第17話 涼風の儀式

「ねえ、お父さんとお母さんはいつどこで会ったのですかあ?」

「散歩してたら、たまたま会ったの」

「お父さん、どんな感じだったのお?」

「図体デカくて、いかにも野蛮な感じだったわ」

「それで、いつもケンカしてたんだよねえ」

「あの人はやる事なす事が一つしか無いから、何回戦っても楽勝だったのよ」

「じゃあ、なんでお母さんはお父さんと結婚したの?」

「私の子供の父親になるのにふさわしい人だからよ」

「ええ?いつもわたしを振り回して泣かせて、あとでお母さんにひっぱたかれるお父さんが……?」

「そういえば、グラスにはまだ話していなかったわね。6年ぐらい前に何があったかを」

「それってなあに?」

「ある鉱山が事故で崩れ落ちて、中にいる人達が閉じ込められた時に私とお父さんが一緒に助け出したの。あの時のお父さん、カッコ良かったのよ」

「そうなんだあ……わたしも大きくなったら、とってもカッコイイのに会えるのかなあ……」

「会えるわよ、きっとね……」


   * * * * * * *


ぱちっ


「もう、朝になりましたあ……何だか昔の夢を見ていた気がしますう……」

「zzz……」

「シビルちゃん、まだ寝ていますねえ。わたしは先に着替えておきますねえ」


 わたしは羽毛のベッドから起きると、昨日お土産に買ったバード族の羽根で作った服を着て、シビルちゃんの分も用意しておきましたあ。


「んんん……グラス、おはよ……って、その格好は……」

「シビルちゃん、おはようございますう。昨日の服、着てみましたよお」

「そんじゃあ、俺も着ておくか……ふああ」


 シビルちゃんも着替えると、宿屋で朝食を食べて、ヴェーチェルさんの所へと行きましたあ。


「ここも豆や木の実ばっかりの料理だったな」

「こういう質素なのを食べているから高く飛べるのでしょうねえ」


 シビルちゃんを抱えて所定の場所まで飛ぶと、そこにはヴェーチェルさんが仲間達と待っていましたあ。


「グラスとシビルか。私達もちょうど今来た所だ」

「いよいよなのですねえ……では、始めましょお……」


 ヴェーチェルさんは私達をこの集落で一番大きな木の前に案内しましたあ。幹には伝統の飾りも付いていますう。周囲には沢山のバード族達が儀式を見ようと集まっていますう。


「とても大きな木ですう」

「アルブル村でもここまでデカい木は無いな」


 木の大きさに圧倒されるわたしの隣で、ヴェーチェルさんが仲間に呼びかけましたあ。


「我々バード族は古くから木と共に暮らしていた。それはこれからも同じだ。これより行う儀式は、我らの暮らしをこれからも続けて行くために先祖代々続けてきた事だ。皆のもの、準備は良いか!」

「「「「オオオオーーーーッ!!!!」」」

「はいですう……!」


 ヴェーチェルさんの呼びかけに、4人のバード族とわたしは応えましたあ。


「今回はドラゴン族のグラスが負傷した仲間の代わりに儀式に参加している。だがこれもまた、様々な種族が手を取り合う時代に向けての事だ。では、始めようではないか」

「頑張れグラス。俺は地面から見てるぞ」


 こうして、わたしを加えたヴェーチェルさん達の儀式の時間がやって来ましたあ……!上手く、いくのでしょうかあ……!


「まずはこの木の前で、円陣を組む」


 わたし達は、その言葉に従って6人で手を繋いで円陣を組みましたあ。お母さんの鱗で出来たミサンガの付いた左手には、ヴェーチェルさんの手が握られていますう……思ったより、温かいですう……!


「次に、ここから空の上を見つめよ」


 手を繋いだまま、わたし達は空を見上げましたあ。すぐ隣にはヴェーチェルさんがいて、視界をそっちに向けたいのですがあ、今は空をまっすぐ見つめるのですう……!


「その空を見たまま、飛び上がれ」


ビュンッ!!!!!!


 わたし達は背中の翼を羽ばたかせて真上に飛び上がりましたあ!わたし自身も周りの勢いに合わせて飛びましたあ。ヴェーチェルさんが事前に段取りを教えてくださいましたがあ、ぶっつけ本番は緊張しますよおっ!!!……こうして今わたし達は空の上にいますう。真下にはシビルちゃんと、儀式を見守るバード族達がいますう。


「この大木の周りを飛び回り、風を起こせ」


ヒュゴオオオオ……!


 ここから、みんなで木の周りを囲ってその周りをぐるぐる飛び回って風を巻き起こしますう。わたしはヴェーチェルさんの後ろを飛んでいるのですがあ、飛んでいる姿もカッコ良すぎますう!!!わたしなりに氷の魔力は抑え込んでいますがあ、少しばかりキラキラとしたものがわたしの翼から飛び散っていますう。


「飛び回りながら、ゆっくりと下降して、風を巡らせよ」


ビュオオオオオオオオ……!!!


 いよいよ、儀式も終わりが近付いて来ましたあ……!わたしとヴェーチェルさん達は木の周りを回りながら、地面に向かってゆっくりと降りて行きますう。こうする事で、この木が風の加護をまとう事でみんなのチカラが森全体に行き渡って森が豊かになるみたいですう。わたしの氷の魔力も、きっとこの森に良い影響を与えてくれますように……そう思いながら、この木の周りを回っていたのでしたあ……!


「最後に地面に降り立ち、皆の前に立つ事でこの儀式の全ての過程は完了する」


 いよいよ、地面が見えて来ましたあ。着地の姿勢を整えて、地面に……!


スチャッ!!!!!!


 六人同時に、着地しましたあ。


ワアア……パチパチパチパチ……!!!


 地面に降りたわたし達を地元の人達は拍手で迎えてくれましたあ。何はともあれ、最後まで出来て良かったですう……!


「お帰りグラス。お前の飛んでいる姿、すごく綺麗でカッコ良かったよ」

「良かったですう!わたし、頑張りましたよお!」


 シビルちゃんと喜びを分かち合っている所に、ヴェーチェルさんが来て言いましたあ。


「グラスよ、此度の協力、本当に感謝している」

「いえいええ〜困っている人は放っておけないのでえ……」

「グラスの氷の魔力、私も良く見えていたよ。きっとこの森にも良い影響を与えてくれるかもしれないな」

「……あっ、あのっ、ヴェーチェルさん……」

「どうしたグラスよ」

「実はわたし、あなたに言いたい事が……!」


   * * * * * * *


 儀式の日からだいぶ経過して、冬がやって来ましたあ。わたしはいつものように、郵便屋さんから受け取った手紙を見てみましたあ。


「ヴェーチェルさんからですう」


―――――――――――――――――――――


 グラスよ、シビルよ、元気にしているか?ヴェーチェルだ。


 先日、我らの集落に雪が降り注いだ。この辺りでは数年ぶりの雪だ。きっとグラスが振り撒いた氷の魔力が雪を呼び寄せたのだろう。この雪は必要以上に積もらずに集落の景色を美しく染めてくれた。先日負傷した仲間も、今は元気に飛び回れるようになった。改めて、儀式を手伝ってくれて感謝する。もし出来る事ならば、もう一度グラスを儀式に呼んで飛んで欲しいと願っている。しかし君にはこの地でやるべき事があって、そこにいるシビルを守らねばならぬのだろう。私達も私達のやるべき事を続けていく。それぞれの使命を最後までやり遂げたなら、もう一度会いに行こう。私とグラスは種族こそ違えど親愛なる者だと思っているよ。これからも、この羽飾りを通して君達を見守ってあげよう。では、また会う日まで。


―――――――――――――――――――――


 手紙には、ヴェーチェルさんの緑の羽根を束ねた大きめの耳飾りが入っていましたあ。


「これがあればヴェーチェルさんと一緒に……えへへえ……」

「嬉しそうだな、グラス。いっちょ前に俺の分も用意されているしな」

「出来ればどっちも着けてたいですう……///」


 もし同じ種族なら、もっとお近付きになれたかもしれませんが、ヴェーチェルさんもわたしの事を想ってこれをくれたのに違いないですう……。さて、色々な種族に会いに行く旅はひとまずお休みして、今度はどんな所へ行ってどんな事をするのか……これからゆっくり、考えていたら、だいぶ時間が経っちゃいましたあ……。


 第18話へ続く。

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