第5章 言いたくない過去

第18話 背丈も伸びて

 ずっと昔にあった鉱山事故から作業員達を救った、ドラゴン族のサクスムとリヴィエール。


 その二人の間に生まれたドラゴン族のわたし、グラス。


 独り立ちして間もない頃に森で出会った人間の孤児、シビル。


 わたしとシビルの暮らしを支えてくれた、アルブル村の住民達。


 知見を広めるための旅で出会った、ペルルさんやヴェーチェルさんといった他種族の人達。


 色々な人達と交流して来たわたしとシビルは、気が付いたら出会ってからもう4年の歳月が流れていたのでしたあ。




「エイリーク君、お誕生日おめでとうございますう!」

「これからも、冒険ごっことか勉強とか、沢山したいよな」

「グラス!シビル!ありがとよ!!!」


 この日、エイリーク君は10歳の誕生日を迎えましたあ。


「エイリーク君もシビルちゃんも、初めて会った日からこんなに大きくなりましたねえ」

「確かに、俺の背丈、エイリークとほぼ一緒だよな」

「細かい事はいいから、みんなでケーキとか食べようぜ!」


 美味しそうに料理を食べるエイリーク君。シビルちゃんの背丈も同じくらいだから、この子も10歳頃なのでしょうかあ。


「どの料理もすごい美味しい!これってグラスとシビルが一緒に作ったんだよな!」

「そうですけどお、シビルちゃんもわたしの料理の仕方を覚えてからは美味しい料理を色々作れるんですよお」

「グラスが作ってるのを見てたら自然に覚えた。それだけだ」

「今度は俺にも料理のやり方教えてくれるかい?これからの冒険家は料理も出来ないとだから!」

「それはいい考えですねえ!じゃあ近い内にみんなで採った食材でやってみましょお!」


 そんなわけで後日、わたし達はエイリーク君に料理のやり方を教える事になりましたあ。


   * * * * * * *


 天気にも恵まれ、その日はやって来ましたあ。


「今日はこの森から食材を必要な分採って来て下さいねえ。わたしもお仕事しながら集めてみますう」

「分かった!シビル、準備は良いか?」

「ああ、成長した俺達のチカラを見せようぜ」

「それでは頑張って下さいねえ!」


バサァッ!


 グラスが飛んだのを見届けると、俺とエイリークは森の中を進み始めた。


「なあエイリーク、お前はこの冒険ごっこというのを何歳からやってた?」

「5歳からやってたよ」

「始めた理由はあるのか?」

「外の世界にはすごい事がいっぱいあるって見て聞いて、気が付いたら始めていたって感じだな」


 大きくなった俺達にとって、この冒険ごっこも、お遊びの範疇はんちゅうから少しずつ離れていく感じがする。最初はただのお散歩程度の事でも、やがては自立して生きるための知恵に繋がっていく事になる。


「大量に山菜採ったぜ!」

「ここに沢山キノコがあったぞ」

「シビルは目の付け所が凄いよな!」

「ま、まあこんなもんよ……!」


 一方で俺は、グラスと出会う前はこの身一つで生き抜いていた。普通の子供みたいに遊んだり勉強したりも出来ず、食えるものは何でも食って、俺を傷付けようとする奴から身を守って、何をしても生き延びるための毎日を、あの日まで続けていた……!


「そういえば、グラスの話によると、シビルって、最初は一人ぼっちだったんだよな」

「ああそうだが……」

「シビルにも、父ちゃんと母ちゃんはいたんじゃないのか……?」

「それは……ウッ!……今はやめてくれるか……?」

「わ、分かった。悪かったな……」

「ともかく、まだ食材集めを続けよう……」


 その話題になると、俺は俺の記憶を塞ぐようにして拒絶した。いくら親しい関係でも、この話だけはしたくない。俺自身でも、なんでこの話題から逃げているのかが分からない……!


「これで必要な分は採れたな、帰ろうぜ、シビル」

「ああ……また一緒に食材集めしような……」


 とまあ、こんな調子ではあるが、俺もエイリークも、必要な分の食材を集めて、アルブル村へと帰還したのだった。そこには丁度今日の仕事を終えたグラスも来ていたのだった。


「二人共、お疲れ様ですう!」

「俺達もこんなに沢山、採って来たぞ」

「では、グラス師匠!料理のやり方を教えて下さい!」


 ……という訳で、エイリーク君の家の台所を借りて、お料理教室を始める事にしましたあ。


「食材を切る時は猫の手にして抑えますう」

「こうする事で間違って指を切りにくくなるんだ」

「ほお……確かにな」


 包丁の使い方を教えたり……


「熱した鍋はちゃんと見張っているんですよお」

「いつ吹きこぼれるか分からないからな」

「うおっ!もう吹きこぼれ出した!」


 火を点けた鍋に注意を促したり……


「グラス師匠は、誰から料理を教わったんだ?」

「お母さんのリヴィエールですう。小さい頃に色々な料理を食べさせてくれたんですよお」

「次の里帰りの時、エイリークも連れて行こうと思うが、どうだ?」

「行ってみたい!リヴィエールにも料理の仕方を教わりたい!」

「きっとお父さんのサクスムも気にいると思いますう」


 家族の事を話してたりしたら、ようやく完成しましたあ。


「さあ、まずはグラス師匠、お召し上がり下さい!」


 わたしがひと口頂くと……


「美味しいですう!強めの味付けが効いていますう!」

「よっしゃ!次はシビル!」


 俺もひと口頂いた……


「十分美味いな。これはエイリークが採った具か、こういう味がするんだな」

「だろ!見つけた甲斐があったぜ!」


 わたしとシビルちゃんも口を揃えて美味しいと言える出来栄えでしたあ。


「さて、後はこの料理を作ったエイリーク君の意見も聞いてみますう」

「こんなのもちろん……美味いに決まってるよ!グラス師匠!シビルも!ありがとよ!」

「師匠というのは大袈裟ですけど、今日は楽しかったですう♪」

「また一緒に、料理作ろうな」

「今度また、俺特製の料理を食べさせてあげるから、楽しみにしてくれよ!」


 今日も楽しい一日は過ぎていくのでしたあ……。


   * * * * * * *


 その日の夜。わたしはシビルちゃんから今日の事を聞かされましたあ。


「えっと、その……こういう事を聞かれて……」

「昔の事を質問されて……今日は、そんな事があったのですかあ……」

「ああ、いつかは言わなきゃいけないと思ってたんだが、グラスに会う前のもっと前の事、今でも思い出せないでいるんだ……」

「そうなのですかあ……それなら、わたしの知っている人達に手紙を送ってみますう」

「なんて書くんだ?」

「シビルちゃんみたいな子供が暮らしていた家を知りませんかって……これで何か手がかりが掴めればいいのですがあ……」

「そしたらきっと、俺の本当の家も分かるって事だよな……」

「時間はかかるかもしれませんが、これからシビルちゃんの本当の家族を見つけるためにも頑張ってみますう!」


 わたしはシビルちゃんを寝付かせてから、思いつく限りの沢山の友達に手紙を書きましたあ。


―――――――――――――――――――――


 お元気ですかあ?グラスですう。


 わたしは今、一緒に暮らしているシビルちゃんの本当の家族を探している所なのですう。あなたの住んでいる所の近くに、シビルちゃんみたいな子供が暮らしていた家の情報があれば、どんな些細な事でも良いので教えてくれると嬉しいですう。これはシビルちゃんの将来にも関わる事なので、どうかご協力お願いしますう!


―――――――――――――――――――――


「誰か、シビルちゃんの家族の事を知ってる人に繋がって欲しいですう……!」


 こうして、どこかにいるシビルちゃんの本当の家族に会わせるための手がかりを探す日々が、ここから始まったのですう……!


 第19話へ続く。

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