第5話 森の怪物のウワサ

 グラスですう。わたしがアルブル村の人達を手伝うようになって数日が経過しましたあ。色々な仕事を節操なくこなしているけど、それなりに上手くいってる感じですう。今日も朝ご飯を食べて元気を付けたら、みんなのお手伝いに行って来ますう!


   * * * * * * *


 いつものように、アルブル村に来ると、何だか様子がおかしいですう……


「こいつはまずい」

「ヤバイ奴が出たな」

「こんな傷見た事無い……」


「何だか、騒ぎがおきているみたいですねえ」


 わたしが人混みを見てみると、そこには村民が一人傷を負って手当を受けてましたあ。彼はこの村で木こりをしているみたいですう。腕には、獣に引っかかれたような傷跡が縦に付けられていましたあ……


「一体、誰の仕業なのでしょうかあ……」

「おお、グラスか。君も大丈夫か?」

「は、はいですう……」

「これは相当厄介な奴がこの辺りに潜んでいるみたいだな。君もドラゴン族といえども気を付けるがいい……」


 最初にアルブル村を案内してくれた人がわたしを心配してくれましたあ……。


「今日もみんなを手伝ってみせますう……」


 わたしはいつものように村の仕事を手伝うのですが、みんな表情が暗くて何だかわたしまで落ち込みそうですう……。


「こんな時こそ、気分転換は必要ですう!」


 一通り仕事を終えると、帰る前にエイリーク君の所に遊びに行きましたあ。


「一緒に、冒険ごっこしませんかあ?」

「おおっ!グラス!一緒に行こうぜ!」


 仕事の合間にエイリーク君の冒険ごっこに付き合ってあげるのもわたしの楽しみのひとつなんですう。


「今日は俺が昨日見た切り株まで行こうぜ」

「切り株ですかあ……どんな形でしょうねえ」


 村の近くの森を歩くわたしとエイリーク君。彼の右手には木で出来た剣が握られてますう。


「その木の剣、どこで手に入れましたかあ?」

「俺が拾った木の枝を削って作ったんだ。いつか本物を使う時までこれで訓練してる」

「エイリーク君、すごいですう」


 感心しているうちに、切り株の所に辿り着きましたあ。


「今日の冒険、成功!」

「え、これでいいんですかあ?」

「この後は辺りを見回して何かがあればそこを次の冒険の目的地にするんだ」

「そうなのですねえ……って、あれ?」


 わたしは切り株を見ると、何かが断面に付着しているのに気が付きましたあ。


「こ、これって、泥ですよねえ……」

「あっ!本当だ!俺が昨日見た時はこんなの付いてなかったぞ!」

「最近は怖い何者かの噂も聞きますし、どうかエイリーク君も気を付けて下さいねえ」

「冒険は昼間だけだから大丈夫だって!」

「とても、勇敢なのですねえ」

「明日の目的地はあの岩だ!さあ帰ろう!」


 エイリーク君の度胸、わたしも見習いたいなと思いましたあ。わたしもエイリーク君が家に帰った後で山に帰りましたあ。


   * * * * * * *


 次の日も、また次の日も、何者かによる引っ掻き傷を受けた人が診察所に運ばれて来て今日は村民だけでなく夜の森を通りかかった行商人までもが被害を受け、彼もまた診察所で治療を受けていましたあ……


「治るといいですねえ……」


 わたしが患者さんの様子を見ていると横から話しかけてくる人がいましたあ。


「おや、君がグラス君か」

「あなたは、確か……」

「先日腕に傷を負った木こりだよ。この通り、仕事に戻れるのはまだ先だけどね」

「一体何に襲われたのでしょうかあ」


 わたしが聞くと、彼はこう言いましたあ。


「夜になるまで仕事してたら、急に目の前に何かが現れて、ランプの光で少し姿が見えたがそいつは、恐ろしい目つきでこちらを睨んでて全身が真っ黒で傷らしきものが紅く光ってた。目を見た瞬間、奴は叫びながら襲って来た。私は傷を負うも、命からがら逃げてきたよ」

「そうだったのですねえ……」

「これじゃあ森で仕事する人達が不安でしょうがねえ。誰か勇敢な戦士が現れて奴を退治してくれないものかねえ……」


 その話にはある程度の誇張もあったような気がしましたが、良い手がかりとして覚えておく事にしましたあ。それにしても退治……ですかあ……わたしの竜毒を刺せば一撃で仕留められると思いますが、それは本当に正しい事なのかどうか……わたしには、まだ分からないですう……。でも今はお手伝いに集中する時ですう!


   * * * * * * *


 ……今日は、思っていたより作業が長引いてエイリーク君との冒険ごっこも出来なくなる程辺りは暗くなってしまいましたあ……。


「こんな時間までご苦労様だ。例の怪物は興味本位でも会おうと思うなよ」

「は、はいですう……」


 わたしはアルブル村で夕飯を済ませた後で出発して、森の中を歩きましたあ。連日の疲れが重なって、もう飛ぶ元気もあと10分程しか持たないぐらいだったので体力の消耗を抑えるためにも、徒歩でわたしの家がある山の真下まで行ってから、少し飛んで帰ろうと思っていましたあ。


「それにしても、人を襲う怪物ってどんな感じなのでしょうかあ……ちょっとだけ姿を見てみたい気もありますう……」


 わたしは気を付けながらも森を歩いていましたあ。もし会ったなら逃げるつもりで。でも昔、お母さんから『好奇心は竜をも斃す』という話を聞いた事があって、本当にそれで酷い目に遭ったドラゴン族もいるのかどうか、この時のわたしには分からなかったんですう。


「今夜は満月で、森の中でも明るいですう」


 月明かりのおかげで明るすぎず暗すぎずの中問題なく歩く事が出来ましたが……


ガサッ!


 ふいに周りの茂みが揺れましたあ。


「え、何、何かいるんですかあ!?」


 わたしは辺りを警戒しましたあ。


ガサッ!ガサッ!


 周りの茂みは音を立てて揺れる、揺れる。そして、わたしの目の前の茂みから……


ガサガサガサガサ……


「目の前……ひゃあっ!!!」



ガサァッ!!!



 目の前に、何者かが現れましたあ。その姿は、満月に照らされ姿が見えましたあ。


「あっ、これって……人間の子供……?」


 泥だらけの子供が一人、立ってますう。衣服らしき物も身につけていなくて全身が汚れにまみれ、髪もボロボロで胸と腰と足首には痛そうな傷が付いてますう。


「あ……あっ……」


 しかし、この子の目はとても綺麗な茶色でわたしの姿を見たその子は呆然として見つめているようでしたあ。


「なんで……人間の子供がこんな所に……ハッ……こうしちゃいられないですう!」


 わたしには、まさかこの子こそが村で噂の怪物だとはどう考えても思えませんでしたあ。こうしているうちにも本当に怪物が現れてわたしもこの子も襲われると思って……!


「この子は、わたしが助けますう!!!」


ガシッ!ビュン!!!


「うわっ!!!」


 わたしは、この汚れた子供を抱き抱えて急いでお家へ向かって飛びましたあ。もう怪物を見る余裕も無くなり疲れた身体にムチを打って一生懸命に家に向かって飛びましたあ。腕の中の子供の身体は冷たくて、早く温めないといけないですう。


   * * * * * * *


 やっとの思いで家に帰って来たわたしは森で拾った子供を洗おうと慣れない手つきで火を熾そうとしましたがあ……


「えっと、火を点ける道具は……ってあれ?あの子がいない……!」


 すると、お風呂場の方から


ドボン!!!


 と、何かが水に飛び込む音がしましたあ!わたしが慌てて様子を見ると、そこには……!


バシャバシャ!ジャバジャバ!


 拾った子供が湧き水のお風呂で身体を洗っていましたあ!!!泥だらけの身体で直接入ったのだからお風呂は茶色く濁っちゃいましたあ……。


「わ……タオルとか、持ってこなくちゃあ!」


 わたしはすぐにタオルと着替えを持って来て泥の落ちた身体を拭いてあげましたあ。子供の身体は泥が落ちて綺麗になってお腹の下を見ると、この子は女の子だと分かりましたあ。


「い、今から暖かい服着せますからねえ」


 わたしはタンスから出した幼い頃着てた服をこの子に着せて、傷には包帯を優しく巻いて、わたしのベッドの上に眠らせましたあ。


「すう……すう……」


 安心しきったのか、すぐに眠りましたあ。その後、わたしは……


「こんなに汚れるなんて、初めてですう……」


 水風呂の湧き水が汚れを押し出す所を見つめ、綺麗になった所で入りましたあ……。


「明日はこの子がどこの子なのか、それと、なんで森の中にいたのか聞いてみますう……」


   * * * * * * *


 朝になりましたあ。わたしは野菜スープを作って昨夜保護した子供を起こして飲ませてあげましたあ。


「お、美味しいでしょうかあ……」

「うん……うん……」


 とても美味しかったのでしょうかその子の目は潤んでいましたあ。わたしはその子の事を知りたくて色々聞いてみましたあ。


「えっと、ひとつお聞きしますが、あなたはどこから来たのでしょうかあ」

「知らない」

「では、いつ頃から森にいたのでしょうかあ」

「さあな」

「お家はどこにありますかあ?お父さんとお母さんはいますかあ?」

「……それも知らない。ずっと前から俺一人で生きてきた。……で、お前はなんで俺を拾ったんだ?」


 わたしは答えましたあ。


「困っている人がいたら助けましょうってお母さんから教わったからですう」

「……そうなのか。それで俺をここまで運んでったって訳か」 


 この子も何か訳ありだったのでしょうかあ。この小さな身体で良く生きてきた事に驚く他はないですう。わたしは少し考えましたあ。


「シビルちゃんって、呼んでいいですかあ?」

「シビル……それ俺の名前か?好きに呼べよ」

「わたしはグラスといいますう。これから色々とよろしくお願いしますう」

「ふん……」


 咄嗟に思いついた名前を付けて、わたしはその子供、シビルちゃんと一緒に暮らす事にしましたあ。それにしてもこの子はどこから来て、何故森にいたのかもそのうち思い出すかもしれないですう。それまでの間は、わたしが責任を持ってシビルちゃんを守らないといけないですう。


 これからは、わたしとシビルちゃんの生活が始まりますう。支え、支えられの関係が長続きして欲しいと思っていますう。


 第6話へ続く。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る