第19話 ずっと抱えていた
4年前、夜の森で出会ってから、一緒に暮らす事になったシビルちゃん。しかし、今日に至るまで、森の中で一人ぼっちだった事以外は誰にも分かりません。
そこでわたしは、知っている限りの人達にシビルちゃんの家族の手がかりを探して欲しくて手紙を出しましたあ。それから、早いもので数週間が経過しましたあ。しかし……
・シビルの家族の事は、俺も知らないな。
・海辺の人達もシビルの家族を存じませんわ。
・あの子は森でグラスに保護された以外に経歴不明だからねぇ〜。
「……返事はいくつか届きましたけど、手がかりに繋がる情報はまだ来ていませんねえ」
「別に俺はグラスとかが居てくれればそれでいいんだが」
「わたしも、シビルちゃんが居るから今日まで頑張って来れたんですう。でも、本当の家族がいたら会わせてあげたいんですう」
「……止めはしないし、どうしても見つけたいなら満足するまでやりな」
「そうですねえ!諦めずに続けていきますう!さて、次の手紙で、もう最後の一通ですう」
色々な手紙を読んでみて、最後に手に取ったのはヴェーチェルさんからの手紙ですう。
「わっ……ヴェーチェルさんからの手紙というだけでも……ハア……素敵ですう……///」
「何だその表情は……」
浮かれながらも、読んでみましたあ。
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久しぶりだなグラスよ、ヴェーチェルだ。
一緒に暮らしている人間、シビルの家族の事が知りたいのであるな。親愛なるグラスのためならば私も手伝うとしよう。私から伝えられる情報は……
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「何でしょうかあ……」
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実は10年ほど前に、私は人間だけが暮らす村を訪れた事があった。その村は鉱山で起きた例の事件を経た後も他種族との交流を拒んでいたようだ。だから私はバード族の翼をふかふかの蓑で隠して彼らの村を訪れた。
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「そんな村が、あったのですかあ」
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人間だけで暮らす事によって他の地域には見かけない文化も数多くあった。私が当時見た時には、ある家には生まれて間もない赤子がいた。その赤子が今も成長していれば、きっとシビルと同じぐらいだろう。
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「人間だけで暮らしていると、どんな文化があるのでしょうかあ」
「今はどこに行っても色々な種族を見かけるけどな」
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私はしばらくその村で過ごしていたが、ある拍子に隠していた翼がバレてしまい、その村の人間達は怒って私を追い出したのだ。
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「そうだったのですかあ……ひどい話ですう」
「何が
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あれ以来、あの村にはもう近付いていないのだが、今度人間の知り合いに頼んであの村を調べてもらうように言ってみる。私も、出来る限りの事はするつもりだ。有益な情報が手に入ったなら、また手紙を出す。それではまた会おう。
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「……最後の一文字まで達筆で、手紙越しにも伝わる魅力……憧れちゃいますう……///」
「だいぶ前に来たバード族の集落の香りもするな」
「さあて、感謝のお返事を書きますよお!」
わたしは手紙の返事を書いて、感謝の意を表し、長めの近況報告もしましたあ。文通するまでの仲に発展するなんて、思いもしなかったですう……。
* * * * * * *
一方、ヴェーチェルは知り合いの案内でかつて訪れた人間だけの村へと羽ばたいてやって来たのだが……。
「おかしい……周りの森も不気味なぐらい静かだ……まるでずっと昔から誰も住んでいない所のようだ……こ……これは……!!!」
* * * * * * *
それから数日後、わたしの所にヴェーチェルさんから手紙が届きましたあ。
「きゃっ……ヴェーチェルさんからですう!」
「またヴェーチェルか。アイツの事になるといつもこの調子だ」
ワクワクしながら、手紙を開きましたが……。
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残念なお知らせだ。
先日、私が手紙で語っていた村に行ってみたが、そこは既に打ち捨てられた廃墟と化していた……どこを探しても誰も住んでいない、完全なる静寂がそこにあった……。
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「えっ……!?」
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私はあの村の周りの森の近くに住む人達に話をしたが、何故村が廃墟になったかを知るものはいなかった。そこでひとつ提案があるのだが……。
シビルをその廃墟に連れていってくれるか。もちろん強制ではない、本人の同意が得られた時のみ行く事にする。
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「……ですってえ……」
「……その目、俺に来いと言うつもりだろ。分かってるよ」
「だから、シビルちゃんも、一緒に来て欲しいですう!」
「ああ、言うまでも無えよ」
「それじゃあ、すぐに返事を書きますねえ!」
わたしはすぐにシビルちゃんを連れて行くと返事を書きましたあ。
* * * * * * *
それから後日、手紙に記した合流地点にシビルちゃんと一緒に来ましたあ。
「ここなら分かりやすいと思いますう」
「おっ、何か緑の翼のが飛んで近付いて来たぞ」
バサアッ!
「待たせたな、二人共」
緑の羽をはためかせ、ヴェーチェルさんが迎えに来ましたあ。今日もカッコイイですう……///
「ヴェーチェルさん、今日はよろしくお願いしますう!」
「……よろしく」
「表情が堅いなシビル、遠足に行くつもりでリラックスするといい。もっとも、行き先は寂しい廃墟だけどな」
バサアッバサアッ!!
わたしはシビルちゃんを抱えてヴェーチェルさんの後ろをついて行きましたあ。だいぶ飛んだ先に森が見えましたが、確かに鳥が飛んでいる様子やリスが木登りしている様子なども見当たらないですう。
「そろそろ着くぞ」
「はいですう」
わたしはヴェーチェルさんと一緒に地上に降りましたあ。
「ここが、先日手紙でお話した村だ」
「あ……わ……わっ……」
その村は、今は誰も住んでいなくて、辺りには風化しかけた家がいくつかあって、木々も花も枯れ果てて荒涼とした空気だけがこの場所を包みこんでいましたあ……。
「シビルよ、ここに見覚えはあるか?」
「こ、ここは………………?」
シビルちゃんは、一生懸命に何かを思い出すように頭を抱える仕草を見せましたあ……。
「ちょっとしばらく、歩き回っていいか……?」
「分かった。私達が付いているから思う存分に見ていくが良い」
「シビルちゃんの家族の手がかり、見つかるといいですねえ……」
わたし達はシビルちゃんを見守りながら、廃墟の村を探索していきましたあ……。世の中には、こんなふうになってしまった所もあるんですねえ……。すると、ヴェーチェルさんが一軒の家を指差しましたあ。
「確か、この家が手紙で話していた赤ん坊が住んでいた家だ」
「そうなのか……だが、この家は老朽化が激しくて、お前達も入って来たら危険だ。俺だけで探してみる」
「分かりましたあ……」
「万が一の時は助けるが、無理はするな」
「じゃあ、行ってくる」
シビルちゃんは、色褪せた赤い屋根の家に入って行きましたあ。ここに、シビルちゃんの過去に関係する何かがあるのでしょうかあ……。それにしても、この村はなんで誰もいなくなってしまったのでしょうかあ……。そして、シビルちゃんはここで何を思っているのでしょうかあ……!
「ああ……ここは……全部覚えてる……あの日の事とかも……!!」
第20話へ続く。
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