第6章 氷竜のチカラ
第22話 チカラの使い道
シビルちゃんが過去に決着をつけた日から、さらに5年経って、わたしは24歳に、シビルちゃんは15歳になりましたあ。
「ふわぁ……おはようございますう、シビルちゃん」
「もう、ちゃん付けはやめてくれないか、俺はいつまでもガキじゃねーんだ」
「そ、そうでしたねえ……わたしの身体も、あれから大きくなっちゃいましたあ」
わたしの翼と尻尾も、前より大きく太くなり、シビルの体格も初めて会った時とは全然違うものになっていましたあ。
「ほら、グラスの分も作っておいた。良く味わって食べな」
「ありがとうございますう♪」
最近のシビルは、朝早く起きて朝食を作ってくれるのでとても頼もしいですう。
「どうだ、美味いか?」
「とても美味しいですう!もうこれならいつお嫁さんに行っても恥ずかしくないですねえ!」
「てっ、テメー!からかってるのか!?」
「えへへえ……でもおかげで毎日が楽しいですう」
「ん……まあ、そうだな……」
わたしがアルブル村に来るようになってから、9年の歳月が流れましたあ。この9年の間に色々な出来事があって、わたしとシビルはここまで大きくなる事が出来ましたあ……しかし……。
「シビルはいつか人間の世界に戻らなくちゃいけない……この話をいつするべきなのでしょうかあ……」
振り返って見れば、泥だらけだったこの子を保護してから、ゆくゆくは人間社会に戻すつもりだったのですがあ、本当の家族は既に殺され、殺した犯人も自ら組織もろとも破滅しましたあ。
「じゃあ、シビルはアルブル村で暮らすべきなのでしょうかあ……」
「何ブツブツ言ってんだ?」
「な、何でも無いですう……!」
気が付けば、いつも横にはシビルがいて、何かとわたしの尻尾を握っている……そんな毎日が当たり前のものになっていたのでしたあ。
「そういえばシビルって、子供の頃からいつもわたしの尻尾を何かと握ってきますよねえ」
「触ってると、ひんやりしてて落ち着くから」
「わたしも、シビルの手から伝わる熱が心地良く感じられますう」
シビルの幼い頃から、このクセは長く続いていましたあ。いつでもどこでも、隙があれば、わたしの尻尾を何かと掴んでいたのでしたあ。
「さて、今日も俺とグラスの仕事の時間が来たな」
「今日も頑張っていきますよお!」
今日の仕事の依頼は、診察所のグリューさんからですう。高い所と低い所に生える、二種類の薬草を回収して欲しいという依頼で、高い所の薬草はわたしが、低い所の薬草はシビルが取りに行く事になりましたあ。
「わたし、上に飛んで行きますので、シビルは足下の薬草をお願いしますう!」
「ああ!任せとけ!」
わたしとシビルの分担作業が始まりましたあ。いつもわたしがやっている仕事を、今はシビルも手伝っている……何だか大きな成長を見ていますう。
「よし、こんなものでいいだろう」
「それじゃあ、すぐにグリューさんに届けますう!」
首尾よく薬草を回収して、診察所の優秀な医者となったグリューさんに渡しに行きましたあ。
「わあぁ〜〜〜!こんなに沢山の薬草を、どうもありがとねぇ〜!」
「あの時お前に救われた命、無駄にはしねぇよ」
「これからも沢山の人を元気にして欲しいですう」
「いつも頼りにしてるよ〜〜〜♪」
グリューさんは相変わらず、嬉しくなるとスカートの中が明るく光りますう。
「さて、エイリーク君の所に行きましょうかあ」
「ああ、昨日何か話があるって言ってたしな」
いつもの仕事が一段落したら、決まってエイリーク君の所に遊びに行きますう。
「こんにちはですう」
「よお、エイリーク」
「グラスとシビル、今日も良く来たな」
エイリーク君も、今は立派な男性の体格に育ってて、まさに未来の冒険家の風格がただよっていますう。幼い頃いつもやっていた冒険ごっこは、ついこの間卒業して、今は本格的な冒険者を目指しての勉強を毎日頑張っているみたいですう。
「なあシビル、今年ももうすぐ夏祭りがやって来るな」
「ああ、毎年グラスがかき氷やってるやつか」
「今度、俺とシビルで、花火の打ち上げのお手伝いに行ってみないか?」
「あ、ああ、別にいいけどよ……」
「シビルもここ近年は色々な所のお手伝いに行ってましたねえ」
初めて一緒にかき氷を食べさせた日の事は、今もちゃんと覚えていますう。そのシビルが今や色々な所を手伝うのは嬉しいけど、わたしとしては一抹の寂しさも感じますう。
「そういう事だからグラス、今年も一人でかき氷出来るか?」
「はいですう。シビルはお仕事終わった後、いつもこっちに食べに行きますからねえ」
「色々な事を覚えるのも、冒険家の鉄則だからな!」
とまあ、なんやかんやで、また夏祭りの日が近付いて来ましたあ。
* * * * * * *
夏祭りの日。わたしとシビルが出会ってから9回目の夏祭りですう。
「そろそろ花火が打ち上がる時間ですう……シビル、エイリーク、頑張ってくださいい……」
所変わって、アルブル村から少し離れた所。
「よお二人共!オレがこの花火を盛り上げる炎のドラゴン、ヒフキ・カコウガンだ!」
俺とエイリークの前には、太く上に伸びた角が生え、紫の翼と尻尾の付いた、いかにも暑苦しそうな風格のドラゴン族がいた。普段は鍛冶屋などの高温に晒される仕事の手伝いなどをしてて、この花火も毎年彼が打ち上げているという。
「よ、よろしく……」
「毎年打ち上げてるって聞いてるけど、現場も、打ち上げているヌシも近くで見るとめっちゃカッコイイな!」
「キミ達がやるのは、ここに並んでいる発射筒に花火を装填したら、オレが火を吹き着火して打ち上げるだけの、簡単な仕事だ」
「よーし!俺とシビルと、ヒフキさんで、花火を沢山打ち上げようぜ!!!」
「すっかり打ち解けてるな……」
打ち上げの時間になると、俺とエイリークは発射筒に花火を装填した。
「フッ!!!」
ジュッ……!
そこにヒフキは軽く火を吹いて導火線に着火した。
ドンッ!!!
ヒュ〜〜〜……ドドーーーーーーン!!!
派手に打ち上がり、夜空に大輪の花を咲かせる。グラス達にも見えている事だろう。
「さあ、どんどん打ち上げるぞ!」
「オマエら、もっと激しく、熱くなれよおおお!!!」
「このテンションに追い付けねえ……」
エイリークとヒフキの暑苦しさに圧倒されながらも、俺は俺のやれる事をこなして見せた。
ヒュ〜〜〜……ドドバーーーーン!!!!!!
「今年の花火、何だかいつもより力強いですう」
そんなわけで、俺達は花火を打ち上げ終えると、仕事の打ち上げに、グラスのかき氷屋に戻って来た。
「ただいま」
「お帰りなさいですう!」
「楽しく仕事してきたぜ!」
「オマエが噂の氷竜グラスか!」
シビルとエイリークと一緒に、炎のチカラを感じるドラゴン族の男性も来ていましたあ。
「このドラゴン族は、ヒフキって言うんだ!」
「近くにいるだけで暑いけど、エイリークも一緒だとめっちゃ暑苦しい……」
「そ、そうなのですねえ……」
「グラスさん!とびきりキンキンに冷えた奴を頼むぜ!」
早速ヒフキさんはわたしに注文してきましたあ。
「はーい、わかりましたあ」
わたしはヒフキさんにかき氷をひとつ作ると、わたしの魔力を注いでさらに凍らせましたあ。
「ありがとよ!普通のかき氷じゃ、オレの場合すぐ溶けちゃうからよ!」
「どうぞ召し上がれえ」
シビルとエイリーク達にもかき氷を作って、みんなでパーティーを楽しみましたあ。
「美味え!かき氷ってこんなに美味いんだな!」
「喜んでくれて良かったですう」
「オレもグラスも、チカラの使い道を分かっているからこそ、こんな風に沢山の種族を喜ばせる事が出来るんだよな!」
「そ、そうですねえ……」
「全てはだいぶ昔の鉱山事故から沢山の人を救ったサクスムとリヴィエールから始まったもんな!」
「こ、こんな事言うのも何ですが、わたしが実は……!」
「分かった分かった、皆まで言うな!種族関係無く出自はどうであれ、そのチカラを役立ててこそ素晴らしい存在だってな!!!」
「あ、あはは……ですう」
ヒフキさんと語り合うわたしの隣で、シビルとエイリークも何かを話していますう。
「実は俺、今度の冬に、初めての本気の冒険をしようと思うんだ」
「そうなのか」
「そこで……もしお前が良いと言うのなら、シビルにも一緒に来てくれないか?」
「……行くよ。何だかんだ言って、俺達付き合い長いだろ?」
「ああ、忘れて無いぜ、連れションしようとしたらお前が女の子だったって事」
「まだそんな事覚えてたのかよ……ハァ……あの時俺だって何やってたんだか……!」
「とにかく、今度の冬、一緒に冒険行こうぜ。今までの冒険ごっこじゃない、本気の冒険をな!」
「ああ、この冒険を成功させて、グラスにも立派になった所を見せてやろうじゃないか!」
遠くから、誰かがその様子を見つめている。
「あれがグラスセンパイとそのお友達……ふふ、会うのが楽しみだわ……!」
第23話へ続く。
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