

「マリーン族が住んでいる海辺や、ビースト族が暮らす森、あと、バード族が暮らす山にも行ってみたいですう」

「それなら、村の仕事のついでに情報集めてみたらどうだ?俺もエイリークから何か良い話無いか聞いてみるからよ」

「そうですねえ。これからも一緒に頑張りましょうねえ」


 これから新しい出会いや冒険が待っているかと思うと、とてもワクワクしますう。わたしとシビルちゃんは、新たな目標に向かって、さらに羽ばたいていきましたあ。


 第14話へ続く。

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