第21話 俺はこれからどう生きる

 わたしとシビルちゃんがヴェーチェルさんの案内で、廃墟の村に来て色々調べて、シビルちゃんは昔ここで暮らしていたら故郷も家族も仮面を着けた恐ろしい人達に滅ぼされて、森の中を一人ぼっちで彷徨い、わたしと出会って救われたと知った次の日の朝。


「シビルちゃん、準備は良いですかあ?」

「ああ、出来てるよ」


 わたしとシビルちゃんは、アルブル村の代表者さんに、四年前の怪物騒動の真相をお話しに行きましたあ。


「……と、いうわけだったんですう……」

「あの時、村の住民を引っ掻いたりして、ごめんなさい」


 すると、代表者さんは……。


「そうか、あんな辛い思いをしたシビル君をグラスは助けていたという事なんだな。事件の真相も分かって本当に安心した。この件は村のみんなにもちゃんと正しく伝えておく。二人共、これから先もアルブル村のために頑張ってくれ」


「あ、ありがとうございますう!」

「あ、ああ!俺も出来る事は何でもやる!」


 後日、例の怪物騒動の真相は村中に広まり、故郷を壊され、一人ぼっちだったシビルをグラスが助けてくれたという認識となり、誰もシビルを悪く言う人はいませんでしたあ。中には俺がシビルに代わって故郷を滅ぼした奴らを叩きのめしたいと言う人もいましたあ。


「さて、今日は久しぶりにエイリーク君と遊びに行きましょうかあ」

「そうだな、また会いたくなったしな」


 そんなわけで、わたしとシビルちゃんは、エイリーク君と一緒に冒険ごっこへ行って目的地に着くと、みんなでお弁当を食べましたあ。


「聞いたぜ、シビルの本当の事を」

「エイリーク……こんな俺でもまだ友達でいてくれるか?」

「当たり前だろ!俺とシビルとグラスは、何度も冒険ごっこをした仲だ!過去に何があったかなんて関係無えよ!」

「お前も優しいんだな、天国にいる俺の本当の両親にも会わせてやりたいよな」

「ああ、その時は言ってやるよ!シビルさんを俺の冒険メンバーに入れてあげて下さいって!」

「きっと納得してくれると思いますよお」

「ったく、グラスって奴は……」

「アハハハハ……やっぱりみんな最高の仲間達だな!」


 その後も、わたしとシビルちゃんは、いつもと変らない日常を続ける事が出来ましたあ。


   * * * * * * *


 それからしばらく経って、わたしとシビルちゃんは、両親、サクスムとリヴィエールの住む実家へと帰って来ましたあ。


「グラスか!今年は例年より早い帰りだな!」

「シビルちゃんの件、私も聞きましたよ」


 いつものようにお父さんとお母さんが出迎えてくれましたあ。わたし達は家の中で、先日の件を改めてお話しましたあ。


「シビルの故郷を襲い、家族も殺した連中、俺の所にも噂は流れていたな」

「人間だけが暮らす所ばかりを襲っていたみたいね」

「あんなのが今もいたら大変ですう……」

「もし俺にチカラがあれば、アイツラの事をぶっ潰してやりてえ……!」

「だが、ある日を境に急にバッタリ噂が途絶えたな。まるでグラスがシビルを助けた後の怪物騒動のようにな」

「はあ……あの時の冗談、わたしも本当だったとは思わなかったですう……」

「正直、俺だって驚いたさ、初めてリヴィエールに分からされた時以上にな」

「嘘から出たまことだなんて、よく言ったものね」


バサアバサアッ!!!


 すると、聞き覚えのある羽音が聞こえてきましたあ。


「あの日以来だな、グラス、シビルよ」

「ヴェーチェルさん、お久しぶりですう!」


 すると、サクスムがヴェーチェルさんを見るなり表情を変えて言いましたあ。


「おっ、お前が噂に聞くグラスの彼氏か!?お前のような奴には容易く娘は渡さんぞ!くうっ!この言葉、一度言ってみたかったもんだ!」

「サクスム、ヴェーチェルはバード族なのよ、どう足掻いても友達止まりよ」

「そ、そういえばそうだったな……」

「アハハ……ですう……」

「お前ら……」


 一連のやり取りに呆れた顔をするシビルちゃんでしたが、ヴェーチェルさんが来た理由は他では無いのですう。


「まず、これを見てほしい」


 ヴェーチェルさんは、袋から何かを取り出しましたあ。それは、仮面のようなものでしたあ。


「……!……これは……間違いねえ……!!」


 シビルちゃんの表情が途端に険しくなりましたあ。


「シビルちゃん、これを知っているのですかあ?」

「ああ忘れる訳がねえ、この仮面は俺の両親を潰した奴の着けていた仮面だ」


 すると、ヴェーチェルさんがこう言いましたあ。


「皆、一旦落ち着いて聞いて欲しい。あの後あの森を改めて探索していたら、彼らのアジトと思わしき所が地下にあったのを発見した」

「えっ……!?」

「だが、そこも既に廃墟になっていて、白骨とこの仮面が散乱していた」

「なんだと……?」

「さらに調べた結果、こんなものも出て来た」


 ヴェーチェルさんは汚れたノートを取り出しましたあ。


「字が汚かったから、なんとか目を凝らして読んでみたら、思わぬ事が書かれていた。シビルの母の最後の日記の次の日……4月22日にはこう書いてあった」


 ヴェーチェルさんは、淡々と読みましたあ。


「今日も人間の集落を襲った。子供が一人逃げたが、長くは持たないだろう……」

「舐めやがって……」

「もうこんな日々は厭だ、どうせならここにいる奴らを、明日全員巻き添えにして滅んでやる」

「えっ……?」

「ふむ、どうやらメンバーの中に、こんな風に人を襲う毎日に嫌気が差した人がいたようだ……」


「えっ……!?」


 さらにヴェーチェルさんは語りますう。


「そして次の日に、あの日記を書いた本人が謀反を起こし、アジト内の組織が一人残らず壊滅するほどの結果になったのではないかと思われる」


「なんだって……?」


「その後、回収したこの仮面を持って色々な人に見せて、こういうのが暴れた事件はあったかと聞くと、誰もそんな事件は最近無いと言った」


「じゃあ、ここから導き出される答えはあ……」


 ヴェーチェルさんは静かに息つくと、こう言いましたあ。


「シビルの両親の仇は、もうこの世にいない」


「…………そうなんだ…………」


 シビルの表情は、呆気ない事態に驚きを隠し切れませんでしたあ。つまり、彼らに復讐する理由は、どこにも無いと言う事ですう。


「シビルよ、最後に君に頼みがある」

「何だ……」

「これが両親と村のみんなの敵討ちになるかは分からないが、どうかお前の手で、この仮面を叩き割って、全てを終わりにしてくれないか」


 ヴェーチェルさんは、シビルちゃんに例の仮面を渡しましたあ。


「……ああ……分かった……やってやるよ……お前ら、ちょっと離れてろ……」


 わたし達がシビルちゃんから距離を取ると、シビルちゃんは実家の壁に仮面を貼り付けて……!!!



「うああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」



ダァアーーーーーーーーーーンッ!!!!!!



 シビルちゃんの拳は汚れた仮面を粉々に叩き割りましたあ……。


「シビルちゃん……」

「この小娘、妻より怖い……」

「後は私がお掃除しておきますね」


「…………とうさん……かあさん…………」


 シビルちゃんの瞳には、沢山の涙が溢れていましたあ……。


   * * * * * * *


 帰宅後、わたしはシビルちゃんにあるものを見せられましたあ。


「……あの時、廃墟になった俺の家から手に入れた箱を開けてみる」

「そ、そういえばまだ、中身見てませんねえ……」


 シビルちゃんは、箱を開けてみましたあ。


「あ……これ……」


 箱の中には、『dear Silvia』と書かれた鞄を肩にかけたテディベアのぬいぐるみが入っていましたあ。すると、その小さな鞄の中から……。


♪〜〜〜♪♪〜〜〜〜♪〜♪〜♪〜〜〜〜


 素敵なオルゴールのメロディが流れてきましたあ……きっと、この子の両親の愛情が込められていると思いますう……これからも、強く生きてって、このオルゴールから伝えてくれている気がしますう……。


 シビルちゃん、いや、シルビアちゃんは、涙を流しながらオルゴールを聴いていましたあ……。


「俺……わたし……ぼく……いや、やっぱり俺、これからもみんなのために生きてやるよ……!!!」

「そうなのですねえ……」

「でも、俺の事は、これからもシビルと呼んでくれるか?何だかんだ言ってこっちの方がしっくり来るし」

「そうなのですねえ、これからもよろしくですう、シビルちゃん」

「ああ、これからもよろしくな、氷竜グラス」


 オルゴールのメロディに心癒されながら、わたしとシビルちゃんは癒やしのひとときを過ごしていましたあ。シビルちゃんの出自と境遇は分かったけど、まだまだこの子にはわたしが必要な気がしますう。わたしも認めるほど立派に育ったら、その時こそ『シビル』の名を捨て『シルビア』と名乗って人間社会に戻る時だと思いますう。わたしだって、立派なドラゴンになるために、これからも頑張りますう!


 第22話へ続く。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る