第4話 誰かの役に立ちたい

 わたしはグラス・グラキエースですう。サクスムとリヴィエールというとてもすごいドラゴンの間に生まれましたあ。両親から沢山の愛情を貰ったわたしは15歳になると、遠くの山の家に連れられて、ここで一人で暮らす事になりましたあ。


 初めて一人で過ごした夜は、とても辛くて眠れませんでしたあ……。けど、わたしはこれから沢山の人達の役に立って、いつか立派なドラゴンに成長して見せるんですう!


 初めての朝が来ましたあ。わたしの初めの一歩はここから始まりますう。


   * * * * * * *


 わたし達ドラゴン族の家は主に山の中腹に建っているのですう。人間はもちろん他の種族では立ち入りが困難な所に出来ている事が多いですう。元々住んでいたお父さんのサクスムの家も険しい岩山の中腹にありましたあ。今のわたしの家は、比較的穏やかな気候の山の中腹にありますう。


 わたしの家の寝室に、朝日が差しましたあ。


「もう……朝になったんですねえ……」


 わたしは寝間着からいつもの服に着替えましたあ。背中が大きく開いた水色のシャツの左胸には、氷の翼を広げるドラゴンのエンブレムが付いていますう。これは、大人になったわたしを想像して理想のドラゴンの姿を反映していますう。それから、尻尾がくぼみに収まるようにした灰紫のホットパンツ、足の爪を覆うための青い革靴、そして髪の片側に青いシュシュが、わたしのお気に入りの服装ですう。


「着替えたら、なにか食べなきゃですう……」


 わたしは家に置いてあったパンを食べてから家の外に出てみましたあ。家の外は程々に広くて崖下には森が広がっていますう。昨夜の崖から見た夜に明かりが点いてた所には村が見えますう。


「まずは、あの村に行ってみましょうかあ」


 わたしは翼を広げて、山をゆっくりと降りて麓の村へと行ってみましたあ。


   * * * * * * *


 麓の村に着きましたあ。看板には『アルブル村』と書いてありますう。村には色々な人が住んでいて、人間の他にもビースト族も住んでいるみたいですう。わたしは意を決して入ってみましたあ。


「わたし、周りから浮いてないでしょうかあ」


 すると、わたしに気付いた村人が近寄って。


「おや、見かけない顔だね。大きな翼と尻尾、君は見た所ドラゴン族か」

「はい、グラスといいますう。昨日ここに引っ越して来たばかりでしてえ」

「ではこの私がこのアルブル村を案内しよう。さあ、付いて来てくれたまえ」


 なんだか優しそうな男性の案内で、わたしはアルブル村を見て回る事になりましたあ。


「ここが雑貨屋。食べ物や衣服などはいつもここで買っているよ」

「美味しそうなパンも沢山ありますねえ」


「次に農場。色々な野菜を栽培してるよ。ここで採れた野菜は遠くの街でも有名だ」

「人間も他種族も働いていますねえ」


「こっちの川では美味しい魚が沢山獲れるよ」

「美味しそうですう……ジュルリ」


「そしてアルブル村名物の風車だ。ここは山が近くにあるため良い風が吹くんだよ」

「すごいですう。初めて見るものですう」


 こうして、アルブル村の設備を一通り案内させてもらった後……


「あとは……んっ?」

「ど、どうしたんですかあ?」

「木の上に猫が!これはこの村一高い木だ!とても私達には登れないぞ!」


 木の上で身動きが取れない猫がいましたあ。今にも泣き出しそうな顔をしてますう。


「わ、わたし、助けに行きますう!」


フワッ


 わたしは翼で飛び上がって木の上の猫を優しく抱えて降りて来ましたあ。これも両親が飛び方を教えてくれたおかげですう。


「助けてあげましたよお」

「にゃ〜」

「素晴らしい。さすがはドラゴン族ですな」


 すると、男性の横に6歳ぐらいの男の子がこっちを見ているのに気が付きましたあ。


「あ!俺ん家の猫!良かった!探してたぞ!」

「にゃーん」


 男の子が子猫を抱えて言いましたあ。


「すげえ!ドラゴンは本当に飛べるんだな!」

「え、あ、はいい……」

「俺はエイリーク・ブレイバル!大きくなったら勇者になるんだ!!!」

「私はグラス。氷のドラゴンですう」

「グラスっていうのか、よろしくな!」


 エイリーク君は猫と一緒に家に帰り、一部始終を見ていた男性は私に言いましたあ。


「彼は冒険ごっこが好きな子でね。良ければ付き合ってあげると喜ぶと思うよ」

「そうなのですかあ」

「さて、明日からここで色々な事をしてみんなから信頼されるようにならなければな」

「は、はいっ!わたし、頑張りますう!」


 わたしはひとまずアルブル村から自宅へと帰って、明日に向けての準備をしましたあ。


   * * * * * * *


 次の日から、わたしのアルブル村でのお手伝いの日々が始まりましたあ。


 「この荷物を漁師さんの家にお願いね。くれぐれも落とさないようにね」

「はいっ!やってみせますう!」


 雑貨屋では、空を飛ぶ能力を活かしてお届け物を運んだりしましたあ。


「こんにちは〜お届け物ですう」

「おっ、予定よりも早かったな……ってお前が噂のドラゴン族か、ずいぶん若いな」

「はい。グラスと言いますう」

「グラスか。そういえばエイリークの坊主の話によるとお前は氷のドラゴンだとか……それなら俺の話も聞いてくれるか?」

「何でしょうかあ……」


 わたしは漁師の男性に案内されて、生け簀に保管されている魚を見せてもらいましたあ。


「この魚を遠くの街へ運びたいけど、運んでいるうちに傷んじまうんだよなあ。氷のドラゴンだというのならこの魚を凍らせる事さえ出来れば、もっと遠くへも運べそうな気がするが……」

「それなら任せて下さい。まずは必要な分を生け簀から出してくれますかあ?」

「分かった……よし、必要な分出したぞ。では、ここからどうするんだ?」

「こうするのですう!!!それえっ!!!」


ヒュウウウウ……シュピィン……!!!


 わたしが魚に向かって魔力を放つと、周囲の水分が一瞬で凍って魚は冷凍されましたあ。これなら鮮度を保てそうですう。


「おおおすげえ!これなら街まで運んでも大丈夫そうだな!ありがとよ!」

「どういたしましてですう!」

「街へ運んで出た収益は後でお前にあげよう」

「こちらこそ、ありがとうございますう!」

「お前はまるで、ドラゴン族の英雄であるサクスムとリヴィエールを彷彿とさせるな」 

「え、え……ええっ!!!」


 そう言われたわたしこそが、実はそのサクスムとリヴィエールの子供だなんて、とてもじゃないけと言えなかったですう。


   * * * * * * *


 っと、まあ、その、こんな調子でわたしは村の人達の色々なお仕事をわたしなりのやり方で手伝ってあげましたあ。仕事のお礼にお金や食べ物もくれてわたしは籠いっぱいのご褒美を持って山へ帰ったのですう。


 「今日の夕飯は、凍った魚をこのまま食べちゃいましょう!」


 わたしは両親と過ごしてた頃から魚料理は好きでしたけど、氷の能力の使い方を覚えてからは凍らせてそのまま食べるのが癖になっちゃいましたあ。


バリバリ!ジャリジャリ!


「はあ〜美味しいですう〜♪みんなの役に立つ事がこんなに嬉しい事だなんて〜♪」


 わたしは明日に向けての元気も補充した後服を脱いで家のお風呂に入りましたあ。お風呂といっても、わたしはお湯に入るとお湯がぬるくなってしまうのですう。ヴォイテクさんの話によるとちょうどここに水が湧く所があったのがこの場所に家を建てた理由みたいだったんですねえ……。


「はああ……冷たすぎない良いお風呂ですう」


 常に水が湧いていてどんどん外に流れるのでほとんど掃除も不要なのですう。さすがに氷に適応した種族以外が入ると冷たすぎて入れないみたいですがあ……


「明日も役に立ってみせますう……おやすみですう……」


 お風呂から出た後は寝間着に着替えて布団で眠るのでしたあ……。でもやっぱり一人ぼっちの夜はとても寂しいですう……。




 その晩、森のどこかで。


「なんだ……周りがガサガサ鳴ってる……何者なんだ!!!」


「ウガアアアアッ!!!」


「ひいっ!バケモノ!うわああああ……!」


 第5話へ続く。

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