第16話 空を見る者達

 マリーン族との交流からまたしばらく経ち、涼しい秋がやってきましたあ。わたしとシビルちゃんは仕事や勉強の合間に、バード族に関する知識を毎日少しずつ集めていたりしていましたあ。


 ある日の夕飯の時間。


「先日、またペルルさんから手紙が届きましたあ。アルブル村からみんなの歌を聴くために訪れる人が沢山来て嬉しかったと書いてありましたあ」

「これも、俺達が直接会って交流出来たから他の奴らも会いに行きたいと来たって感じだろうな」

「さらに言いますと、あの入り江の近くで暮らしている人達は、以前にも増してマリーン族との間での文化交流が盛んになったみたいですう」

「エサが足りないって襲ってきたサメ達もあれからおとなしくなったみたいだよな」

「そうですねえ。これからも穏やかな日々が続いてくれると嬉しいですう♪」


 夕飯を食べた後、またお互いのノートを見せ合ってバード族の情報をまとめましたあ。


「彼らの暮らす所は、ここから西にある木々の深い山にあるみたいですう」

「グラスの住んでる山は岩場が多くて、木はほとんど生えていないんだよな」

「そういう訳でもわたし達の暮らしとはかなり違うかもしれないですう」


 わたしとシビルちゃんはまたこの前のように行く支度をして、明日に備えて眠ったのでしたあ。


 次の日の朝。


「目指すは、西にある山の頂ですう!!!」

「ああ!行こうか!」


バサァッバサァッ……!


   * * * * * * *


 西の山に飛んで来たわたし達は、木の上に沢山の家が建っている様子を見ていましたあ。


「バード族はこういう所に暮らしているのですねえ」

「まさに自然と共生してるって感じだな」


 降りられそうな所を見つけて降りると、早速バード族のひとりがわたしを見て挨拶しましたあ。


「ようこそいらっしゃいました。ドラゴン族と人間が一緒に来るとは珍しいですね」


 バード族は、背中に猛禽の翼を生やし、尾羽を持った種族ですう。飛ぶ能力はドラゴン族にも引けを取らず、生活のほとんどを高所で過ごしていますう。


「えっと、たくさん飛んでお腹が空いたので、何か料理が食べれる所はあるでしょうかあ」

「それなら、こちらの店がオススメですよ」


 わたし達は、案内されるままにこの集落の食堂に来ましたあ。


「どうぞ、お召し上がりください」

「いただきますう♪」

「こういうのを食べてるのか……」


 わたし達の前に出された料理は、豆やナッツなどをふんだんに盛っていましたあ。


「これもなかなか美味しいですう」

「ずいぶん質素な飯だな……もう一杯おかわりしていいか?」

「いいですよお。わたしもおかわりしますう」


 ひとまず、お腹いっぱいになった後は、バード族の集落を見て回ることにしましたあ。


「ここの人達はいつも飛んで移動しているから足場はアルブル村より狭い感じですねえ」

「グラス、今はこの手を離すなよ。今離したら俺の命も離しかねないからな」

「大丈夫ですよお、しっかり繋いでいますう」


 足下に注意しながらも辺りを見て回ると、服屋さんを見つけましたあ。そこには、彼らの抜け落ちた羽根を使った服も色々売られていましたあ。


「おみやげにも良さそうな感じですう」

「確かに、他の服屋にはこんなの無いよな」

「わたしとシビルちゃんの分の服を買っておきますねえ」

「こういうのを見つける感性がグラスの面白い所だよな」


 大小揃った素敵な羽飾りの服を買って外に出ると、何だか数人のバード族が一箇所に集まっていましたあ。


「あんなに沢山、何をしているのでしょうかあ」

「見てみようぜ」


 わたし達はその様子を見てみましたあ。


「おお、ヴェーチェルが帰って来たか」

「あの集落の件、どうだった?」

「残念だが、駄目だった」

「そうなのか、それは困りましたのう……」


 沢山の人だかりの中心には、濃い緑の髪色をしていて、背中の翼も美しい緑色をしたバード族がいますう。何か大事な仕事があるらしいのですが、上手くいかなかったように見えますう。


「そういえば、先程ここにドラゴン族と人間が来訪しまして……」

「それは、君達のうしろにいる青い翼の方の事なのかな」


 緑のバード族はわたしの姿に気が付くと、その眼差しをわたしに向けましたあ。


「わっ……」

「どうしたグラス」

「あまりの目つきの鋭さに、キュンと来ちゃいましたあ……///」


 するとそのバード族は、わたしの前に来て挨拶をしましたあ。


「脅かしたようですまない。私の名はヴェーチェル。そこにいるのはグラスとシビルだね。君達の噂はすでに聞いているよ」

「は、初めましてえ、グラスですう!!!」

「そんで、俺がシビルだ」


 正直、緊張しっぱなしですう……シビルちゃんは落ち着いていますがあ……。


「普段はアルブル村で人々のお手伝いをしたり、先日マリーン族の集落を襲うサメを鎮めたそうではないか」

「そ、そこまで聞いていたのですかあ……」

「ああ、仕事柄、色々な所を飛び回って色々な景色や空を見ているからな」

「すげえな……それで、グラスに何の用があるんだ?」


 するとヴェーチェルさんはわたしにこう話したのでしたあ。


「実は明日、この辺りの風を清めるために、我々の一族に伝わる儀式を執り行う予定だが、参加者の一人が飛行中の事故で動けなくなり、このままでは人手が足りないという緊急事態なのだ」

「そうなのですかあ……」

「代わりに儀式に参加するバード族を探すために他の集落を当たってみたが、手一杯で手伝えないとの事だ」

「だから先程みんながっかりしてたのですねえ」

「そこでドラゴン族の君を見込んでお願いするが、この儀式に代わりに参加してほしいのだ」

「え……?」


 鋭い瞳のバード族に見つめられてこんなお願いをされたなら、わたしの答えは……!


「わたし、氷のドラゴン族なのですよお……!もしその儀式でわたしのチカラが加わったなら寒い風が吹いちゃうかもしれないですう……!」

「しかし、今は背に腹は代えられない状態なのだ。この通りお願いする。氷竜グラスよ、チカラを貸してくれないか、新たな空のためには、新たな風も必要なのかもしれないのだ」


 これ以上無い真摯な表情は揺らぐ様子が無いですう……でも、みんなの役に立つのがドラゴン族の習わしだから……!


「分かりましたあ!その儀式、わたしにもお手伝いさせて下さいいっ!!!」

「本当か!」

「はいっ!私なりに氷のチカラは抑え込んで見ますのでえ、よろしくお願いしますう!!!」

「ありがとう!儀式は明日だが、感性でやっても割となんとかなる儀式だ。だから気負わずにのぞんでくれたまえ」


 ヴェーチェルさんはわたしの手を取って、感謝を述べましたあ。


「で、でもお、まずは儀式の内容を簡単でいいので教えてくれますかあ?」

「それは、この後他の仲間もいる時に話そう」

「俺も見ているからな。頑張れよ」


 シビルちゃんにも応援されながら、わたしはヴェーチェルさんの仲間達との集会に参加して、儀式の内容を簡単に教わりましたあ。ちょっと難しそうな言葉も多いけど、その時何をするのかをしっかり聞いて覚えていましたあ。


「……以上だ。詳しい事は実際の儀式の中で詳細に話すとしよう」

「なんとなく分かった気がしますう、皆さん、明日はよろしくお願いしますう」

「バード族自慢の羽毛布団で良く眠っておくがいい。宿屋の手配は私がやっておく」

「ありがとうございますう。ヴェーチェルさん、優しくて素敵ですう……///」


 わたしとシビルちゃんは宿屋に案内されて、ふかふかの羽毛布団で眠りにつきましたあ。いつものベッドよりもふわふわで気持ちいいですう……。


「この布団も持ち帰りたいですう……zzz」

「帰り道大変になるんじゃないか……zzz」


 わたしは眠りながらも、今日出会ったヴェーチェルさんの事を思い浮かべていましたあ……。


「もしわたしがバード族なら、ヴェーチェルさんにお近付きしてみたいですう……zzz」


 こうして、バード族の集落の夜は過ぎていき、朝日が昇ってきましたあ。


 第17話へ続く。

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