第15話 わたしに出来る事
マリーン族の暮らしを見に行くために、南の入り江まで海水浴に来たわたしとシビルちゃんは、歌に誘われて来てみると、ペルルさんとその仲間達と出会って素敵な歌声を聴かせてくれましたあ。
「ところが、ここでも大変な事が起こったんですう!」
「そんな訳で、俺達も今まさに巻き添えを食らってる所なんだ」
槍を背負ったマリーン族のベルウさんによると、ペルル達の暮らす海に、意地悪なサメ達が近付いて来たみたいなのですう!この事態を放って置けないわたしは、すぐさま後を追ったのですう……!
「沢山のマリーン族達が岩場の方へと避難していますねえ」
「それにしても素早い泳ぎだよな。みんなこういうのには慣れているんだろうか」
水上から海の中の様子を見てみると、ペルルさんと思わしきものがここで暮らしているマリーン族のみんなを避難させていますう。そして、みんなが避難する方向の反対側では……!
「奴らを一匹たりとも俺達の町には通すな!」
「「「「うおおおおーーーっ!!!!」」」」
シャキン!シャキン!!!
ベルウさんと仲間の戦士達が数匹のサメ達と交戦していますう!華麗な槍さばきでサメの牙も折ろうとするぐらいの勢いですう!
「奴らが攻めて来るようになって暫く経つが、日に日に諦めが悪くなっているな……」
「ベルウ隊長、このままでは押し負けてしまいます!」
「くそ……奴らはどうしてここに攻めて来るんだ……!」
しかしサメ達はこちらが考えている以上にタフで、応戦するベルウさん達にも、疲れの色が見えて来ましたあ……
「どうするんだ?このままじゃ、アイツら全員やられちまうぞ……」
「みんなを、守らないといけないですう……!
シビルちゃん、今から出来るだけ遠くに泳いでペルルさんと合流出来ますかあ?」
「な、何をするつもりだ……?」
「説明する暇は無いですう!早く逃げて下さいいっ!」
「おいっグラス、まさか!?」
バシャッ!
わたしはシビルちゃんを泳がせて逃がすと、氷のチカラを全開放して、サメの群れに飛び込みましたあ!!!
「このチカラは、誰かを守るために……!!!やああああああっ!!!!!!」
ザブン!!!
すると、わたしの氷の翼は、海水の温度を急激に低下させて、サメの群れのいる海域は、氷水のように冷えていきましたあ……!
ザバザバザバアアアッ!!!
突然の温度の低下に驚いたサメ達は、一目散にマリーン族の住処から離れていきましたあ!
「これは……奴らが引いていく……この機を逃すな!追えっ!!!」
「「「「オオオオーーーーーーッ!!!!」」」」
ベルウさんと仲間達は、冷たくなった海水をものともせず、すぐさま逃げていくサメ達を追いかけましたあ。わたしは水面に上がり、追うものと追われるものを見つめましたあ……。
「ハア……これで、良かったのでしょうかあ……」
一方でシビルちゃんはペルルさんと一緒に、ベルウさん達がサメ達を追いかけている様子を遠くから見ていましたあ。
「グラス……ホントにやりやがったのか……!」
「海水の冷えていく感覚がこちらにも伝わってきますわ……すごいですわね……」
「ただいま戻りましたあ……なんとかあのサメ達を追い払えましたあ……」
こうしてわたし達は、先程ペルル達の歌を聴いた岩場に戻り、わたしがこのチカラでサメの群れを追い払った事をお話しましたあ。
「……それで、この翼を海水に入れて凍る寸前の温度まで冷やしたのですう」
「グラスの入ったお風呂はあっという間に水風呂になっちまうからな」
「この氷の翼があるために誰かと一緒に泳ぐのをためらっていましたが、こんな形で使ってみたのですう……」
「ともかく、私達を助けるためにそのチカラを使った事には感謝いたしますわ」
「これで奴らが二度とここを襲わなければいいんだけどな。いちいちここ来るのも大変だし」
「ペルル様、只今戻りました」
「あら、ベルウさんお疲れ様ですわ」
すると、ベルウさんが来てこう言いましたあ。
「逃げていった奴らを追いかけていたら、そこには彼らの住処があった。そこにはお腹を空かせたサメ達が沢山いた」
「まあ……!」
「どうやら何らかの要因でこの海域のエサが減ってしまったようで、不本意ながらも我らの住処を襲ってエサにありつこうとしていたようだ」
「そうだったのでございますね……」
「我々も、出来ればもう彼らとは戦いたくない。これ以上戦った所で双方とも損するだけだ」
ベルウさんは一連の出来事をペルルさんに報告していたのでしたあ。確かにこんな日々が続くのは耐えられないですう。
「じゃあ、こうしてみればどうでしょうかあ」
「グラスさん……?」
わたしは、ペルルさんとベルウさんに、ある提案をしたのでしたあ。
* * * * * * *
入り江での出来事から数日後、私宛に手紙が届きましたあ。
「ペルルさんからですねえ」
―――――――――――――――――――――
グラスさん、シビルさん、ごきげんよう。ペルルですわ。
あの後しばらくして、例のサメ達が住処の近くに現れましたが、ベルウさん達が彼らに美味しい食べ物を分け与えたので、彼らは感謝して本来の住処へと帰っていきましたわ。今後はこの海域で起きているエサの減少の原因を彼らと共に解明しようとしている所ですわ。グラスさんがこの事を提案してくれたおかげで、私達は海の平和へ向けて大きく進む事が出来ましたわ。それにしても、グラスさんの氷のチカラは凄まじかったですわ。あの海域はしばらく何の生き物も寄り付かない冷え冷えの海になってしまいましたわ。ですが、グラスさんの勇気ある行動を、私達マリーン族は大いに認めてあげますわ。この事件を解決に導いたお礼と言っては何ですが、綺麗な貝殻で作ったお守りを差し上げますわ。どうか、これからの二人の暮らしに幸運あらん事を。またこの入り江に行く事があれば私達が美しい歌声をまた聴かせてあげますわ。それでは、お元気で。
―――――――――――――――――――――
「貝殻のお守りか。ちゃんとグラスの分と俺の分もあるみたいだな」
「マリーン族のみんなも、サメ達と仲良くなれて良かったですう」
「このチカラで、他にも誰かを守れればいいよな」
「そうですねえ」
わたしとシビルちゃんは、海の恵みたっぷりのサラダを食べながら語り合っていましたあ。
「なあグラス、今度ペルル達に会いに行く時にはエイリークも誘っていいか?」
「いいですけどお、さすがに二人以上抱えて飛ぶのは大変ですう……」
「大丈夫だ、陸路で行けるルートならペルルの知り合いが教えてくれるみたいなんだ」
「え、知り合いって……?」
「何か、鳥のような翼の生えた種族で、バード族とか呼ばれている奴だ」
「バード族、ですかあ……そうですう!」
わたしは次に会いに行く種族をこの場で決めちゃったのでしたあ!
「今度は彼らの住処を訪ねてみる事にしますう!」
「おい、唐突だな」
「きっと彼らにもドラゴン族とはまた違う暮らし方があるかもしれないですう!今度行ってみましょうよお!」
「分かったよ。グラスが行きたきゃ俺も行くよ。ただし、そのチカラで何か事件を解決したいんだったら良く考えてくれよな」
「わ、分かりましたあ……」
その後、わたしとシビルちゃんはアルブル村でお仕事や勉強の傍ら、バード族の情報集めも始める事にしたのでしたあ。彼らはどんな暮らしをしているか、どんな考えを持っているか……楽しみは毎日増えていく一方ですう。あ、もちろん、ペルルさん達の所にはエイリーク君も誘ってまた来ましたよお。毎日聴きたい歌声だって言っていましたあ。
第16話へ続く。
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