第10話 毎日が楽しくて

 朝の光が山を照らし、わたしとシビルは目を覚ましますう。


「今日の朝ご飯は、今朝採れたこれを使いますう」


 料理が出来ると、シビルちゃんが起きてきましたあ。


「おはようグラス」

「おはようございますう。今朝食が出来た所ですう」


 わたしとシビルちゃんは朝食を食べますう。今日はいつもより美味しく出来た気がしますう。


「美味しいでしょうかあ」

「ああ、美味しい」

「良かったですう」

「なあグラス、そういえばこの卵料理、やけにデカいよな。これ、何の卵なんだ?」

「そ……それは、シビルちゃんにはまだ内緒ですう……」


 わたしにだってシビルちゃんに知られたら困る事のひとつやふたつあるんですう。それと、この卵料理は色々訳ありで、一ヶ月に一度しか出来ないのですう。……それはさておき、元気を付けたら今日もアルブル村へ出発ですう!


   * * * * * * *


 今日は村の食堂に、シビルと一緒に来ましたあ。何だか、特別なお仕事を頼むんだとか。


「グラス、シビル、良く来たな」

「これが今日の仕事なのですねえ。前のより設備が充実してますねえ」

「これって、この間のアレ……そう、かき氷だろ……」

「また食べたいって要望が思った以上にあってな。よろしく頼むよ、氷竜グラス!」


 そんなわけで、今日の仕事は村の食堂でかき氷を売る事になりましたあ。


「皆さんいらっしゃいませえ!かき氷はいかがでしょうかあ!」

「新シロップの『ブルーリゾート』というのもオススメだぞ」

「「「ひとつくださーい!!!」」」


 楽しかったお祭りの後、わたしとシビルちゃんのかき氷は想像以上に大人気となり、アルブル村の新しい名物になるほどの勢いになりましたあ。


「おおっ!お祭りで食べた時より美味しい!」

「前より味が増えて素晴らしい!」

「青いシロップ、何の味がするんだろう!」


 こうして暑い季節が終わるまでの間、定期的に村の食堂でかき氷を振る舞うようになりましたあ。


「氷を削るからくりも、知り合いの技士の間で研究しててさ。そしたらグラスも色々な仕事が出来るしこっちは毎日かき氷食べ放題になるし、ウィンウィンだろ!」

「それは楽しみですう。けど、手作りのかき氷も良さがあると思うのでまたやりたいですう」

「それにもっと味の種類も増やしたいしな。なんだかんだ言って、楽しいし」

「ですよねえ、えへへえ……」


 こうしてアルブル村の暑い季節は、溶けていくかき氷のように過ぎていくのでしたあ。


   * * * * * * *


 時が流れ、紅葉が綺麗な季節を迎えて、そろそろ寒くなる前にシビルちゃんに暖かい服を用意しようと思いましたあ。そう思ったわたしは、村の仕立て屋さんに来ましたあ。


「いらっしゃいませ。素敵な服をお探しですか?」

「わたし、ここで働いて、服作りをもっと極めてみたいんですう!」

「その熱意、いいですね!では早速……!」


 お父さんとお母さんと過ごしていた頃から、わたしの服はわたしの手で作っていましたあ。お母さんは子供の頃から服は自分で作ってて、大人になった後も実用と実益を兼ねた趣味として続けていたみたいですう。


「あらためてやっても、難しいですう……」


 思えば、わたしが6歳になった時にお母さんは服の作り方を教えてくれましたあ。今シビルちゃんが着ている服の一部にも、わたしが昔作って着ていた服の生地が使われているんですう。それと、シビルちゃんのショールに付いているあのワッペンの意味は、つらい思いをして黒ずんだ心を優しく包んで癒やしたいという想いを込めているんですう。


「全ては沢山の人の役に立つためですう……」


 こうしてわたしは何日かの間、この仕立て屋さんで沢山の服を作りながら、服作りの極意を習いましたあ。


「よし……これで……出来ましたあ!!!」


 こうしてわたしは、シビルちゃんにプレゼントする冬服を完成させたのですう。ついでにわたしの分の冬服も作っちゃいましたあ。わたしのような氷のドラゴンは寒い所でもへっちゃらですが、やはり周りの人から寒そうと思われるのもなんなのでえ。


「いつも頑張っているシビルちゃんにご褒美ですう」

「何かくれるのか?」


 わたしはシビルちゃんに、冬服を渡しましたあ。


「これからこれ着てけばいいのか?」

「はいですう。わたしの分もあるんですよお」


 シビルちゃんの体格に合わせて作った灰色のコートですう。胸元にはショールと同じワッペンも付けているんですう。わたしのコートは紺色で、羽が生えた身体にも対応した形になってますう。


「おお、あったけえな。なんか優しい気持ちに包まれてる気がする……」

「良かったですう。わたしのもどうでしょうかあ」

「グラスのも、暖かそうだな。これなら寒そうに見えないよな」

「ありがとうございますう!これからも一緒に頑張っていきましょうねえ!」

「ああ!やってやるよ!」


 気持ちも新たに引き締めた所で、やがて木々から葉っぱは落ち切り、冬が来ましたあ。


   * * * * * * *


 冬になると、アルブル村も周辺の森も雪が降り注いで辺り一面銀世界ですう。わたし達が今住んでいる所も、お母さんとヴォイテクさんがここなら気に入ってくれると選んで、出発の日まで内緒にしてたみたいですう。


「この様子じゃ、森での食材探しはしばらくお預けですねえ。エイリーク君と一緒に勉強しましょうかあ」

「ああ、分かったよ」


 冬でも変わらず働くわたしを、村のみんなは頼りにしてくれますう。お仕事が終わったら、エイリーク君との冒険ごっこにも付き合ってあげますう。


「雪の中でも、冒険は続けるぞ!」

「おーっ!ですう!」

「やけに気合入ってるな」


 いつも冒険ごっこをしている森も、雪が積もって様変わりしてますう。


「いつもの冒険ごっこの範囲でも何があるか分からないので今日はこの辺にしておきますかあ?」

「いや、雪が積もろうが進むのが冒険さ!俺には最高のドラゴンも味方に付けているし……」


ズボッ!


「うわあっ!」

「言ってるそばから窪みにハマっちゃってますよお!」


 すぐさまわたしはエイリーク君を引っ張ってあげましたあ。雪が積もった森はいつもより注意して進まないといけないですう。


「ハア……引っ張ってくれてありがとよ。」

「今回はわたしがいるから大丈夫ですけど、もしこれが一人の冒険だったら大変ですよお!」

「そうだよな。やっぱり仲間は大事だよな。さて、気を取り直してドンドン行くぞ!」

「その自信も、グラスのおかげって事かな」


 わたしはすっかり、エイリーク君の保護者みたいになっちゃいましたあ。なんやかんやで今日の目的地に着くと、お弁当を取り出してみんなで食べる事にしましたあ。


「雪景色を見ながら食べる弁当も、なかなかいいよな!」

「そうですねえ。このあんまんも美味しいですう」

「ああ!俺達、毎日が楽しくてしょうがないよな!」

「何だかんだで気が合うんだな、グラスとエイリークは」

「なあシビル!お前も毎日は楽しいか?」

「……ああ、楽しいよ」

「わたしもですう!ずっとこういう楽しい日々が続いてくれると嬉しいですう!」


 この雪景色を昨日までのわたしは、そう思っていたのでしたあ……!


   * * * * * * *


 朝が来ましたあ。目を覚ますと、いつも隣で寝ているシビルちゃんの様子が、何だかおかしいですう……!まるで、寒気に震えているような……!


「シ……シビルちゃん……!?どうしたんですかあ!?」

「う……あ……ああっ……!」

「シビルちゃん……うわ……すごいひどい熱ですう……!」


 シビルちゃんは、高い熱を出して苦しんでいましたあ……!わたしはすぐさま抱えてアルブル村の診察所へと運んだのでしたあ……!


 第11話へ続く。

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